二十話『鳥籠の外の影の色』
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五月のはじまり。今日は新入生歓迎会である。
本田は「…」と少し死んだ目で整列を無視して体育館へと向かう。本田の脳内では新入生歓迎会よりも《何がこの場で執り行われるか》と裏を計算していた。だが、さくらに勘付かれてはいけない。本田はさくらに言われた事を思い出す。(あなたって本当は―――。)本田はボーっと一点を見つめた。どういう意図でそんな発言をしたのだろうか。
「ちょっと」笹井に腕を掴まれる本田。
「嗚呼…誰かと思えば」と本田は振り返る。
「クラス全体の点呼したけど二人足りなかったのよ、一人はあなたでしょうけど、もう一人は盛田さん、お願い、勝手な行動は控えて」
笹井の報告と注意に、本田は「ただ新入生歓迎会に行くだけでそんなに気を張る必要があるか」と笹井に言う。
笹井は「アンタ…」と少し本田を睨んだ。「私だっていつ狙われるかわからないのにそんな私をクラスの中心にしたんだから私の信頼欠くような事しないで」
本田は笹井の顔を見つつ、「同調圧力だな」と鼻で笑う。
笹井は「なにがおかしいの。っていうか盛田さんはどこにいるの」と本田に訊ねる。
「知るはずないだろこの俺が、とりあえず今の最優先は歓迎会に出席することだ」
本田のセリフに笹井は、「盛田さんの事どうでもいいの」と不服そうに言う。
「じゃあ聞くが、ここで俺が抜け出して目立つような行動してまで探す意味はあるか?」と笹井に冷ややかな目を向ける。
笹井は「…」と何も言い返せなくなる。
そんな笹井の頭に、本田はぽんっ、と手を触れた。「焦るな」そう言って他の一年生たちの列に合流していく本田。
(整列無視するほうがよっぽど目立つでしょうに)と心の中で呟く笹井。
笹井も(まったく)など心で愚痴を吐きながら、一年生の整列に戻っていく。
佐田が、「待ってたぞ本田♡」と後ろで微笑む。
本田は「並ぶって思ってなかったから」と適当な事を言ってごまかしておいた。
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A棟、体育館。
A棟は一年生の教室と、図書室や職員室など事務的な部屋が目立つ地味な校舎だが、新入生歓迎会は一年生に合わせてA棟の体育館で行われる。
一年生が一組を先頭に吹奏楽部の演奏に合わせて入場する。
鈴木が「他のクラスの奴らはじめて全員見たかも」と入場しながらにやにや小声で布田に耳打ちする。
布田も「俺たちが今ぶっちぎりトップやで気持ちええな」と調子に乗る。
本田はここで気づく。(制服のネクタイは学年分けか)(スラックスの女子ももう普及している、数十年前じゃ考えられない)
新入生の入場が終わると、『一年全員着席』と機械的なアナウンスが入る。甲子園のウグイス嬢のようなものだ。今はAIでそこの役割も済ませているらしい。
(中途半端な技術だな…昔はこれくらいの時代なら空飛ぶ車なんて想像してたろうに)と本田は目新しさがない技術発展に少し哀愁を覚える。
かと思えば急に音楽が切り替わる。マジシャンでも現れそうな勢いだ。
『レディースエーンドジェントルメーン!』
シルクハットを被った上級生が登場する。
『ようこそ私立遠州学園へ、私は生徒会役員のケーン‼みかみぃー‼』
小太りだった。少しオタクっぽさもある。本田は「…」唖然とするような反応を見せる。
なぜならこの学園においてこのようなふざけた真似が許されるのか、それ以上に、上級生となってくるとさくらのように鋭い目で、機械的に分析して…そんな人間ばかり…と思っていた。本田はこの学園の、意外な生徒会の一面に驚く。イキイキとした表情なのだ。全員、どうなるかも知らないで。
「さーてまずは一年全クラスのクラス委員が既に報告で出揃ったので発表していくー!発表方法は大胆にスクリーンだ!編集はパソコン部‼ありがとー‼」
生徒会のケンが言っては、『ありがとー‼』と上級生から洗練された大きな歓声が聞こえる。
(…これはこの学園の風物詩なのか?)と学生たちのノリの良さに本田は戸惑う。
そしてスクリーンには一人ずつクラス委員の名前と顔が堂々と映し出される。
笹井は、(勘弁して…!)と言わんばかり体育座りで顔を隠して自分の番を逃れようとする。
そして、映像のナレーションが、『一年一組、茅野アリス‼笹井のぞみー‼』と大きな声で二人の名前を呼ぶ。
「は、はあぁ…」と戸惑いつつ周りに会釈する茅野と、笹井はずっと下を向いたままだ。
そんな様子だからか、笹井は「立てばええやん」と布田に言われていた。
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この調子で新入生歓迎会は続いていき、『部活動発表に移ります‼部活動の部長は全員前に出てください、この場で仮入部の登録をするので、一年生たちは入りたい部活のプラカードを掲げた部長のもとに、よーいドン‼の合図でぶつからないように駆けつけてくださーい‼』とケンが言っては、『よーい‼』と長谷部がマイクを持って叫ぶ。
『ドン‼』長谷部の合図で「決めた決めた‼」と駆け出す鈴木、佐田、布田。志田は迷いながらキョロキョロとする。動かない生徒も何人かいた。
「ウソでしょ⁉女子サッカー部あんの⁉いままでそんな学校見た事ないんだけど⁉」と目を輝かせながら一目散に走って行く女子生徒が一人。
本田はその生徒に、「…」と視線を向けた。
(朝日なぎさ…後ろの席で女子二人とつるんでいるスクールカーストでは下位の人物だが…)と本田は何かを考える。
その後本田はチラッと笹井を見た。(まぁ…追々だな)と考え直す本田。
茅野がそんな本田をジーっと見つめる。その後、ふッ、と意味深に笑った。
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新入生歓迎会も部活動の紹介まで終わり、委員会の紹介ムービーを見せられた生徒たちは『続いて委員会‼委員長がプラカードを掲げるので…』と同じ下りを二回する生徒会。
だが、委員会はあまり一年一組には人気が無く、他クラスがチラホラ行くだけだった。
ラフなジャージ姿の出海奈が「オイ、お前ら委員会は」と言うが、「私には部活あるし」と星野、「クラス委員だし…」と茅野。「授業で活躍できるポジションゲットしたしー」と生徒たちは乗り気じゃなかった。
そこで出海奈は気づく。(五月の時点で既にもう一組は役割分担が済んでいるのか?誰が采配した、何が裏で動いている、笹井か…いや)と考えを巡らせる。(こんなクラス、今まで)と出海奈は少し感心した。(盛田か)と出海奈は仮設を立てる。(だが本田も要注意候補の一人だ)と頭を悩ませる。(だが事実盛田は…)と眉間に皺を寄せながら情報を巡らせるが情報量が足りず答えには辿り着けなかった。
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新入生歓迎会の全てのプログラムが終わっては、ステージ袖からさくらと理事長が並んで現れる。先に演台に立ったのは理事長だった。
理事長が舞台から生徒を見渡した瞬間に、ノリのいい宴会のような空気から、一気に威厳が保たれた空気へと変わる。
生徒会のケンと長谷部が静岡県旗と校章を下ろしているからだろうか。
上級生は一気に立ち上がり理事長や生徒会に向かって敬礼する。一年生たちも少し遅れて敬礼する。
(軍隊?)とこの学園の異常性に本田は少々ついていけない。
だが出遅れはしたものの、一組はなんだかんだで揃う。
出海奈も後方で腕を組みながら(…他クラスより率先して動いている)と評価した。
その後、理事長の長々とした話を生徒たちは永遠に聞かされる。理事長の話はまともだった原稿分を終えては次第に逸れて行き、応援している野球チームだとか、最近聞いた音楽だとか、終いにはたまごかけごはんの話にまで発展していき、一組の生徒らは苦笑いを浮かべた。
そして収集が付かなくなったあたりで、冷静な声でさくらに「お父様」と制されてしまうのだった。




