二十六話『支配のキスと本田の葛藤』
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笹井が教室に入ると、少しいつもと違う空気が教室中に漂っていた。笹井の隣の席、つまり本田の席には誰もいない。「あれ、本田くんは」と笹井が言うと、星野が「本田くんならさっき顔出したけど会長に話しかけられて…」と説明する。
「了解」笹井は把握しつつ、自分の席に戻った。「生徒会長に呼ばれるとか本田なにしたんだよ」と言う佐田。「アカン恐ろしいわ…」と恐怖する布田。「会長に呼ばれるとか羨ましいぜ」とにやにやする鈴木。笹井はボーっと窓の景色を眺める。志田が「なんか似てきた?」と笹井に話しかけて微笑む。
「え」と志田を見つめる笹井。「だっていつも本田くん、そうやって窓から景色眺めてるから」と言う志田に、「ちょっと冗談やめてよ!」と誤魔化しながら笹井は教卓に視線を戻す。そして出海奈が教室に入って来ては、星野も自分の席に着く。
「今日も座学はじめるぞ…と言いたいとこだが、本田から今日遅刻すると申し出があった。聞くところによると生徒会長に呼び出されたらしい。本田が何かやらかしたの知っている奴がいたら報告してくれ」出海奈はそう言った後、「出席取るぞ」と教卓の前に生徒名簿を置いた。
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生徒会室に静かに入る本田。ケンが「また君か、やたらさくら様と親しい様子だが」と本田を睨む。本田は「…」とケンを無視してさくらが座る玉座へ向かう。長谷部も「本田…」と退屈そうに本田を眺める。
さくらは「本田湊くん」と本田の名前を呼ぶ。「あなたについて調べさせて頂きましたわ」と口角をあげるさくら。「どうやって調べたんだ」と問いかける本田。さくらは「戸籍が無いのに」と続ける。
「やはり。戸籍が無いのは事実でしたか。」と怪しい笑みを浮かべるさくら。ケンと長谷部は「え」「戸籍がない?」と少し動揺する。
「今のはハッタリです。調べてなどいませんわ。三上くん、長谷部くん、一度退席しなさい。ここからは二人の会話です」と淡々と述べるさくら。さくらの指示通り、ケンと長谷部は退席する。
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「どうやって調べたんだ。先程のあなたの発言。戸籍がないことを認めたと言う事と同義って事はわかっていただけますよね。つまり、あなたは偽名でこの学園に入学した。ここまでは明白です。では、一つ一つ細かく見て行きましょうか。まずあなたは【特例生徒】である事に自分から気づいた。この偉業を成し遂げた時点であなたは普通の生徒ではありません。それどころかあなたは私に茅野さんを特例生徒ってことにして申告してほしいと頼んだ。特例生徒は監視などが外れる好待遇。でもあなたはその事実を職員や他の監視役たちに漏らしたくないような、そんな態度でした。私はこのことに非常に違和感を覚えました。」
さくらの言葉に、本田は、「…」とどこかに流し目を向ける。
「ひょっとして、あなたは特例制度を受けるよりも、普通の生徒として扱われるほうが、都合がいいんじゃありませんか」さくらの鋭い指摘に、本田は「…」と興味なさげな顔をする。
「で。話はそこまでか」と本田がさくらに問いかける。
「いいえ」さくらは帰ろうとする本田を声で引き止める。
「これは取引ですの。笹井さんの命を諦めて下さったらあなたの個人情報は保証しますわ。何か目的があってこの島に来たんでしょう」と言うさくらに、本田は「⁉」と驚きながら振り返る。
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「期限は与えますわ。一学期が終わるまでに考えて下さる?」さくらの取引に、本田は「そんな非人道的な事―――‼」と躊躇う。「あら。意外ですこと」さくらは本田の様子を見て笑う。
「普段のあなたであればあっさり切り捨ててしまいそうなのに」さくらの指摘に本田は首元から汗を流す。
「ひょっとして、根っこはそういう性格ですの?」と楽しそうに微笑むさくら。「トロッコ問題」さくらはそう呟くと、「トロッコに轢かかれそうな四人と一人。方や優秀な四人。方や重度の障害を負った一人。あなたはどちらを選びますの」さくらの煽りに、本田は「…」と立ち止まる。
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「ねえ、本田湊くん。今あなた、全員救うって選択肢なかったでしょう?」とさくらは口角を上げる。「そんなハリボテの正義で、何が出来ますの?」煽り続けるさくらに、本田は「あ…」と言い返す言葉が見当たらない。
さくらは「あなたは人を有能か。無能かで判断している。自分は棚にあげて。違いませんか?」と言いながら本田の肩に触れる。「ねえ、本田くん。人間って本当に能力だけで存在意義が決まるのかしら。まさかとは思いますが、そんな風に本田くんが思っているなら【非人道的】なんてあなたが言う権利、無いですよね?」うふッ、と笑うさくら。
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本田は、「お前は俺をどうしたいんだ」とさくらに訊ねる。さくらは「私?私はあなたに【期待】しています。私のお父様を人殺しとして世間に広めたくありませんから。それと、本田くん。あなたって、―――――ですよね?」と耳打ちする。
本田は「うっそだろ?」と少し素のような崩した口調で反応しながら本田を見る。「いえ。まだ疑惑段階ですが、あなたの反応で大体察しました。でも安心して下さい。一学期のうちは、絶対に外部に漏らしません。それと、一学期に笹井さんの命を諦めてくれたら、私は無害化します。あなたを探るような真似も…なんなら協力さえ致しましょうか、それと―――」
さくらはボイスレコーダーを本田に見せる。「全ての会話は録音しました。悪く思わないでくださいね、本田湊くん。あなたの腕の見せ所ですよ。私は本田くんと敵対したいわけじゃないんです。本田くんの答え、楽しみにしてますわ♡」
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さくらと本田が話す生徒会室の扉が開く。「三上くん、長谷部くん、まだ―――」とさくらが言いかけるが、そこにいたのはホノカだった。
「…会長。まるで死神のようなやり方だな。傍観者としてはいいものを見せて貰った」本田は「…」とホノカを真っ直ぐ見つめる。
「その男に忠告だ。用心しろ。あの頃の夜叉鏡のほうが、お前よりよっぽど考え方が救世主だったぞ」ホノカの言葉に、本田は「どういう意味だ」と問いかける。「言葉通りさ」とホノカは口角を上げた。
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「会長。一組ばかり詐欺でリードするのも不満だ。二組にも名簿をくれ。金出せば買えるんだろう?」ホノカの頼みに、さくらは「一冊一万ですがよろしくて?」と名簿を取りに行く。
二人が話し始めたので本田は帰ろうとするが、さくらに「本田くん」と呼び止められ振り返る。
ホノカに名簿を渡したさくらは、本田に駆け寄って、少し背伸びをした後に、そっとキスをした。その様子を、出海奈に頼まれ本田を呼びに来た布田が「はわわっわわわ…」と驚きながら目撃する。本田は布田の姿に気づき固まる。数秒後、「違う、ちょっと待て、待ってくれ、ちょっ」と弁解しながら本田は布田を追いかけるのだった。
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「うふ♡」さくらはそんな布田と本田を見て楽し気に笑う。生徒会室の前でアイスを食べながらうちわで風を仰いでいたケンと長谷部は、「はぁー俺たちもあれぐらい面が良ければ」「そうだなー」と棒読みで嘆くのだった。




