FILE101『暁 ~はじまりと終わりの為の部隊編成~』
七月。否、七月以降。
これからずっと使われる班決めが決まる。
指揮チーム 笹井 本田 茅野 運営チーム 鈴木 増田 布田 開発チーム 佐田 飛鳥 星野 企画チーム 朝日 榎本 福川 カスタマーサポート 代表役 盛田 志田と言った並びだ。星野と、志田が離れた。
いや。離された。
これは笹井と本田の相談の上で。指揮チームに茅野が入ったのは、笹井独自の判断。
今まで活躍していた盛田が、サポートチームに回されている。これは本田の案だ。
笹井は盛田さんはもっと活躍できると反対したものの、星野と志田と盛田の今までやっていた組を離す場合に盛田がバランスよく采配できる位置はもうない。という本田の苦肉の策だ。
―――――表面上は。
「さて。ここでだけど本田くんから指示があったわ」と笹井が話を切り出す。
「今まで使っていた投資の偽サイトを閉鎖して」その発言に、茅野が「リスクだよ⁉」と抗うが、「いや。朝日の案をもとに代理アプリは既に出来ている。【事業】としてプロジェクトに名前を付けるなら、過去の産物は消した方が無難だ」としっかりクラスの事を考えた上での本田の回答に、茅野は「でもあれが一番効率良かったじゃん」と効率論で反対意見を述べた。
「安定して採算が取れていた偽サイトを捨てて舵を切るの?」
茅野の反論っぷりに、増田が「なんだ。汝ら。指揮チーム同士で連携出来てないのか」と腕を組みながら鼻でバカにするように笑った。
「汝ら指揮役からかもな。処刑されるとしたら」冷静な増田の声に「処刑の話とか辞めようよ」と女子生徒が宥める。
茅野は目を逸らした。
「みんなで最初に作ったサイト…佐田くん。本田くんと。落ち込む茅野に、笹井が「人間。進歩は必要よ」と言うが、人間では無くロボットである事が確認されている茅野は、グッと拳を震わせ俯くのだった。
本田は一連を流し目で確認しつつ 。
「全員が初期パスワードを入力するだけでサイトにログイン出来るようにしてある。」
本田がそう言うと、「お前そんなパソコン触れねえだろ」と鈴木が問いかけた。
本田は「嗚呼」と頷いた後で、「生徒会の協力を仰いだ。長谷部先輩の技術だ」と完全なウソで場は切り抜ける。
茅野は、「長谷部先輩と繋がりあったけ本田くん」とポカーンと呟くが、その場は流す。
「待って⁉すごくない⁉マジでAⅠチャット乙女ゲーみたいになってるんだけど」と朝日の驚きに、「これAIだけじゃ作れないよ」と福川や榎本が夢中になる。
「これに、カスタマーサポート組がログインしてイケメン役を演じ、会話に夢中になる相手に、本来機能として存在しない課金アイテムを入金させていく。課金者でないと返事が来ない状態に偽造して。夜中や昼間は自動応答で誤魔化す。アプリストアからは入れられず、野良で配布サイトからインストールする仕組み。アイテム課金にはカード番号の入力も必要で若い世代からの個人情報も奪える上に、乙女ゲーム事業ゆえの、亜種、作り放題」
盛田があまりにも計算された作戦に震えながら呟く。
「乙女ゲームって案。最高でしょ?」
朝日は片手を動かす仕草を見せながら笑った。
本田は「まあ、検閲の回避で配布を個人ブログサイトにしたから何人に気づかれるかわからないが」と補足説明をする。茅野が壁に凭れかかりながら、「それっすっごいあやしい」と言うが、「そもそも怪しいって気づける層はどんな詐欺にも近づかない」と本田は冷たく答えた。
「詐欺は騙す方も悪いが、まだ消えない。儲かってしまうのは再三言われたからと新手の詐欺が出る度に引っかかるバカがいるからだ」
本田の言い方に、志田が「まるで優しさから詐欺に引っかかるようなユーザーまでバカにしてるみたいじゃない」とパソコンの画面を開きながら呟く。
本田は、「適切な場面で適切に扱えない意味のない優しさは、弱さだ」と続けた。
飛鳥が本田の顔色を伺いながら固まる。飛鳥は競技祭の時から薄々勘付いてはいた。
本田の顔つきが。ゆっくりと、何かに飲み込まれるように、変わってきている事。
いや、きつくなってきている。
飛鳥は佐田に小声で呟く。
「…なあ。これ…」笹井が佐田と飛鳥のコソコソ話に視線をやる。
企画チームの朝日たちが次はどんな詐欺をするか。今の相場は。と高校生らしからぬ話をはじめる。
増田や鈴木は、どれくらいの周期で新しい詐欺を考案して予算はいくら使えて…と表計算ソフトに打ち込む事から現実的にはじめていた。
それぞれが、それぞれ、自主的。
実際、競技祭の裏で本田がスマホで試運転をしていた。BOTを運用しながら。この時点で、ユーザーはまだいないが、カスタマーサポートにBOT対応をさせて実働出来る姿勢だけは構築しておく。
笹井が、「けれど不思議」と微笑む。
「え」本田が首を傾げては、笹井は「初日からユーザーがいるなんて。」と鋭い視線を向けた。
「…」本田は何処かに流し目を向けたまま黙る。
「…本田くん、あなた。そんなに反応鈍かったかしら。目の下。隈まで出来て。それに。ちゃんと食べてるの?細身になってるわよ」
笹井の指摘に、「あー」とボーっとしながら本田は、「嗚呼…」とだけ静かに頷いた。
「本調子じゃなさそうね」鼻で笑う笹井。
本田は、「お前は…この中から必ず死人が出るのによく平常心でいられるな」とだけ呟く。
それぞれのテーブルを巡回する茅野。
笹井は、「関係ないでしょ。だってもう既に初日で前野さんが死んでるんだから。このクラス。後誰が死のうが、大か小かの違いよ」と本田の地雷原を踏み荒らすような返事をする。
「…」
結構、本気で悔しがる本田。
笹井のような割り切った考えは出来ない。
「笹井。お前は誰を選ぶ」
本田の問いに、「誰でもいい」「私以外なら」「軌道修正も出来る」とはっきり答えた笹井。
本田の中で、好感度が若干下がる。
(…)(なんで笹井はそうやって)
本田は壁に凭れ下を見ながら踵をリズムよく鳴らす。
組んだ腕の上で、指も。クラスの雰囲気が、競技祭の前後で、明らかに違う。




