四話『戸籍のない新入生』
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チャイムが鳴った。始業を知らせるチャイムだ。
本田は教卓に立ち、「四時間しか使えない。四時間の間に偽サイトを用意して個人情報を抜き取るのは現実的じゃない。だから、やる事はただひとつだ。だから、架空のショートメールを使って宅配ドライバーの偽造で解決する。」と説明する。
「そんなんすぐIPアドレスで身元割れるって」と鈴木が言うが、「ここはどこだ」本田は鈴木に訊ねる。
「今までの詐欺が一切露呈して来なかったのなら巧妙なセキュリティーが学園のインターネットに組み込まれているのは違いない。学園には個人情報が筒抜けだとしても学園外に一切漏れていないならここのネットワークは最強だ。」
本田の言葉に、出海奈は腕を組みながらうんうんと頷く。
「使うのはショートメールだ。当てずっぽうで電話番号を入力し大手通販会社のドライバーと言う設定でユーザーに近づく。反応があった者から中心に電話で個人情報を聞き出す。これを繰り返す単純作業だ」
本田が言っては、志田は、「今時そんな初歩的な詐欺じゃ騙せないでしょ」と本田の提案に呆れる。「それに効率も悪そうやァァァァァァ!」と頭を抱える布田。
本田は、「複雑なものより返ってシンプルな詐欺のほうが人は騙されたりする」と答える。
笹井は、「今日は別にお金を稼ぐ事が目的じゃない。」と生徒たちに助言する。「今後この学園で生きていくのなら乗り越えるべき壁だと思うわ」
笹井の言葉に、志田は、「なんか罪悪感が凄いよ…」
と目を逸らす。
「パソコンは」と増田が言うが、本田は、「今時スマホ一台で何とかなる」と答えた。
女子生徒はスマホを立ち上げる。生徒たちも次々とスマホを立ち上げた。
「それと」本田は口を開いた。「今朝見てみたら俺の携帯が以前のキャリアの電波では無く、この学園の電波に繋がっていた。つまりこの学園は意図的に全キャリアの通信手段が遮断され、無線LANで自動的に学園のインターネットに接続される仕組みらしい。お前らのスマホもそういう事になるな。唯一、ラビィを通さない電話はどういうわけか筒抜けにはならないらしい。昨晩試したが端末の通話アプリは普通に使えた。」
本田の説明に、「ほな重要な会話は通話アプリを使えばええんやな」と布田が微笑む。
だが増田は、「でも、おかしくないか」と本田を見つめた。
「なぜ通話アプリは厳重に監視されないんだ」
本田に指摘する。
「恐らく、学園側の目的がそもそも盗聴なんかじゃないって言うのと。普通の電話まで監視するのは法的、技術的に厳しいからだろうな」本田の説明に、出海奈は感心するような表情を浮かべる。
「じゃあショートメールで詐欺したら身元割れるじゃないか」と鈴木のツッコミに、笹井が、「出海奈先生。昨日から教室の端にある段ボールの中身はなんですか」と訊ねる。
出海奈は、「授業用の端末だ」と答えた。「ただし生徒寮には持ち込めないのが規則だ」出海奈はそう言うと、生徒たちに校章が付いたスマホを渡した。
「生徒寮以外の学園領域では使い放題だが、この端末で学生証アプリやラビィ、支払いは使えない」
と続ける。「じゃあなにに使えるんだ」とツッコミを入れる鈴木に、出海奈は、「授業。または個人的な詐欺。ただそれだけだ。くれぐれも自分の端末で詐欺をするな。学園セキュリティーに入っている分、自分の端末でもなかなか身元は分からないだろうが、こっちのスマホのほうが確実だ」と説明した。
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ピコン♪同時に着信音が教室に響き渡る。
「オイ、誰のスマホだ、授業中はややこしいからマナーモードに」と言う出海奈。
だが出海奈は自分のスマホだったことに気づき、「すまない、私のスマホだった」と続けその内容を確認する。
「誰だ。今私に空メールを送ったやつは」と言う出海奈。生徒たちは顔を合わせるが、次々と首を横に振る。
笹井が本田に顔を合わせるが、本田も顔を横に振った。
「まぁいい。今日の授業は個人情報集めだ。好きなようにやれ。本田に代わる」
出海奈に言われては本田は出海奈と入れ替わる。
「まずは総当たりでショートメールを送る係と電話に答える係で分担する。この時、電話番号が相手側にも露呈する。送った番号と違う番号から電話をかければ怪しまれるに決まってる。よって使う端末は五つに絞り込み、それを交代で行う。個人情報を集める係は五人と五人。合計十人だ。」
本田の指示に、志田が、「ちょっと待って、他の人は何をするの」と訊ねる。
「会話マニュアルをリアルタイムで作成したり、情報をワープロソフトに打ち込んだりする大事な役目がある」
本田の説明に志田は、「じゃあ私、ワープロの打ち込みをやる。スマホで長文打つのは得意だし」と答える。
鈴木は、「じゃあ俺はマニュアル係だ。増田もやろうぜ」と誘うが、増田は、「俺は対応がいいな…」と鈴木の誘いを断る。
「笹井は実行役のリーダーだ。全員の行動を見回ってくれ。」
本田の指示に、「了解」と頷く笹井。「でも」と笹井は疑問を本田にぶつける。「音はどうするの。同時に話したら音、聞こえるわよ」
笹井の言葉に、本田は、「場所を分けるに決まってるだろ。電話役は廊下、メール役は教室。マニュアル、ワープロ組は後方。」布田は「ほーん?」と興味を持つ。
本田は続けた。
「それに詐欺の電話対応なんて短い。長引けばいい反応だ。そういう相手と接している人だけ別室に移動する。」
本田の作戦に、「移動している間に怪しまれるだろ」
と増田がツッコむが、「だから最初に電波が悪いとか言って保険をかける」と続ける。
「アカン、本田を敵に回しとうないわ」と言う布田。
本田は、「相手はこっちが完全なドライバーだと思っている。多少の雑音が入っていようが問題はない。人間は自分が信じたい情報を勝手に脳内補完する」と説明した。
鈴木は、「じゃあ電話役は名優を用意しないとだな」 と続ける。
志田は「声が優しそうな人、明るく接しやすい人」と探した後、「布田‼」と布田を指さす。
布田は、「うぇぇ⁉」と驚いた。
「頼む布田、お前が適任者だ」
と頼み込む鈴木。「えッ、ええけど俺こってこての関西弁やし」と布田は躊躇う。
「関西人なんてこの世に何人いるんだよ!」と食い下がる鈴木。
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「ハイハイハーイ‼私、星野真澄‼演技派女優目指して頑張りまーす‼」活発な女子が立候補する。
「ね、盛田さんもやるよね?」星野は盛田に視線を向けた。「はッ、はい」盛田も断れずに頷いた。
本田は、「よし」と時計を見る。
「はじめよう」本田の号令と同時に、生徒たちは準備をはじめた。
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出海奈は教室から出て行く。
コツ、コツ、コツ。ハイヒールの音が廊下に響いた。
出海奈は理事長室へ向かう。
コンコン。
二回扉をノックする出海奈。
「楚々辺理事長、お時間よろしいでしょうか。」
出海奈は楚々辺の名を呼んだ。
「なんだ」
楚々辺は出海奈のほうへ顔を向ける。
「本田湊について調べていただきたいのですが」
出海奈の頼みに、楚々辺は、口元だけで微笑んだ。
「君が自分で調べたほうが面白い」
と言う楚々辺に、出海奈は、「面白いって…」と唖然とする。
「一年一組。本田湊。ひとつヒントを与えるとすれば…この男には…戸籍が無い」
怪しく嗤う楚々辺に、出海奈は、「え」と立ち止まる。
「入学する生徒全員の戸籍と家族構成は役所を通して調べているが…。そもそも存在するはずがない生徒ははじめてだ。」
楚々辺理事長は本田の入学願書を見ながら出海奈に情報を与えた。
出海奈は、「存在するはずがない…」と繰り返す。
「面白い男がいたものだ。」と楽し気に言う楚々辺に、出海奈は、「では、警戒すべきですか」と訊ねるが、楚々辺は首を横に振った。
「最初から警戒すれば違和感をあっちに察知される。何も知らないフリが賢明だ」と楚々辺は答えた。
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俯く出海奈。「他に知りたいことはあるかね」と言う楚々辺に、出海奈は、「いえ、結構です」と頭を下げ理事長室を出て行く。
廊下を歩いていた出海奈とぶつかる緑髪ロングヘアの女子生徒。
出海奈は、「オイ、気をつけろ」と女子生徒に言うが、女子生徒は何も言わず立ち去って行った。




