十九話『XYZ 遮断フィールドの姫君』
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男子生徒寮、『蒼』。一階。
本田は「…」と腕を額に当て寝転がりながら反省する。
(なぜあれほどまでに簡単なことを俺は)
本田はさくらが味方になる前提で動いていた。
だが実際は違った。
その上、「…特例生徒…じゃないのか俺は」とさくらの絶妙な反応から考えを巡らせる。
「…」本田は少し考えたあと、「はッ!」と気が付いた
「まさか…あいつ!」と余裕なさげにスマホの入金履歴を調べる。
クラス人数÷報酬。
本田は四月の詐欺の最終日分で加算が終わっている事に気が付く。
「クッソ…」頭を抱える本田。
さくらは本田の指示に乗ったように見せて、本当に茅野に特例制度をすり替えていたのだ。
(じゃあ監視役は)と本田は考えるが、すぐに金で誓約させたと言うさくらの言葉を思い出す。
「はぁ…」本田は大きな溜息を吐いた。
そしてスマホのメールに盛田から連絡が入る。
『ゴールデンウイークの間に一体一でお話したいです』。
盛田のメールをゴミ箱に移動させる本田。
(全員が敵に見える)と本田は頭を悩ませるが、ここは冷静に笹井に情報を流す。
【楚々辺さくらに接触。特例生徒を茅野にされた】と―――――。
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その夜。
本田の部屋に笹井が尋ねる。
「なに勝手な事してるの」と言う笹井に、本田は「今回ばかりは本当に勝手だった」と素直に言った。
笹井は「あれ、なんだか妙な反応するじゃない」と生徒寮で作られた二人分のテイクアウト用の食事を袋から取り出しながら、本田の様子を眺めた。
「俺はさくらに茅野が特例生徒であると学校関係者に偽の申告をしてほしいと頼んだ。俺が特例生徒だったからだ」本田は笹井に説明する。
「え?」笹井は突然の報告に「なんで黙ってたの」と問いかける。
「一応な」と本田は答えた。
「だがさくらは本当に特例生徒を茅野に移した」本田の言葉に、笹井は「それって」と声を震わせる。
本田は、「嗚呼、利用されたんだーーーーー」と答えた。
笹井は「あなたにしては凡ミスね」と呆れる。
「でも、本田くんでも失敗するなんて新鮮」と本田のほうに食事を渡しながら言った。
笹井は手を洗いに洗面台がある脱衣所に行く。
本田はおしぼりを手に取っては袋からそれを出し拭いた。
ボーっとする本田。どうしようか。などと考えているはずだ。
笹井が脱衣所から出てくると本田が手を洗いに交代する。
その後本田もリビングに戻ってきた。
本田は、「だがこれで安易に俺が動けなくなった。今まで以上に笹井に全面的に出てもらうことになるはずだ。」と言った後、小声で「いただきます…」と言い食事に手を付ける。
「明らかに落ち込んでるわね、本田くんってひょっとして自分は常に完璧だとか思ってる?」と本田に問いかける。
本田は「…」と目を逸らす。
笹井は、「本田くんって自分の中の型でしか動けないんじゃない?」と指摘する。
「型…?」と呟く本田。
笹井もおしぼりで手を拭きながら、使い捨てのランチボックスを開ける。
本田も同じタイミングでそれを開けた。
「本田くんって自分がこうするって決めたらその中でしか動けなさそうじゃない?選択肢なんて世の中に無数にあるのに、自分の中で組み立てた箱の中で物事を考えていく」
笹井の言葉に本田は、「要は無能って言いたいのか」と流し目を向ける。
「ほらそうやって」と言う笹井を、本田は「…」と真っ直ぐ見つめる。
「あなた哲学的な話苦手でしょ」と言う笹井に、本田は「そんなこと考えてどうするんだ」と答える。
笹井は「ロマンがあるじゃない…」と少し上向きながらキャラじゃない事を言った。
「そういう事言う性格だったかお前」と本田が笹井にジト目を向ける。
「お前こそ学校に溶け込んできたんじゃないか。どこの誰がどのようにスパイして監視しているかなんてわからないんだぞ、」
本田の言葉に笹井は「なに、あなた何か知ってるの」と本田を疑う。
本田は「いやべつに」と答えた。
「ねぇ本田くん。」
笹井は夕食を食べる目の前の本田に、「会長に何か言われたりした?」と探りを入れる。
本田は「言える話じゃないな」と答える。
「あなたって本当に情報共有しないわね」と笹井は本田を少し疑うように見ながら言った。
本田は、「お前だってしてないだろ」と答える。
笹井は「言ったらあなたは教えてくれるのかしら」と本田に問うが、本田は「…」と少し悩む。
同時に本田のスマホに着信が来た。
着信音を聞いた笹井は、(洋楽?それも十年以上前の)と違和感を持つ。
「悪い、一旦離れる」と立ち上がる本田。
「椛島さん」と言いながら本田が出ていくのが笹井の目にも映った。
(椛島さん…)笹井はその名前を忘れないように頭に入れる。
「ただいま」本田が帰ってきては、笹井も気にしつつ食事を進める。
「本田くんって普段どんな音楽聞くの?」と本田に訊ねる笹井。
本田は「嗚呼…令和の歌手…とか」と答える。
笹井は「幅広いわね」とその回答は流した。
本田は「急になんだ」と笹井を気持ち悪いと思いつつ、クッションの上に座る。
「いいえ、ただの世間話よ」笹井がそう答えると、「私は夏子が好き」と答える。
本田は「やけに古いチョイスだな」と笹井に言った。
「古くて悪かったわね。私のお母さんが聞いてたの。夏子。まぁ野球チームの監督、舘崎って人と結婚して引退したらしいから、リアルタイムで歌ってるとこ、見た事ないけど」と本田に言う。
本田は「…」と少し白けたような顔をした。
「興味なさそうね」と笹井は本田の反応を見て呟く。
本田は、「芸能界にあんまり興味ないからな」と答えた。
「そう」笹井はそう言うと、静かに残りの食事を進める。
本田も同じように食事を進めた。
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夜八時。『ごちそうさま』。二人の声が揃う。
「状況はわかったわ、本田くん。とりあえず私が今までより率先して動く。でも本田くんはどうするの」
笹井の問いに本田は、「俺は情報収集に徹する。他の棟も自在に動けるようになるからな」と答えた。
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女子生徒寮 『桃』。盛田の部屋。
盛田は電気も無い部屋で静かにスマホを眺めていた。
「返事なし、か」と落ち込む盛田。
盛田の机の上には六法全書や憲法などと言った少し盛田のイメージに合わない無数の本と書類が並べられている。
そんな女子寮の部屋に、トントン。とノックの音が響く。
「はい…」盛田は訊ねてきた人物を見て、「あッ!」と招き入れるような素振りを見せるが、その人物に睡眠薬が染み込まれたガーゼを押し当てられ連れてかれてしまう。
盛田についていた監視役の女性らが六法全書や憲法の本、携帯電話や盛田が本の中に隠すように挟んでいた『古川和美』と書かれた内閣府の職員証を半透明の大きなゴミ袋へ回収していく。
さらには監視役が盛田のデジタルカメラを床に打ち付けて破壊し、袋の中へ入れていく。
車の中で手首を拘束され、目隠しを付けられる盛田に、何者かが「ごめんね?でも、校則違反だから」と盛田に告げ、助手席に座り込む。
そのまま校章の付いた車は走り去ってしまった。




