FILE109『い゛き゛た゛い!』
夕方六時。
増田シュン。
最後の晩餐。冷食は嫌だったのか、増田は鈴木たちと総菜を島の中のコンビニで買って、食べる。
もぐ。もぐもぐ…。だが、減らない。
当然だ。「泣きすぎじゃないか」増田の一言に、布田と鈴木が、『当たり前だ(や)‼』と声を揃えた。
友人の死に直面しているのだから。
こんな中で、楽しくメシ~♡なんて出来たらただのサイコでしかないわけで。
だがなぜか処刑対象本人の増田は死の一時間前ですら、泣きも、笑いもしていない。
この友人との時間を刻むように、穏やかに過ごしていた。本人が穏やかに過ごす一方で、盛田が「笹井さん…笹井さんッ…‼いやですッ…‼誰も死んでほしくなぁ…‼」と笹井の膝の上でグズグズグズグズ泣いていた。
笹井は、「本当にⅩは動くのかしら…」と深刻そうな表情で顎に手を当てながら考える。
星野は、「Ⅹは、情報は持ってくるだろうけど。増田くんを自分の命の危険を顧みずに守るような人間じゃない──────。と思う」と斜め下を向きながら考え込む。
志田は、「…ねえ。笹井さん。どうやったら増田くんを守れる?」と笹井の顔を見ながら問いかける。
笹井は、その質問に、泣いている盛田の背中を摩りながら、黙り込むばかりだった。
十八時五十分。
「ねえ、茅野さん、どこ行くの?」朝日が食事中にいきなり立ち上がった茅野に手を伸ばす。
榎本と福川も「どしたー?」「茅野さーん?」と玄関前にパタパタと集まった。
「ごめんごめん、ちょっと忘れ物しちゃってさ」茅野がそう言っては、朝日が「あーじゃあ私も」と立ち上がるが、茅野から首に思いっきり手刀を食らい、気絶する。
「茅野さん⁉アンタ一体」
福川も驚きながら言うが、茅野はガスマスクを装着した後でプシューっとポケットから何かのスプレーを撒き散らし、福川、朝日、榎本の女子三人組に向かって吹きかける。
パタリ。と倒れる三人。
茅野は、リバーシブルの上着を黒の面にして黒パーカーフード姿になった。「さて」静かに呟いた後、チャックを首元まで上げる。
鈴木、増田、布田がいる部屋の前で、「ごめん、ちょっといいー?」と茅野が話しかけては、「なんや?」かなり聞き覚えがある声に、布田が扉を開けてしまう。
その途端、閃光弾。
「眩し⁉」さらに追い打ちをかける催眠スプレーを前に、集団なんてものはもはや関係なかった。鈴木が、「おい布田どうし…」と言いかけ、そのまま夢の中に入ってしまう。
布田はもう既に力なく倒れている。引っ張られ、茅野に倒れたところを強引に車の中へ押し込まれてしまう増田。
楚々辺理事長が、「よくやった」と茅野の頭を撫でる。茅野は上着を楚々辺に渡し、楚々辺はそのまま車を走らせる。
茂みからその様子をパーカー姿で伺う本田。
スマホを首から下げた状態だ。
そのまま、車を追いかけて走る。
現在。外に本田の担当の監視役の目は、無し。
だが担当を持たない全体の監視役たちの目を欺きながら、死角を走り、車が去った方向へ向かう。
「誰だ⁉」監視役が黒い影に気づく。
──────囲まれた。これでは捕まりかねない。かなり危険だ。
「誰だって聞いている‼」監視役が本田のパーカーに手をかけるが、本田はやたら鍛錬された動きで反射的に避けてその監視役の腕を軽々掴み、武道に近い要領で床へサッと投げつつ、他の囲んでいる監視役も交わしながら車がいなくなった研究所の方向へ走って行く。
「うッ…う」と悶えながら蹲る監視役たち。
『研究所の方に不審な影が動いた』
監視役がトランシーバーで呼びかけては、何事だ、何事だと監視役らが小さな騒ぎを起こす。
「はぁッ‼はぁッ‼」
車のナンバープレートを追いかけるが、息が続かずゆっくり倒れ込みそうになる本田。
更にそこに、くるくるくる、と回転しながら誰かが着地する。
「なッ⁉」本田は一気にその黒い人影に距離を詰められ、「がはッ…」鳩尾を強く殴られる。
覆面マスク。強盗のような。だが身体は細身。
本田は起き上がりつつ、【謎の武術】でそれを床へ押さえ込む。
「お前――――」
本田はその人物のフードを外す。
茶髪の…ツインテール?
「まさか…茅…」
茅野は相手が誰かを気にせず、立ち上がり、息もあげないまま本田を木へ追い込む。
だが、それなら。と本田は「止まれ―――――‼」と茅野に命令口調で伝えた。
目を黄色に光らせ、ウィーン…。と音を立てながら止まる茅野。
本田はここで茅野を木に追い込み、腕を掴みながら、「 今の戦いは【忘れろ】 」と命令を続け、最後に、茅野に対し「───────」と何かを命令してそのまま研究所に向かい、走って行った。
目を黄色く光らせたまま、茅野はその場でシャットダウンされ項垂れる。
走りながら研究所まで来ては、「ゼェー…」と明らかにキツそうな深い呼吸をするが、ドンッ‼ドンッ‼と打撃音が研究所の中から響き、「はッ」と本田は目を見開く。
突入すべきか?否か。どう動くべきだろうか。
Ⅹとして。友達として。【本田湊】一個人として。
だが本田は恐怖に苛まれる。
─────行けない。極力まだ避けたいが、自分が死ぬのは最悪の状況下なら厭わない。怖いわけではない。
でも、クラスメイトが本当に死んだのかを確認するのは──────。今の本田には辛すぎた。
まだ、全員十五・十六だ。
ドンッ‼ダンダン‼暫くして、あれほど死を悟っていた増田の最後の声が聞こえた。
《 嫌だ‼死にたくない‼ 死にたくない‼ 嫌だ‼ 辞めろォォォ‼ 》
必死の抵抗をしているような。
中で何が起きているかなんて本田は知る由も無い。
研究所前の茂みに座り込み、両耳を手で塞ぐ。
《こういう時に学園に抗う為の工作員なんでしょ⁉》
思い出す星野の絶叫は、本田の中では最悪の言葉だった。一種の呪いだ。
《 グォォォォォォォォ… 》暫くして、ゾンビのような重たい声をあげる増田がいる研究所を振り返りつつ、本田は深くフードを被りながら生徒寮の方向へ走る。
行きに自分と軽く戦ったせいで倒れている監視役の身体を乗り越えながらの帰還。
佐田と飛鳥が扉を開き、帰って来た本田を見ては、その明らかに暗い雰囲気に、全てを悟って本田を抱きしめるように駆け寄って来た。
先ほどまで三人でいた部屋では、「増田⁉」増田を助けられない夢に目覚めた布田が飛び起きる。
鈴木の身体も揺さぶりつつ、増田がいない事に気づいてはすぐさま笹井にラビィで電話を掛けた。
時刻は、二十時五十一分。朝日、福川、榎本、茅野がいる部屋では、朝日が何事も無かったかのように隣でぐっすり眠りにつく茅野の身体を揺さぶる。
「ちょっといま何時よ…」と朝日が腕時計の時刻を見ては、増田の処刑の予定時刻を過ぎていた。
「ちょっとみんな起きて‼」朝日の声が、部屋に響き、榎本、福川、茅野の三人が目覚めるのだった。




