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『一組 ─今日からあなたたちは詐欺師です─』  作者: ミタラリアット
一年生 一学期 四月

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21/111

FILE21『楚々辺の感謝 =AIプロトタイプ=』

(俺が覆面Ⅹとして動き出したのには理由がある。普通なら俺が笹井に裏から直接指示を出せばいい。だがそれは笹井に【実権】を握らせるまでの話だ。俺名義で笹井に直接的に指示のメールを送るとある問題が発生する。それは、〈笹井自身の信頼を欠く〉事だ。)



(実権を握っているクラスのリーダーが誰かと裏でコソコソやり取りをしていた。なんて情報が出回れば、真っ先に笹井がリーダーとしての信頼を失い動きにくくなる。これは俺としても避けたい事だ。)



(次に盛田を隔離しなかった理由。これは盛田という1番怪しくなれる人間を解りやすく隔離するのは寧ろ〈盛田の行動に制限がかかる。〉となれば出すはずの盛田のボロも塞いでしまうことになりかねない。それならやるべきは一つ。)



(敢えて〈対応係〉に彼女を置くことでクラス全員の目を置く事が出来る、これならボロも出しやすい。デメリットは俺が確認できない事だ。だがこのクラスには布田や朝日、鈴木と言った明らかに噂話が好きそうな連中がいる。どちらにせよ、何かあればいずれ耳にしただろう。)



(茅野と佐田を添えた理由は、あの場で真っ先に『サイトを作れる』と言った茅野は少なからず技術力がありそうでその上で情報も落としそうな位置にいた。)


(クラスのまだ能力値が普通の奴等より、あの場で真っ先に挙手が出来る奴から情報を刈り取ったほうがいいのは明白だ。次に盛田だ。俺の失敗はあそこで盛田を切り捨てなかった事だ。後々何があるかわからない、明確に学園側から見て〈敵〉である盛田は迷いなく差し出した方が自己保身の点では正解だった。)



(なぜなら会長と茅野が繋がっていて盛田がⅩではない場合、『茅野がXだ』と言えば会長の目はどうしても俺に向く。〈盛田がⅩだ〉と証拠を挙げて売り飛ばしたほうが安泰だった。)



(だが、それをしてしまうと、盛田の調査結果も得られる機会は無くなる。あっちはプロの諜報員だ。こんな四月に切り捨てるカードじゃない、となると俺が寄せられる候補は、笹井、佐田、茅野になる。今後も笹井をリーダーにしたいなら笹井の自作自演なんてことにはできないし、佐田に寄せるには〈日総〉の件しか要素が無く、イマイチ理論が弱い。)


(盛田が〈Ⅹ〉では無いとして俺が〈Ⅹ〉として濡れ衣を着せられるのはただ一人、茅野しかいなかった。結果としては会長にそこを突かれる事になったが、そもそも笹井が〈Ⅹ〉だのと言って露呈させなければそもそも推理合戦にもならないで…ぁ゛───────!!!!!!)と本田は頭を掻き回す。



(だが…笹井の視点から見るとそう言うしかないのか、裏切り者かもしれないからな)


ぎっしり文字が詰まったノートを手にとっては、文字を目で追いつつ、(俺はクラスを工作したい訳でも無ければ、守りたい訳でもない)と心の中で呟き、少し目を瞑り、再び開く。


(暴きたいんだ。〈真実〉を)



(光道教のパンデミック…それ以前にも、〈教祖〉や〈救済の女神〉が何を目論んで何をしたかったのかを。)



(そしてその残党を─────。いや…)



本田がカーテンを開けると、強く雨が降り出していた。島には雷が鳴り響いて、綺麗に、光る。



それでも本田は窓から外の春の嵐を眺めた。

(光道教の理念ごと…破壊…)



本田の副端末ではない方のスマホに、

途中まで見ていた少し昔のドラマが映る。



銃を抱える仮面の犯人たちが、

空港を占拠しその空間がパニックになっているシーンだ。


銃の乱射。【神奈川県警】と書かれた制服を着た警察らがその空港を囲んでいる。



(次の俺の動きは【学園側と内通している】と割れた茅野を、笹井と共にクラス委員にすること。)


(容疑の時点で笹井に命令はしていたが、【全員で茅野を信頼して】【全員で茅野を頼り】【茅野に罪悪感を覚えさせる】ことで…心理的に茅野を追い込み、学園側のスパイとして機能させない仕組みを構築する。)


本田はそんな事を考えながら、ドラマを見て乾いた笑みを零す。


(まさにドラマの機動隊の通りだ…。【囲い込み】…だな。)


だが本田が浮かべていたのは、躊躇いの表情だった。




理事長室にいる楚々辺は校章を見上げ、

ある人物の声を聞いていた。

その女の声はボイスチェンジャーで

重たく加工されていて伺えないが、

高飛車で、強い威厳を感じさせる。


《どう?私が送ったプレゼント。最高でしょ》


女の言葉に、楚々辺は「嗚呼…今までのものより遥かにいいものだ」と頷く。



《それは良かった、我々光道教が考案した最高のシステム》



【自律型アシストAIプロトタイプ・アビィ】



《学園のシステム、ラビィから命名された代物。市場で買おうとすればウン千万はする、お前が集めた優秀な研究員や技術者が作り上げた努力の結晶。》



その声に楚々辺は耳を傾けつつ、俯く。

「だが私の本来の望みはそんなオモチャを使う事じゃない」


彼の返事に、女は《面白い事を言うな、このお前が心酔してならない教祖が考えたものを、「オモチャ」か》と愉快そうにケラケラと笑った。



八咫鏡のデザインが施された理事長室の校旗。

冷めたコーヒーの香りが仄かに辺りを充満させて、

夜の風と、雨の音色をブレンドする。


「私は教祖様の思考を否定しない。寧ろ全肯定だ。でも、私の〈目的〉にそのAIは一部でしか必要が無い、私が求めるのは〈完璧な暴徒〉だ」


楚々辺は校旗の裏の通信機から話しかける

得体の知れない女に答える。

《ほぉ》女は楚々辺の話に興味を持った。




「私が見込んだ人間だけを安全なこの島に隔離させた上で、他の地域は全て〈暴徒〉に進軍させる。そして暴徒が日本全土の住民を暴徒化させて滅ぼした頃に日本にいる全暴徒を〈人類の倫理に反するあるやり方〉で一掃する。」





「そして暴徒がいなくなった日本の中央に、我々光道教四家が拠点を置き、我々が社会の主体となり、全員が〈平等〉で〈不幸の無い〉新基準を作る。世界はある日を境に〈多様性〉を謳い続けて来た。だがその多様はまるで押し付け。自分の意思で行動させないような無理矢理のやり方だ。それでは反感を買うのも無理は無い。〈多様性〉を謳う事で寧ろ〈分断〉を生んでしまったんだ。ならば全員に幸せが巡るにはどうすべきか。世の中から〈不幸〉を消すには。綺麗な心を持ち、真っ当に生きているのに複雑な事情を抱える事で〈人生〉自体が成り立たないものは。極端に【マイノリティ】を認めろというんじゃない。全員で同じ立場に立ってしまえばいい。国の生活に必要な仕事は光道教の息がかかった人間で行い、そうでない新国家の国民は金だけ寄越して飼いならしにすればいいのさ」



楚々辺がベラベラと語り出す。女は《独裁だな》と呆れたように笑う。



《お前だって、個々の気持ちを一切考えていないだろ。それ。お前の言う教祖は─────。》



《カガミは、そんな事がやりたかったんじゃない。お前の言ってる事って、〈平等〉って綺麗な言葉に託けて、人間を支配しようとしている事と何ら変わりないんだよ、【カガミ】がそんな風に恐怖で人を支配したか?表面上はカガミもそう見えるかもしれないが、違うんだよ、〈性質〉が。全く持ってな》



女はそう言うと、通信をブチ切りする。




楚々辺は雨音を聞きながら、『まだ痛むのか』と黒髪の好青年に話しかけられた事を思い出した。



「もう…長くは生きていられないんだ。次にすごく難しい手術をしなければならなくて」



若き日の楚々辺が、自分より年下の好青年に目を逸らしながら、答える。病院のベッド。個室で高そうな部屋。



楚々辺がかなりの配線に繋がれた状態でも、好青年はなんら普通に会話をしてくれた。


「そうか…」そう言って好青年が微笑む。隣にいた可愛らしい女の子が、何かを読み上げる。




それはラテン語の歌だ。



(すごく不思議な出来事だった…二人が病室に来てからみるみる痛みは引いて、幼少期からずっと続いた闘病生活も抜けられた。私が【救い】が実在すると知ったのはその時だった。教祖様は、私が散歩中に猫の怪我を直したから、その礼だということだった。だが後から聞いた話だが、教祖様は私が野良猫を助ける前から…車椅子で散歩をする私の姿を目撃していたのだ、それでいてもたってもいられなくなり…身体が動いたと話してくれた…。私には…彼が悪い事をしていたようには思えないんだ。どうしても。)

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