三十三話『オラシオンの鐘』
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グラウンド。ベンチ。
監視役が何かを紙に記入するようにグラウンドの様子を眺める。
本田の監視役はとりあえず話を聞く気は無いのか、少し離れた場所から本田と朝日を見る。
女子、男子サッカー部の声が交差するように聞こえていた。
タオルを首から下げた朝日が、「あ」と本田に手を振る。
「ほら」
本田が買ってきたばかりのスポーツドリンクを朝日に渡す。
「ありがと…」
と朝日はそれを受け取った。
「二組と三組の女子と接触できて少し雑談したんだけどね? 二組は布施くんって言うちょっと怖い感じの生徒の独裁状態で、圧力や暴力で支配されてるみたい。でもその裏に誰かついてるとか言う噂。そして三組はちょっと名前まで聞けなかったんだけど、完全な資本主義。金がものをいう世界らしい。でも学級でお金を貯蓄してて、その口座に金を出した順から権力が握れる仕組みになっているらしい。固定された役割分担とかはなくて、クラス委員が普通に仕切ってるのはうちくらい」
と朝日が言う。
そこにサッカーボールが飛んでくる。
「ちょ、大丈夫かな」
と朝日が立ち上がりボールを蹴り返そうとするが、本田が軽やかにそのボールを返す。
「ありがとー‼ 誰かわかんねぇけど‼」
と男子が本田に手を振れば、朝日が「よくそんな飛ぶわね」と驚く。
「やってた?」
と言う朝日に、本田は「まぐれだ」と返す。
「いやいやまぐれであんな風に」
と朝日は目を丸くする。
「とりあえずクラスの件はわかった」
とそのまま帰ろうとする本田を、朝日が引き止める。
「本田くん、アンタ、サッカーはじめなよ、ぜーったい才能ある‼」
朝日の誘いに、 「……」と少しグラウンドのほうへ視線を向けた後、本田は「楽しそうだな」と穏やかな表情で笑った。
「え?」
と朝日は本田らしくない顔にちょっと引いたような素振りを見せる。だがその後本田はすぐいつものような表情に戻り、「多人数あんまり得意じゃないんだ、じゃあな」と朝日に手を振り去って行く。
「き、気味悪…」と絶句する朝日。
本田は振り返る。「…そうだ。朝日。少し頼みがあるんだが。」
朝日は、「へ?」と目を丸くした。
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本田は生徒寮に向かう途中にカジノの前を通りかかる。
三年生の一人が、「辞めてくれー‼」と泣きながら札束を持った二年生らの集団に手を伸ばす。
(三年だ…)と心の中で呟き物珍しそうに本田はその三年を眺めるが、スルーして足早に生徒寮へ向かう。
負けたと思われる三年は監視役に両肩を捕まれてどこかに連れてかれた。生徒寮に入っては、椛島からメールが届いていた。
【笹井捜査官についての情報】
本田はメールを開く。 《焼肉屋の路地裏で焼死したとされていた警察官の捜査は上層部の指示により【事故】と結論付けて捜査終了。理由もなく警察官が路地裏で死亡している事や、明らかに焼肉屋より先に路地裏が炎上していることなどから一部の警察官の間では意図的に揉み消されたのではないかと噂されている…》本田はこの記事を読んだ後、(笹井捜査官…)と考え込む。
(本当の正義を遂行したであろう人間がこんな扱いなんて…)
と悔しさを覚えると同時に、誰が犯人か候補を頭の中で数人あげる本田。
(夜叉鏡の関連かまたは楚々辺理事長の関連か? または国家側の人物か?)
と本田は容疑者について思考を巡らせる。
(楚々辺理事長の関連だった場合が一番まずいな…笹井が一人余分の生徒である事はあっちにも既に割れているはずだろうし…むしろいま笹井が無事なことが不思議なくらいだ。盛田がいい具合に話題を逸らさせたからかもしれないが)と本田は状況を整理する。
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(茅野が学園側から送り込まれた刺客だと俺は推理している。だとすればあっちも既に笹井に目星はついているはずだ。それにさくらがわざわざ笹井の命を取り引きのエサにした…。これは学園側からの宣戦布告と言ってもおかしくない。生徒会や楚々辺、茅野は繋がっている。茅野の他に学園側からの刺客の候補者がいるとすれば佐田だが…夜中に研究所に行くような時点で白だ…学園側はそんな事はしない…そもそも茅野が質問にやたら正確な答えを出し続けるのはなぜなんだ?)
本田は今までの情報の断片からひとつひとつ組み合わせていく。
『それはz2によるパンデミックが影響しているんだよ』
『私としては本田くんがこの事を知っているほうが気になるな』
『盛田さんの事、聞いた?』
『八十の確率でそうだと思ったんだけど』
本田が茅野の言葉の一つ一つを思い出す。
『私も情報しか持ってない』
茅野の微妙な発言の一つ一つに引っかかる違和感。
そして『深夜はロボットが学園中を巡回している』という監視役の言葉を思い出す本田。
本田は、「はッ‼」と閃光が走るように全てが繋がる。
(…いや…そんな…はず…)
と情報をノートにまとめている手が震える。
(でも…そうやって考えれば…すべての辻褄…が)
本田はノートに字を書こうとするが、
バキッとシャーペンの芯が折れる。
「…」沈黙。
壁掛け時計の秒針が本田の脈拍と共鳴する。
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(俺は…この学園を…根本から…誤解していたのかもしれない)
夕方五時のチャイムが鳴る。
オラシオンの鐘の音が採用された学園の防災無線。
本田はカーテンを開け夕暮れの光と学園の街並みを眺めた。
(かつてこの島で具体的に何があったんだ…これから何がはじまろうとしているんだ…)
だが皮肉にも、この部屋から見れる学園の街並みと、薄っすらと瞳に映る遠くの海は美しく、
いくら時が経ち、いくら人間が腐ろうと、島は純粋な自然のままであることを、再認識させられるのだった。




