二十二話『女教師の盲点』
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「心理を揺さぶる。この意味わかるか」出海奈の問いに、布田が「金をだまし取る事ちゃう?」と首を傾げながら述べ、鈴木は「もう朝七時よーって母ちゃんが言うけどまだ六時だった時とか?」と頭を悩ませる。
出海奈は、ふっと笑った。出海奈は、「判断の前提を壊す事だ」と続け、ホワイトボードに【前提】と書く。
「何かを判断する時、人は経験や情報から物事を考える。それは前提だ」
出海奈の言葉に、星野は「思考、じゃないんですか」と目を丸くした。
「極端な話、赤子は判断するか?」と出海奈は星野に問いかける。
「する、んじゃないですか。泣いたり、笑ったり」と考える。
だが出海奈は「違う。赤子が笑う理由は親の声に反応して唯一のコミュニケーションを取ろうとしているだけだ。泣く理由も同じ。つまり赤子の世界はすべてが受動的な行動だ」
出海奈の言葉に、鈴木は「じゃあいつから思考するようになるんだよ」と出海奈に突っ込む。
出海奈は、「じゃあお前たちはいつから思考をはじめたか覚えているか」と生徒たちに問いかける。
本田は後ろの朝日のほうを眺めるが、朝日はノートに何か落書きをしている様子だった。
朝日の友人である小太りの榎本が、「はいッ‼三歳の時には既に話していたので三歳だと思いまーす」と答える。
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だが出海奈は、「【前提】を確信した時だ」と答えた。
榎本は「違うのか…」と落ち込んだ様子で手を下ろす。
「人間は生まれてから数年は信頼できる【前提】が無い。だから赤子や幼児は自由奔放で動き回る。その過程で注意されたことや失敗した事を覚えて【前提】を組み立てながら人格を形成していく。よく言われる五歳までに人生が決まるっていうのはそういうことだな」
出海奈の説明に、本田はいつもより興味なさげな顔をする。眠いのだろうか。違う。心理を揺さぶられたばかりの自分には少し耳に痛い話だからだ。
「じゃあどうやって心理を揺さぶればいいか。それは他人の判断の前提を崩す事だ」
出海奈はホワイトボードに記された【前提】の字に、【→を、壊す】と記す。
「例えばだ。お前らが【ともだち】だと思う相手がいたとする。その相手が裏切る可能性があると一度でも思わせればいい。これは新入生歓迎会でお前らに盛田の映像を見せたさくらと同じ手腕だな、つまり二年や三年はわかっているんだ。」
出海奈の説明に志田は「そんな最低な…」と声を震わせる。
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「でも、それでこのクラスに何が起きた」出海奈は笑いながら生徒らに問いかける。
笹井は、「クラスメイトがクラスメイトを疑うようになりました」と答える。
「そうだ。学級が疑心暗鬼になればどうなる」と言う出海奈に、星野が「学級が崩壊します」と答える。
出海奈は「学級が崩壊して喜ぶのは?」と鈴木に問いかける。
鈴木は、「え、だれ」と困惑する。
「まぁ、私は立場的に言いづらいが、学園側、特に生徒会と理事長だろうな。学級全体が疑心暗鬼になれば授業外で仲良くしようとしたりしなくなるわけだし、ずっと嫌悪ムーブになれば、そこに介入しない人間に焦点を当てて監視できるわけだ」
出海奈はホワイトボードに【変化】と記す。
「会話が変わる。行動が変わる。自分優位の状態に動かすことが出来る。何せお前たちは既にクラス委員アンケートと言う形で外部の人間に干渉されたんだろう?私は送ったのが盛田であると踏んでいるがな」と続ける。
布田は「へ?クラス委員アンケート?」と声を裏返した。
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「そして志田。お前は金まで渡された。違うか?」出海奈の尋問に、志田は「な、なんで⁉」と動揺する。
「履歴だ。私がクラス全員に報酬分を振り込む時、なぜか私のパソコンから余分に志田に振り込まれていた。誰かが勝手に職員室のパソコンに侵入し操作したと考える他ない、だが厳重なパスワードとセキュリティーをこの学園内部から突破すればすぐに学園スマホから情報が割れるはず、そう考えた時に相手は干渉されない学生証アプリが無い端末を持っている人物だと仮定したほうが自然だ、だがそのスマホがあるにも関わらず相手はわざわざ私のパソコンに侵入することを選んで振り込んだ。それはなぜだと思う。迂闊にそのスマホをつかえない人物だからだ。職員室に侵入してパスワードを特定する。そんなことをすれば監視にすぐ見つかってしまう。監視の目を欺きながら志田に振り込むことが出来ると考えれば何らかのハッキングでリモートを使ったと推理したほうがいい。それが出来るのは現状既に内閣府の情報調査室だと身分が割れている、盛田だ」
出海奈の推理に、鈴木は、「も、盛田がそんなやり手だとは」と違和感を覚える。
「でもオドオドしたのが仮の姿だったとしたら」と星野は少し人間の裏の顔に怯える。
ただ全てを理解している笹井は瞳を震わせる。
(嘘…ウソでしょ)当人を振り向くことは無く、真実に一歩笹井が近づく。(いや…そんなはず)と笹井は考えるが、本田の着信音の件を思い出す。(でもそれだけじゃ情報が足りない…)と笹井は自分の未熟さを痛感する。(私は…私はとんでもない人に)
笹井が調子悪そうにしていれば、出海奈が「笹井、こんな状態で大変だとは思うが、お前と茅野にこのクラスはかかっている、期待しているぞ」と声をかけた。笹井は、「はい…」と不安そうな声で答えた。
本田は朝日に流し目を向ける。
出海奈と交代で教卓の前に立つ笹井。
笹井は本田と目が合うと、少し逸らした。
「今月から五月の班分けをするわもう前みたいに別室組は辞めて極力全員で情報共有できるように動きましょう」
笹井はそう言うと、教卓にあったプリントを読む。
「今月の目標額は一千二百万。稼げなければ…クラスの誰かが…死ぬ」
笹井は「まずは班分けよ、以前より適性を考えて分担したからよく聞いて」と生徒たちに伝えた。




