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『一組 ─今日からあなたたちは詐欺師です─』  作者: ミタラリアット
一年生 一学期編 七月

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110/111

FILE110『さて、涙の味を確かめよう』

「…」「いくよ、本田」飛鳥が本田を宥めながら、全員での集合がかかった部屋へ行こうとするが、本田は首を横に振った。




佐田が、「集合かけられて─────」と言うが、本田が体育座りになり動かなくなる。



「ごめん、佐田。先行ってて。本田が寝てるとか適当に誤魔化しといて」飛鳥の指示に、佐田が「嗚呼―――」と頷いて、笹井、盛田、志田、星野が四人で待っていた女子寮の部屋に向かう。




全体の監視役が、キョロキョロ辺りを見渡している。



(騒がしいな)佐田はその忙しない光景を眺めながら、それでも脳の片隅に記憶しておく。


遠くで監視役の一人がインカムを付けながら、「ジャック・ヴォーダーがやられた」と英語で誰かと話す。


『はァ?ジャック?ンな馬鹿げた話があるかよ、奴はウォッチャーの中でも最強格だぜ』電話先の相手も困った様子だったが、信用されず通信を切られる。



白衣を着た本田の担当の監視役が、「なんの騒ぎだ」とウォッチャーステーションから駆けつける。



「ミスター・聖原(せいばら)。ジャック・ヴォーカーがやられた」



筋肉質の男性の監視役が聖原。と呼ばれた本田もよく知る男に話しかけては、聖原は「そんな強い奴。この島にいるとしたら理事長だけだ」と真顔でその全体のリーダーのような監視役と少し揉める。



自室で蹲る本田は、飛鳥に声を掛けられる。


「─────自分のせいで増田が死んだ。とか思ってんのか。」



飛鳥の声に、本田は「選んだのは俺だ」と否定せず、正面から受け入れ頷いた。



それはそれは実に自罰的だ。



飛鳥が「そんなわけ無いよ」と小さく笑う。



「お前。この世の不条理全部自分のせいだって思うタイプなのか?何も考えて無さそうで。慈悲深いんだな。でもさ。今回は俺たち、学園のせいだって開き直って本田一人だけで責任なんて抱えなくたっていいと思うんだ。今頃。笹井たちが必死に何かを話しているだろうけど。明日もまた人が死ぬのは止められない。そりゃ、防げるなら話は別だけど、学園はこうやって俺たちにはどうしようもない事を突きつけてくる。」



飛鳥の言葉を黙って聞いた後で、「だったら動くなって言うのか」と体育座りで顔を膝に埋めながらもう今にも精神が折れそうな声で問いかける本田。



「俺はそもそも、前野の時点で犠牲なんか出したく無かったんだ。でも、この一学期中。《Ⅹ》って概念を作って、裏からどうやってこれ以上の被害を出さないようにするか。模索してきた。辛くて。苦しくて。実のところとっくに限界なんて超えていて、それでも、俺がここで逃げたら、あの時以上の大事になりかねないって」




本田が頭を抱え、息を荒くさせながら飛鳥にゆっくりと打ち明ける。



「前野も、増田も。全員で、この島を出たかった。もう敵わないんだ。研究所。あの扉の向こうできっと、きっと増田は酷い事をされたんだ。俺が止められなかったから。目標額を稼げるように真剣に向き合わなかったから。何処か心の中でそんな事起こらない、きっと、全員卒業出来る、更なる犠牲なんか出さないって信じたかったから」



後悔はいくらでも吐ける。なのに今更動きようがない本田は、ひたすら、じわじわ、じわじわと精神が削られる。


飛鳥は黙って本田を抱き寄せた。



何処か。以前も似た温もりを感じた事がある。




「でも俺は。俺はさ──────。嗚呼…ダメだ…言葉が何も見当たらない…」



ただ優しく、本田の背中を摩る飛鳥だったが、二人で抱きしめ合いながら、震えるように泣いてしまう。



ここに追い打ちで学園裁判が来るんだ。



この学園には、人の心が無い。



本田の啜り泣きが聞こえる。



背中が震えている。



ろくに力も入っていない。


それに、本田自体最近少しおかしかった。



その錘が、ゆっくり、ゆっくり、と飛鳥の優しさで溶けていく。


(普段…魔王とか言って…ゲラゲラ高笑いしてるバカに俺は…なんて恥晒しをしているんだ…?)




なんて本田は心の中では嫌がるものの、涙はどう足掻いても止まらない。




時刻は二十一時。就寝までには笹井の部屋にいかなければならない。




「飛鳥…お前さ」本田はそう言った後、「今から俺が考えている事言うから、最低だって思ったら俺の事、切って貰って構わない」と真剣な目を飛鳥に向け、指で飛鳥の涙をも拭う。




自分が一番ギャン泣きしていたというのに、それでもだ。



「…それはさ。本田。全部考えた上での、最適解なのか?」




壁に凭れる二人。両手のポケットに手をいれ静かに問いかける飛鳥と、フードを被り、腕を組みながら、「他に無いんだよ」と答える本田。



「でも…今の本田がそんな事したらお前…壊れていくんじゃないか。」飛鳥は的確に懸念点を挙げる。




だが本田は「これは俺にしか出せない答えだ」と、泣いた後の掠れた声で言い切った。



「…本田ってさ」「普通の高校生じゃないよな」飛鳥の問いに、本田は目を逸らす。




「なあⅩ」飛鳥は本田をⅩと呼んだあと、「お前。何しにこの学園に来た」と続ける。




本田は、「…復讐」とだけ具体的に挙げた。



普段は言わないが、飛鳥にぽろっとだけ。



笹井にも言わなかった事。



それは毒となるか、薬となるか。



飛鳥は、「そっか」とだけ優しい声で返す。



それ以上は追わなかった。




飛鳥は、「俺が子供の時に、本田が傍にいてくれたらよかったのに」と意味深な言葉を吐いた後で、「行こ、本田。笹井が待ってる」と本田の手を引くのだった。




「ああ…」本田も手を引かれながら、女子寮に向かった。女子寮では、増田がいなくなった事を聞いた盛田が、「ごめんなさい、ごめんなさい、わたし、防げなかった―――――‼」とパニックに陥っていた。



それを宥めるのは、茅野。



本田は茅野の顔を、生気を失いかけている目でぼんやり眺める。



なぜなら、増田を車の中へ連れ込んだのは、茅野アリス本人だからだ。

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