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『一組 ─今日からあなたたちは詐欺師です─』  作者: ミタラリアット
一年生 一学期編

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二十九話『ありきたりな一コマの中で』


これは夢の中だろうか。淡い記憶が本田の脳を侵食する。場所はコンテナ施設の中。「はッ、はッ、」息を切らしながら本田によく似た紺色の髪の男が拳銃を構えながら、スーツ姿の白髪の男の後について黒パーカーを着た目出し帽の人物を追っている。「――――‼」白髪の男が紺色の髪の男の名前を呼び手招きしては、「突撃ィ‼」と叫んだ白髪の男が目出し帽の人物がいる場所へ突っ込んでいく。紺色の髪の男も、「ちょっとっ待て!」と手を伸ばしながら叫ぶが、「うおッ‼」とバランスを崩しながらも白髪の男の後についていく。


「こいつがどうなってもいいのかー‼」白髪の男を人質に取りながら高い女性のような声をあげる目出し帽の人物。「俺の事は無視して撃て‼」白髪の男も血相を変えて紺色の髪の男に訴える。だが紺色の髪の男の拳銃を持つ手は震えていた。その隙を見た目出し帽の人物は白髪の男の身体を投げ、バタバタと走り去ってコンテナの先で待ち構えていた黒いバイクに乗って行ってしまった。「このクソがァ‼」白髪の男が全力疾走でバイクを追いかける。


紺色の髪の男も「はぁッ…」と息切れさせながら白髪の男を追う。だが道路側に出た時、そのバイクを見失った。「どうしよう…」紺色の髪の男は立ち止まり少し怖気づいたような声で言うのだった。白髪の男がその様子を見て微笑みかけながら何かを言う。「――――」そのタイミングと同時に、 「はッ‼」と本田は目覚めた。



本田は頭を抱える。「嫌な夢だ…」生徒寮の本田の自室ではカーテンの隙間から朝の光が差し込み、高い周波数で小鳥が鳴いていた。本田は洗面を済ませジャージ姿からバサバサッと音を鳴らして制服に着替える。着たばかりで少し着崩された制服。ネクタイはハンガーにかけられたままだ。 既に配膳係が食事を置いていたようだ。本田は「…」とカレンダーの競技祭の文字を眺める。(一学期以内に笹井を見捨てなければ俺の個人情報が学園内に洩れる…。笹井を守る、この学園に残る、どちらも約束、片方を達成するには片方を切らなければならない、よりリスクが高いのはどっちだ?否、どっちを選んでもたぶん俺は)と本田は考える。(それにあの時、あの女の子が言った台詞…)『あの頃の夜叉鏡のほうがお前よりよっぽど考え方が救世主だったぞ』 本田は片手で頭を掻き回す。



(どういう事だ、いくら【救済】がきっかけだとはいえやったことはただの国家転覆じゃないか)と疑問に思う。(一瞬、夜叉鏡の事も理解しかけたが…俺には無理だ、あんな理性の欠片も無いものを)と本田が考えていると、ノイズのようにさくらの『ひょっとして根っこはそういう性格ですの?』という言葉が不意に脳裏に過ぎり、(腹が立つな。わかった気になって)と呟く。 さらに私物のほうのスマホに着信が入る。念のため非通知にしていたが、どう見ても父の電話番号だった。(親父…?なんで)と目を丸くする本田。だが一応無視。いろいろ考えても埒が明かないため本田はまずメモ帳を開きながら食事を摂る事にした。(やっぱクラスメイトたちが言うようにどう見ても冷食だな)と本田は考える。情報、情報、情報。何を見てもすぐ脳が回りだす。本田はとりあえず食べ終われば、流し台に容器を置いた。そして洗剤を触れば、「あ…」と呟く。もう中身が無さそうだ。買い足しに行かなければ。なんて適当な事を心の中で呟く。



学生証が入ったスマホを眺める。朝日からの通知も来ていた。【今日、放課後。私のとこに聞きに来て。とりあえず二組三組と接触できて他クラスの傾向掴めたから。】朝日からの通知を見て「…」と感心する本田。朝日はなんだかんだでやってくれる。暫く適当に過ごしていれば、監視役からのコンコン、というノックが聞こえてくる。「本田湊、登校の時間だ」本田はその男を振り返る。「…」さくらに買収された監視役とは違う二人だった。「あの…俺の監視役変わったんですか」とボーっと本田が言っては、「あいつらは事情は知らないが昇格、監視役の指揮を取る側になった」と続ける。もう一人の監視役が、「ちょっと、あんまり生徒に漏らしちゃ」と耳打ちする。「そうだったな」 監視役はそう言うと「支度を済ませろ」と本田を見ながら続けた。



本田は「…」と新しい監視役二人を観察しつつ、スクールバックを持って生徒寮の外に出て行った。監視役とは下駄箱で別れ教室に入れば、仲睦まじい姿の笹井と茅野を発見する。本田は(あいつもあんな顔するのか)と表情が豊かになってきた笹井を見て意外性を感じる。笹井に気を取られている本田に、飛鳥が後ろから、「わぁッ‼」と本田の両肩を触る。「なんだ朝からやかましいな」と飛鳥にジト目を向ける本田に、「俺はお前と仲良くなりたいのさ‼どうだ人間、漆黒の魔王、飛鳥平賀あすかひらが様と仲良くならないか‼」と高笑いをしながら言った。



「仲良くなるってそういう事じゃないと思うけど」と言う本田に、飛鳥は「じゃあどういう事だ」と訊ねる。本田は「気づいたらなっているんじゃないか」と適当に流した。飛鳥は「はっはっはっー‼じゃあ貴様は俺の使い魔だ‼」と楽し気に本田に言う。本田は「…」と飛鳥を暫く見つめた後、「お前、友達いたことないのか」となんの躊躇も無くストレートに言う。



「なぬ⁉と、ともだち、くらい、い、いるよ、ねぇお前ら俺の友達だよな⁉」と鈴木や増田たちを見て叫ぶ飛鳥。だが鈴木や増田はそれぞれで楽しそうに雑談してそもそも飛鳥の声が届いてない様子だった。「ほぁぁ…」と落ち込む飛鳥。「どうせ僕はボッチだ友達もいないボッチだ笑えよ罵れよ…」と一気にネガティブモードになる飛鳥を見て、本田は「まッ、本当に友達欲しいなら、使い魔とか言うんじゃなくて対等な関係を築かないとな」と飛鳥にアドバイスをする。「対等な関係…」と繰り返す飛鳥に、「ならば俺は本田、お前と対等な関係を――――‼」と飛鳥は叫ぶ。本田は即座に「なんでだよ」とツッコミを入れた。



茅野との話が終わった笹井が、「あら、いいコンビになってきてるじゃない」と本田と飛鳥を見ながら言う。本田は、「ど・こ・が」と一文字ずつはっきり言いながら笹井に返した。笹井は「あれ」と違和感を持つ。(なに、この違和感。本田くんがクラスに馴染んできたゆえの表情の変化?)と笹井は考える。「ジロジロ人の顔見るな」といつもの仏頂面に戻る本田に、笹井は「可愛くないやつ…」と呟き、「飛鳥くん、ちょっとどいてくれる?」と言って自分の席、つまり本田の隣に座った。



飛鳥は自分の席に戻っていく。本田は「俺に対して可愛くないって思ってたのか」と笹井に訊ねる。「もう少し笑顔とかもっと愛想よくするとかできればあなたも感じよくなるのにね」と言う笹井に本田は「世界で一番お前にだけは言われたくない言葉だな」と返す。笹井は「悪かったわね」と言いながらマニュアルを開いた。そこに出海奈がやってくる。「出席取るぞー」出海奈が教室に入ったのを見た立っていた生徒たちは一斉に自分の席に戻って行くのだった。

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