第百四十六話「第一期末テスト終了⑨」
春馬の舌鋒に圧倒され、一度は言葉を失った男たちだったが、極限状態の恐怖は時として、人間の脳を極めて独創的、かつ破綻した方向へとドライブさせる。
「……っ、うるせえんだよ! ブサイクは黙ってろ!」
リーダー格の男が、絞り出すように叫んだ。その言葉を皮切りに、男たちの反撃は「事件の正当性」から、あまりにも唐突で、あまりにも意味不明な「ルッキズム(外見至上主義)」へと急旋回を始めた。
「そうだ……お前、鏡見たことあんのか? そんなガリ勉が何言っても響かねえんだよ。……いいか、世の中にはな、『残酷な格差』ってのがあんだよ!」
「そうそう! 俺たちは、ぶっちゃけイケメンなんだわ。イケメンがするこういう行為はな、女の子にとっては『犯罪』じゃなくて『ご褒美』なんだよ。わかるか? お前みたいな陰キャがやったら即通報だけど、俺たちなら感謝されるレベルなんだよ!」
三人の男たちは、自分たちの「顔」という、客観的指標の存在しない最後の砦に縋り付くようにして、声を荒らげる。その論理はもはや支離滅裂であり、法治国家の住人とは思えないほどに崩壊していた。
「イケメンとブサイクは、生まれた瞬間に住む世界が違うんだ。俺たちがイケメンで悪かったな! 才能? 努力? そんなの知らねえよ。俺たちには『ビジュアル』っていう、お前が一生手に入れられない最強の才能があんだよ!」
男たちが勝ち誇ったように、歪んだ笑みを浮かべる。自分たちの犯そうとした罪を「容姿」という免罪符で相殺できると本気で信じ込んでいるかのような、狂気的な選民思想。
だが、それを聞いた春馬は、怒り狂うどころか、本日一番の、深く、そして不気味な笑みを浮かべた。
「……ククッ、ハハハハハ!」
乾いた笑い声が、校門前に響き渡る。春馬は獲物を見つめる科学者のような目で男たちを見据えた。
「……素晴らしい。最高に面白いサンプルだ。……いいぞ、お前たち。その通りだ。お前のその『論理の破綻』こそが、俺が最も愛する、人間の愚かさの結晶だ」
春馬は一歩、また一歩と、自分たちを「イケメン」と称する男たちへ歩み寄る。
「認めよう。お前たちの言うことは、ある一点においてのみ、残酷なまでに正しい。……つまり、お前たちは『ただ、生まれてきただけ』だということだ。それ以外の属性、それ以外の価値、それ以外の自己研鑽による成果が、一ミクロンも存在しないという告白だな?」
春馬の声には、嘲笑を超えた「憐れみ」さえ混じり始めていた。
「『ビジュアル以外の才能がない』? 素晴らしい自己分析だ。……つまりお前たちは、自分の意志で獲得したものは何一つなく、ただ遺伝子の組み合わせというランダムなガチャの結果、たまたまその皮を被って出てきただけの『肉の塊』だと言っているわけだ。お前という個体の内面は空洞で、思考は腐敗し、残っているのは親から無償で提供された『外装』だけ。……それは確かに、親に感謝しなきゃならないよな?」
春馬は、リーダー格の男の顔を覗き込むようにして、言葉を続ける。
「五体満足で、健康に産んでくれてありがとう、ってな。……でも、悲しいよな。親が一生懸命に栄養を与え、病気から守り、大切に育ててきたその『健康な肉体』が、今この瞬間、他人の尊厳を蹂踏するための道具に成り下がり、挙句の果てには刑務所の冷たい床に横たわることになるんだから。……これ以上の親不孝があるか?」
「……っ、何を……!」
「お前たちの言う『ご褒美』? 冗談は顔だけにしておけ。……いいか、生物学的な『オス』としての価値を外見だけで語るなら、お前たちは孔雀の羽根にすら劣る。羽根を広げる以外に何もできない個体は、自然界では真っ先に淘汰される運命だ。……お前たちが誇るその『ビジュアル』も、留置所の薄汚れた壁の前では何の役にも立たない。……そこでは、イケメンもブサイクもない。『被疑者』という、ただ一種類の無機質な番号があるだけだ」
春馬の言葉は、男たちが盾にしていた「自負」を、鋭利なナイフで剥ぎ取っていく。
「お前たちは今、自分たちの唯一の武器である『見た目』を、自らの愚行でドブに捨てたんだ。……明日からのニュースで見られるお前たちの顔は、どんなイケメン俳優より醜く、不快なものとして全国に拡散されるだろう。……良かったな。お望み通り、お前たちの『ビジュアル』は、これ以上ないほど強烈な『アピール』として社会に刻まれることになるぞ」
春馬の背後で、蒼奈が小さく息を呑む。
春馬はもはや、彼らを人間として扱っていない。ただの「破綻した論理のサンプル」として、徹底的に、再起不能なまでに解体していた。
「……さあ、次の言い訳は? まだ『ご褒美』とかいう妄想を垂れ流すか? それとも、そろそろ自分の立たされている『現実』という名の地獄に、気づき始めたか?」
春馬の冷徹な問いかけに、男たちはもはや、返す言葉を持たなかった。
彼らが唯一誇っていた「顔」という盾は、春馬の放つ「現実」という名の熱線によって、ドロドロに溶け落ちていた。




