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『一組 ─今日からあなたたちは詐欺師です─』  作者: ミタラリアット
一年生 一学期編

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三十七話『私にとっての救い』


 放課後。


 廊下で「ついに刻限が訪れたようだな⁉我と貴様の間で交わされた因果律の契約…その封印を解く時が来た‼」と飛鳥に呼び止められる本田。


「…つまり約束通り来てほしいと」


 死んだ目で翻訳する本田に、飛鳥は「蝶が舞い降りる静寂な結界で俺と貴様二人きりだけの」とベラベラとポエムを並べるが、本田が冷静に「二人で話したいんだな。」と訳す。


 飛鳥は「こ、こんな…俺の言葉が通じるのk」と言いかける飛鳥を放っておき歩き出す本田。


「待て待て待て!」と飛鳥は誰もいない部室まで本田を連れて行く。


『オカルト研究部』と記された学級表札。


 まだ誰もいない部室で飛鳥は「折り入って頼みがある」と話を切り出した。


「俺と二人で《ある作戦》をして英雄にならないか」


 キラキラした瞳を本田に向ける飛鳥。


 本田は「帰る」とスクールバックを持っていこうとするが、「待て待て待て」と飛鳥は本田を必死に引き止めた。


「この学園の謎を解きたいんだ、そして悪事が渦巻いていると言うのなら二人でそれを阻止して、敵陣に罪を償わせたい‼詐欺を強要する時点でこの学校、正気じゃないだろ⁉」と高笑いする飛鳥。


 本田は、「そうか、じゃあ学園側に通告」とスマホを取り出すが、「わああああああ⁉」飛鳥は大声で焦る。


「き、貴様、主である俺がどうなってもいいのか」とパニック状態になる飛鳥に、本田は「これで俺が学園側の人間だったらどうするんだよお前」と制しながら、飛鳥にジト目を向ける。


「まさか、学園側からの刺客なんていないさ‼だってクラスメイトは皆クラスメイトだからな‼」


 爆笑する飛鳥に、本田は「ふッ…」とつられてしまう。


「クラスメイトのために動きたいのか?」と本田は飛鳥に問いかける。


 飛鳥は、「嗚呼‼」と楽し気に答えた。


 「なぜ数いる生徒の中から俺なんだ」と不思議そうに飛鳥を見つめる本田。


 飛鳥は、「俺の使い魔だからだ‼」と厨二病のポーズをしたまま愉快そうにする。


「はぁ…」と溜息を吐きつつ、本田は「…わかったよ、考えておく」と頷いた。


「なッ、おまッ、俺が、俺が俺が主でも嫌がらないのか」


 と動揺する飛鳥。


 本田は「別に」と飛鳥に背を向けスクールバックを持つ。


 そして飛鳥を振り返っては、「精々俺を優遇しろよ、ご主人様」と退屈そうに返して歩き出す。


 飛鳥は、本田が去る背中に嬉しそうに、「お前は俺の使い魔じゃない、最高の友達だ‼」と声をかけた。


 その言葉と、『お前は最高の相棒バディだ』と笑う白髪の男の声が、また重なり、足早に校舎を後にする。



 生徒寮。本田の部屋。


(情か…)


(違う)


 本田は思考を巡らせる。


(私情は駄目だ)


 と瞳を閉じる。


(いや…)


 瞬きをして切なげな表情を浮かべた本田は、


(全部…私情だ…誰に頼まれた事でもない)


 と心の中で呟いた。


 ぐったりと疲れ気味にシロクマの抱き枕を抱く本田は、脳裏で様々な事を考える。


 星野は無事なのか。


 笹井の指輪は何なのか。


 そもそも本当に競技祭を成功させる事が出来るのか…。


 同級生たちへの情も湧きはじめ、内心冷静ではいられない自分を嘲笑しつつ、「押し殺すって決めたのに」


静かに独り言を漏らした。



 一方の楚々辺理事長は、研究所から理事長室に向かっていた。


「笹井のぞみ、か。一人でここまで企てたとすれば大した者だ」


 スマホに表示される笹井の顔を見ながら微笑む楚々辺。


 彼が理事長室の扉を開ければ、「理事長、お帰りなさい」茅野が普段通り楚々辺を敬い、コーヒーを差し出す。


 淹れたてだ。


 楚々辺は茅野に、「今日、変わったことは無かったか?」と問いかけた。


 鋭い目線。


 普通なら怯んでしまうほどのそれが、茅野を捉える。


「いえ。どうしてですか」


 首を傾げる茅野。


 何もわかっていないような口ぶりだった。


 楚々辺はパソコンを開く。


 学園のネットワークを知らせる英数字をクリックしては、最終更新が今日の昼間と記録されていた。


「…茅野。お前は私のエージェント…そうであることは忘れていないな」


 楚々辺が再確認しては、茅野は機械的な声で、


《もう一人のエージェントが追加されています 設定を変更するには第二のマスターが設定した特別なパスワードを音声で入力して解除してください》と繰り返す。


 楚々辺は、急いでパソコンを調べた。


 すると画面には、『USER2』の文字が。



「…面白い。このカラクリに気づく者が一年一組にいたとは」


 だが楚々辺は動じることもなく不敵な笑みを浮かべる。


「茅野。私は君を期待していたよ。でも。敵の手の内にハマるような《エージェント》は不要。これからの君はただの監視ロボとして、学園の巡回だけ遂行してくれ」


 楚々辺は茅野に優しい声で伝える。


 茅野は胸を手で抑えながら、「わかりました…」

 と震えた声で答えた。


 トボトボと理事長室を出る茅野の後ろ姿と入れ替わりに、さくらが理事長室に入ってくる。


「まさかお父様が茅野さんを見限るとは思っていませんでしたわ。でも…いいの?あんなに便利な駒。二つもありませんわ」


 さくらが父の行動を不審に思えば、楚々辺は、


「…私が求めているのは人工知能ではない。【暴徒】を再構築するための《研究データ》だ。私は…《人間の記録》が欲しい。…適性がある本当の人間のエージェントを既に抑えた」とさくらに説明する。


 さくらは、「なるほど。察しましたわ」と楚々辺に答えた。



「では私は…この学園の【危険因子】との接触を続けます。」と伝える。


「待ちなさい、一組の裏で糸を引いているのは恐らく」さくらは父に振り返る。


「お父様はまだそんな段階でしたの?ご安心を。私はもう見当はつけていましたから」


 さくらはそう言うと理事長室を出て行った。


 楚々辺は、「…」と黙って娘が去った背中を見つめつつ、茅野が淹れたコーヒーを一口飲んだ。


(本田湊がここまでする理由は一体…盛田といい…なぜ今期はこんなに変わったやつがうちに入ってくるんだ…。過去にももちろん…ネズミのようなやつは度々来ている…全員葬れたはずだ…なのに…)


 楚々辺は、組んだ両手の上に額を乗せた。


(私の計画は…そんなにも【悪】か…)


 楚々辺は理事長室のデスクの後ろに校章よりも大きく飾られたロゴ入りの旗を眺めた。


(…私にとっての、救いだったんだ)

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