十二話『事実で嗤う悪役大臣』
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生徒たちがマニュアルを一斉に開く。出海奈は教卓から生徒たちを見つめる。「お前ら、政治家に騙されたことはあるか」出海奈の真剣な声色に、教室が静かになる。
鈴木が手を挙げる。「政治家なんてみんな嘘つきだろ」 鈴木が言うと、教室中に大きな笑いが起きる。
出海奈は頷く。「なぜ嘘をつくと思う」出海奈の問いに、星野が「うーん。票が欲しいから?」と首を傾げる。
「世界の権力が欲しいからに決まってんだろ‼」佐田は立ち上がりすこし楽しそうに言う。「ちゃうちゃう、結局は大金やてー」布田は頭の後ろで手を組みながら笑った。
出海奈はふッ、と生徒たちを馬鹿にした後、「お前らは馬鹿だな」急に生徒たちに向かい暴言を吐いた。
「なんだとォ‼」これには鈴木も怒り心頭。
布田も「なんやねん‼」と苛立ちを見せ、志田は「もう先生の授業なんて受けませんよ‼」と反論する。
「だが、それでいい」出海奈の言葉に、増田は「はぁ?」と理解できていない様子だ。
「じゃあ質問を変えよう、政治家は国民に何を望んでいる?」出海奈の問いに、笹井は「納税ですか」と訊ねるが、出海奈は首を横に振る。
布田は「うーん、なんやろ…」と考え込み、チラッと本田に助けを求めるように視線を向ける。
本田は立ち上がり、「なにも望んでいない」と答える。
出海奈は手を二回叩き、「正解だ」と本田を褒める。
「くっそまた本田かよ」と鈴木が愚痴った。
本田は黙って座り直す。志田が、「なにも望まないってどういうこと」と出海奈に問うと、出海奈は、「政治家はハナから貴様らに政策を知ってほしいだなんて思ってない。口では政策を知ってくれ、うちに票を入れてくれといいようにいうが、あいつらが本当に望んでいることは、【なにもせず】、【情報も得ず】、【一生政治に無知のままで】、【ニュースに煽られるまま都合のいいように動いて欲しい】。そういうことだ」と腕を組みながら答えた。
「ニュースを垂れ流しにする。それ即ち、自分で情報を得る力を欠いていく事と同義だ。」
出海奈の説明に、盛田は少し気まずそうに俯く。その様子を本田はいち早くキャッチした。(ほぼ確だな)と本田は流し目で盛田を監視した。
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出海奈は、「たとえば失業者が百万人いたとする」と、ホワイトボードに【百万人】と大きく書く。
鈴木は、「失業者が百万人~?んなことあるのかよ」と疑いの目をホワイトボードに向けるが、出海奈が、「数十年前のコロナと呼ばれるパンデミックで百万人以上の失業者を出した。それより前となればリーマンショックなどもそうだろう。お前らが思っている以上に失業者百万人は身近な数字だ。少し話がそれたが失業者が百万人いたとして、政治家はなんて言うと思う、増田」と説明した後に増田に振る。
増田は、「失業者百万人達成とか?」と言うが、出海奈は、「なわけないだろう」と速攻ツッコミを入れた。
「今年は九十万人就職しました。…こういう言い方をする」
出海奈の説明に、鈴木は、「なッ⁉失業者が百万人いることから目逸らしてんじゃねぇか⁉」とホワイトボードに指を差しツッコミを入れる。
「なにか間違ったことを言っているか?」出海奈の反論に、鈴木は、「きったねぇ」と言いながら座り込む。
「次の政治家はこう言う、まだ十万人も職につけていない。さらに別の政治家は言う、昨年より失業率は改善しました。」
出海奈は教室を見渡す。「さて…」出海奈は少しほくそ笑む。「だれが嘘をついた?」出海奈の問いに、佐田が、「だ、誰も嘘をついてない…」と驚く。
「物は言いよう、とはこういうことだ」出海奈の説明に、盛田が、「そ、それでは…ただの政治批判では」と出海奈に問う。
「政治批判?事実を述べたまでだ。そう、人は事実で判断している…ように見せかけて、出来上がったそこにある事実として象られたものを見て判断している。」
出海奈はさらにホワイトボードにマーカーで【切り取り】と書く。
「政治家だけじゃない。ニュース、SNS、企業、宗教。全部を使う。」
出海奈は盛田を見て言った。出海奈は教室を見渡す。
「真実を一部だけ混ぜる。これが最も安価で合法的な誘導方法だ」
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出海奈の発言の後、本田が手をあげた。「で、あれば有権者はなにを見ればいいんですか」本田の問いに、笹井がチラッと隣の席の本田を見る。
「いい質問だ」出海奈はホワイトボードにマーカーで書き記す。【得するのは誰か】出海奈は口元だけで笑う。
「政治家の発言を見るな。その結果で得する人間を見ろ。」
淡々と授業をする出海奈、本田は無機質な目でホワイトボードを眺める。
ここで茅野が、「でも、政治家って国民のために働くんじゃ」と首を傾げる。「そんな考えは捨てろ」出海奈は強い言葉で茅野に言った。
茅野はフリーズしたように動きを止める。
出海奈は、「国民も人間だ。政治家も人間だ。人間は全員、自分のことしか考えちゃいない」と現実を生徒たちに教える。
「数少ない有能な政治家がいたとしても、自分のことしか頭にないマスコミや活動家にある事ない事噂されて潰されていくだけだろうな。それほどまでに優しさと言うのは弱さと同義だ。」
出海奈はさらにホワイトボードに文字を書き込む。【恐怖】【希望】この二文字を見た鈴木は、「おい、対局じゃないか」と出海奈にツッコミを入れる。
出海奈は、「いいことに気づいたな」と笑った。
「このふたつが最高の武器だ。明日隕石が降ると言われたら人は従う。明日幸せになれると言われても人は従う。」
出海奈の言葉に、盛田は少し不服そうな表情を浮かべる。
「だから政治家は恐怖か希望を与える」
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出海奈の発言に、盛田は、「悪い議員さんばかりでは、無いと信じたい…です」と出海奈に言った。
「誰も悪い、とは言ってないぞ。誰の言い分を信じるか、どこから情報を得るか。その情報は正しい情報か。それを判断するのはお前たちだ。だが判断が出来ない人間たちに限って選挙に行くから、日本はここまでボロボロになってしまった。と言う事だ。…それ以上の原因も、含まれるがな」出海奈は少し切なげな表情で俯いた。
盛田は、「…どうして出海奈先生は突然国政の授業をやりはじめたのですか?マニュアルでも結構後ろの方…」と出海奈に問いかける。
出海奈は、「答えは明白、だがそれにはお前たちで気づいて欲しいのが私の願いだ。なぜ私がこのようにして今日、お前らに政治家のやり方を伝えたのか。これを活かすも、活かさないも。お前らの自由だ」と生徒たちに伝えた後、「解散、持ち場について今日も実践に取りかかれ」と続け教室を立ち去って行く。
皆が準備をしている最中、笹井が本田に耳打ちする。「ねぇ、今日の出海奈先生、変じゃなかった」笹井の言葉に、本田は、「変って」と訊ねる。
「それ以上の原因、って言った時、表情変わったじゃない」と言う笹井に、本田は、「嗚呼」と答えた。
本田は、「今考えるべきはそんなことじゃない」と笹井に返し、いつも通りに本田は茅野と佐田を呼びに行った。笹井は腕を組みながら、「ふんッ」と少し拗ねたような態度を取った。




