FILE38『学園の権限』
翌日。通常通りの授業がはじまるのを前に、本田はラビィの三人だけのグループで作戦会議ではない適当な雑談を飛鳥や佐田としていた。
そんな時、スマホの向こうにいる佐田が最初に、『うぉあ、監視役来たわまたね』とラビィの通話を遮断する。
飛鳥もその後すぐの事だった。
(んじゃ俺もそろそろか)と制服のブレザーを羽織り、扉の内鍵を開けると、「え」と本田はいつもと違う監視役、それも女性の姿に驚く。
「本田、会長様がお呼びでございますわ」
どうやらさくらの監視役らしい。と、いうのも彼女に話を聞いてみれば生徒会の監視役というのは【ほぼ雑務】らしく。
学園一の権力を持っていると言っても過言ではない生徒会の命令に断る権利はないという事だった。
(あのお嬢が一体なんの御用なんだか)
なぜか女性に連れられている本田にチラチラと視線が集まる。赤い華やかなドレス。
だが、本田はその豪華な装いの監視役を見て、(おいおい、まさかそっちにまで【階級】が?)
なんて考えてみるが、証拠も何もない今では意味も無い事だ。
「でも、不思議ですね、俺のいつもの監視役のあのマッチョな人と眼鏡の無愛想な人は今何してるんですか」
本田が訊ねると、女性の監視役は「気になります?ですが…あの二人は今頃理事長にお会いしているでしょうね」と口角を緩めた。
「どうして」とさらに問いかける本田に、「昇級…」と女性の監視役は呟く。「の、お誘いでしょうか」とよくわかっていないのか、女性は首を傾げつつ、校舎の階段を上って二階から理事長室へ向かう。
本田は上履きが下にある為に職員用のスリッパを履きつつ、生徒会室へ脚を運んだ。
さくらの監視役の女性は一礼して生徒会室から離れて行く。
「ごきげんよう、本田湊くん」
さくらの声に、本田は視線を合わせた。
いつもの二人はいないようだ。
「あなた、茅野さんをクラス委員にしようとしたんですって」
さくらの言葉に、本田は「なぜそれを」と瞬発的に言うが、
「茅野さん本人からです。彼女が学園と内通している事まであなたは辿り着いていた。」
「ならなぜそんな位置をクラス委員に?実際、裏切ろうとしている彼女が無理矢理クラス委員なんかに祀り上げられたら学園の目は笹井さんに向きます。あなたはその視野が欠けている」
さくらの指摘に、本田は目を何処かへ逸らす。
「Ⅹ。あなたの目的は何です?なんのためにこんなずる賢い手を使ってこの学園を調べているのですか」
「調べられたらまずい事でもあるんですか、何もないなら堂々とされてたらいいでしょ」
さくらの尋問に、半笑いで言い返す本田。
「それはあなたにも言えた事です。【学園裁判】」
さくらの口から出た単語に、「?」と首を傾げる本田。
「この学園の最終手段です。」
「生徒会のマークする人間がいる場合、集会を開き全員で【生かす】か【殺す】かを決める。」
「最終目標が稼げなかった場合の処刑権限よりも重たく、学園全員から裁量を決められる制度。」
「まぁ、この二年で一度も遂行された事はありませんが」
「それを俺に話して何をしたいんですか」
本田の察しの悪い返事に、さくらは「あら?いいんですか?既にあなたは私にⅩとしてクラスを工作した事が割れてるんですよー?こんなの、私が公表した途端にあなたの学園生活は」と言った後、パッと手を広げ『ボンッ』と爆発を表した。
「ところであなた」さくらは本田の隣まで歩き、顔を横から近づける。
「あなたが願書に記載した中学の卒業アルバムに名前と顔が無かった件。」
「一体どういうカラクリです?教えていただきたいのですが」
さくらが本田の表情を見ながら言うが、
ツーッとさくらは本田の首筋に指を這わせた。
「ッ?」目の前の耽美な少女のお人形同然の少年は、
目を見開き、状況が読み込めない様子だ。
「汗」さくらはその液を手に取り、舌で舐める。
「会長、軽いセクハラですよ、それ」
ドン引きしながらジト目を向ける本田に、「あら?そうなんですか?それは申し訳ございませんね。」とさくらは素直に謝った後で、「でも」と続けその耳元で「私は好きです、あなたみたいな人」と囁いた。
さくらのひとつひとつの所作を身体が拒絶しながら、恐怖で後退り硬直する本田。
「今回は学園にはこんな制度もあると言う忠告だけですわ。それと本田くん?」
後退る本田を壁に追い詰めるように、さくらは一歩ずつ近づいた。
そして彼のネクタイを直し、「制服を着崩しがちなのは、あなたの中学校が学ランだったからですか?」と微笑んだ。
「それとも、これは私の推測でしかありませんが…ひょっとして──ですか?あなた」
さくらの一言を聞いた後、「これ以上ここにいるのは意味を成さない、忠告は聞いた。授業に遅れそうなんだ、帰るぞ」と本田は切り上げて生徒会室の扉を閉め帰って行く。
(なるほど…。これは本当に私の推測通りの可能性がありますね…。面白い)
さくらは心の中で呟いた後、「お父様」とスマホで楚々辺に電話を掛けるのだった。
(嫌いだ、嫌いだ、あんなやつ!!!!!)
本田が廊下を走りながら急いで教室に入ると、笹井に「生徒会長の監視役と居たって噂になりまくってるけど」と横から睨まれる。
「あなたまさかそっちの内通者なの」
「だとしたら喜んでクラス委員やるだろー、お前俺に何か属性つけなきゃ気が済まないのか、大好きなんだなー俺が」
とにかく自分を疑ってくる笹井に、軽口を叩く本田。
「ふざけないで、こっちはいつだって真剣なの‼」
適当な事を言っていたら笹井が機嫌を損ねたので、
本田は「あーどいつもこいつも女ってめんどくせ」と吐き捨て欠伸をし机に突っ伏した。
一方、飛鳥と佐田が「あッ本田来た」「おはよ」と二人で絡みに来る。
本田は顔を伏せたまま、「おはよー」と雑に返事した。
笹井は「佐田くん、飛鳥くん。なんか今日ずっと二人でいない?」と怪しむが、佐田と飛鳥は「だって希望した部がおんなだったんだぜー」「そーりゃ仲良くもなるよなー」『えへへへへへへ』と二人で笑い合う。
笹井は「まぁ構わないけど」と気にせずタブレットを熱心に眺めた。
少し顔を上げた本田が、「何を熱心に調べているんだ?日本の組織図?」とふと笹井に聞いてみる。
「はぁ?ただの学園の組織図なんだけど、生徒会になれば絶対権力を得られるのなら目指すのもありかしらって」
笹井は慌ててタブレットを閉じた。
「ンだよそれ、お前がスパイかなんかなら追放してやろうと思ったのに、会長様にもいい事聞いたし」
本田が隣の彼女=一人余分な生徒という内情を察しつつ悪ふざけも交えて言ってみれば、「あなた私の事守ってくれるんじゃなかったの?って言うか、本当に会長に会ってたのね」と笹井に鋭い視線を向けられる。
「嗚呼、内容的にはクラス委員に就任したのね頑張れーみたいなものだ」と本田が説明すれば、「じゃあ私もいずれ呼ばれるのかしら」と笹井は耳に髪を掛けながらいう。
本田は頬杖を突き、「…」と常に笹井の指で光っているアメジストの指輪を眺めていた。




