FILE104『弐式火神という男』
夜。食堂では志田と星野が他愛もない話をしていた。
そんな時、一年一組の生徒にだけ一斉に、《ブーッ、ブーッ、ブーッ》とメールが送信される。
食堂から帰るために監視役を待っていた佐田が、「なんだこれ」と首を傾げた。
佐田の隣にいた鈴木も画面を覗き込む。
「Ⅹだな」鈴木の声に佐田が「ようやく動き出したか」と口角を緩める。
「やっぱりⅩもこの状況を把握してるやつっぽいよな」
鈴木もポケットからスマートフォンを取り出す。校舎の裏に何かの電波塔が見える…。
立ち入りは出来なそうだ。
だが東京タワーよりも、なんだか立派?
《志田の負債の目標額を稼がないで下さい 今回は負けましょう》
一斉送信されるⅩからの指示を見た鈴木が、「はァ⁉」と眉間に皺を寄せ、大声をあげる。食事を済ませた星野と志田も、二人でバタバタと走って来た。
「見た⁉メッセージ‼」佐田が星野に聞けば、「どういうことよ、稼がないで下さいって、どういう…Ⅹはクラスメイトを処刑したいの⁉」と星野の横にいた志田が割り込んでヒステリックを起こす。
星野も、「今回は負けましょう…って。そんな簡単に言えない、人の命がかかっているんだもの…」と不安げな顔を見せた。
《ブーッ、ブーッ、ブーッ》
Ⅹからの第二報が、全員にまた一斉に届く。
「お前ら今送ったか?」とまず自分以外の三人を確認する鈴木。全員首を横に振る。
《犠牲にしても安全な位置を処刑先にします。学園裁判には通しません。わざと学園に処刑させて、処刑の瞬間を待ち伏せし、本当に死んでいるのか。Ⅹである私が確認します。今回。対象を守る余裕は現在の私にはありません 罠をかけませんか 学園に 一年一組全員で連動して 》
Ⅹからの指示を声に出して読む佐田。
「…誰かⅩに連絡を取れないか」と問いかける鈴木。全員首を横に振る。「Ⅹさんに聞きたい事。山ほどあるのに」と俯く星野。志田の監視役と星野の監視役が見えては、「ごめん、私たち先」と佐田と鈴木に手を振った。
鈴木は佐田をA棟の下駄箱前のガラス扉に追い詰める。両肩を持たれた。壁ドン。
「お前。飛鳥とコソコソ話してる事多かったよな、Ⅹの正体わかるんじゃないか⁉」
鈴木の力に抵抗出来ない佐田。
「知らない‼」きっぱりと鈴木の腕を抑えながら佐田が抵抗しては、鈴木は「良いのかこのまま従って犠牲を出しても‼」と佐田の方へ項垂れながら背中を震わせる。
「死ぬかもしれない奴を、俺たちで選ぶって事だぞ、Ⅹが言っているのは、そんなの俺に出来ねえよ‼」
鈴木の必死の訴え。七月の夜。蝉の声。満月。息を整える。佐田に絞り出すように、不安げに言った。
「しにたくない…‼誰かを殺したくもない…‼」
みっともない。みっともないがクラス全員の総意はこれだ。
「自分だけ安全な位置から選別なんてテメェできるか⁉」
誰でも良い。もう今いる人に鈴木は理解して欲し
かったのだろう。それがたまたま。佐田だった。
佐田の監視役が見えては、鈴木は掴んだ佐田の胸
ぐらを離す。少し遅れて鈴木の監視役も来た。
「…クッソがよ‼」鈴木は監視役に何かをひたすら嘆き続け、その後泣き出したのか、宥められていた。
本田はボーっとベランダから潮風に当たる。
「…」楚々辺理事長の言葉が永遠に脳内を邪魔する。Ⅹとしてメールを送った副端末のスマホを握りしめつつ、暗くなった島を眺める。
(この島で今まで何人死んだ)
(何人が絶望して逃げ出そうとした)
(今、何人が希望を持ち続けている)
(何がこの島を覆っている)
本田は窓を閉めつつ、動画サイトを見た。トップの動画は、【神庭総理の高校時代のイジメ疑惑に野党が国会で言及 総理 事実無根と明言 これに対し野党側のコメント《火のない所に煙は立たない》】と見出しが大きく書かれていた。
神庭美沙総理―――――。
旧姓。鳥羽。
普通には到底入れないような偏差値七十超えの難関名門。
国立創集院大学附属中学校・高等学校卒業生。
だがこの学園もパッと調べてみた感じ臭う。
学園での自殺事件、生徒の不審な事故死、男子生徒、弐式火神と女子生徒、笛野小百合の失踪―――――。
行方不明になった女子生徒の件を調べると、笛野小百合と名前が出てくる。
インタビューに出て涙しているのは親ではなく、親戚。行方不明者の割に、卒業してからの報道が多く、顔写真は簡単に見れない。
最低限以外は、この二人に触れる事は現代社会ではタブーらしい。
《翠川穂乃果》
本田が彼女にコールを掛けては、夜の常夜灯だけが付いた部屋に、スッとホノカが入ってくる。
「弐式火神について教えろ」
本田が問いかけては、ホノカは「ん?今までずっと教えて来たはずだが」と私服の白いワンピースを着たまま目をパチパチさせる。
「最初からだ」本田からの催促に、「はぁ」とホノカは溜息を吐いた後で、本田に正面から向かい合う。
「弐式火神は、私が壊した。」
本田は耳をピクリと動かす。
「…何言ってんだ…?」
「あいつは優秀な警察官…弐式警視正を父に持つ妹思いの普通の兄だった。警官を志す。でも私は、地獄の維持のために【死神代行】を探していた」
ホノカの説明に納得が行かない本田は、「は…?…そんなの…ありえない…あの教祖は…悪逆非道の」と震えた声で呟きながら固まる。
「私は死神。生命が存在する限り。死神代行を増やしていかなければならない。当時は日本人の犯罪者が少なく、それ以外に偏っていた。だから。私は【日本人の死神】を求めて地上に来た。すると面白いものを見た。弐式火神の幼馴染で、彼が想いを寄せていた笛野小百合が、才色兼備の仮面を剥いで、少女を虐めている姿だった。それも集団で。私は彼女に死神としての才能を見出した」
何を言われようが、理解が追い付かない本田。
「待てよ死神」本田は混乱する。
「最後に死神になれば地獄で一生の務め。現世の全ての罪がチャラだ。だから私はサユリを死神代行にしてやろうとした。死神代行を付与されてはされてはデフォルトで死神代行特有の状態を付与される。【毎日人間を殺さなければ、周りの大切な人間がランダムに死ぬ】。これが死神代行のルール。死神とはまた別だ。それに死神代行は半死神状態となり自死を認められない。不死」
本田は時間が止まったように、何も言葉を返せなくなる。
「これ…現実の話か」
「違う。お前はこの世界を現世だと思い込んでいる。だが実の世界は常世だ」
「サユリを死神代行にしようとした時 弐式火神が割り込んだ。私の計画を邪魔した。だが、案外良かったのさ、そいつが。弐式火神は【正義】そのものだった。優しすぎた 死神としては都合が良すぎる」濁しながらホノカが言っては、「これから先は自分で考えろ お前はカガミ程の素質もなければ狂気も無い」
何処か、やや俯きながら語り続けた。
「…わけわかんねえよ」
ついに本田からその言葉が漏れる。
「死神…死神代行…現世…常世…ついていけない でも確かにお前は浮遊して消えられて、現実離れした事は目の前で起こっている」
その言葉を聞いて、ホノカは窓の月を仰ぎながら笑う。
「…本田湊…お前に解けるか。この陰謀は、お前が思う程 容易い問題じゃないぞ」
「それに私はお前の未来を大抵観測できる。この世の因果を外れたものだからな」
ホノカがそう言っては、本田は「言ってみろ」と私服のポケットに手を入れながら問いかけた。
影が似合う冷たい視線。
ホノカは、「成功」とだけ伝え、本田の肩を優しく叩いた。
「安心しろ。お前の未来は明るい。目的は成し遂げる」
ホノカはサッと本田の前から消える。
残り香だけが部屋を満たした。ミントとシャボンの香水の匂い。
本田は小さく呟く。
「…なんで教祖なんだよ…?」
互いに存在を認識したことも無い男に、悔しそうに嘆いた。




