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第百四十五話「第一期末テスト終了⑧」


校門前の熱気は、春馬が放った「アイスクリームの先制攻撃」によって、一気に不穏な静寂へと塗り替えられた。しかし、数秒の沈黙の後、男たちは顔を見合わせ、引きつったような笑いを浮かべて開き直り始めた。


「……ハッ、何が警察だ。脅してんじゃねえよ。ガキが一人でスマホ持ってお喋りか?」

リーダー格の男が、足元のアイスを忌々しげに踏み潰す。背後に控える二人の男も、春馬の細い体躯を品定めするように睨みつけ、じりじりと包囲網を広げ始めた。


「俺たちは三人いるんだぞ? 口だけ達者な弱者が、何寝ぼけたこと言ってんだ。……さっきから『論理的』だの何だの、気持ち悪いんだよ。自分は頭がいいってアピールか? ああ?」

その煽り文句を聞いた瞬間、春馬の口角が不自然なほど吊り上がった。それは歓喜に近い、暗い愉悦の表情だった。


「……そうか。アピール、か」

春馬の中で、スイッチが切り替わる。それは、彼が夜な夜なSNSの暗部で、顔も見えない相手を文字通り「再起不能」まで叩き潰してきた、狂犬のような攻撃性の解禁だった。


「アピール? ……勘違いするな。犯罪者、いや……『猿』にアピールして何になる? 序列でも競いたいのか?」

春馬はスマホを耳に当てたまま、挑発的に首を傾げた。


「お前たちが言う『アピール』とは何だ? コンビニの冷蔵庫に入ったり、調理器具を舐め回したり、飲食店の食材を口に含んで吐き出す動画をSNSに投稿して、内輪で盛り上がることか? 犯罪という名の『自傷行為』を武勇伝として語ることが、お前らにとっての自己表現アピールなのか?」


「……てめぇ、何だと……っ!」


「だとしたら、まずその手元のスマホで『アピール』という単語の意味を検索しろ。……ああ、失礼。猿に日本語のデコードを求めるのは酷だったか。進化の途上で言語野を置き忘れてきた個体には、この程度の語彙でも難解すぎるよな?」

春馬の言葉は、一発一発が急所を射抜く弾丸のように冷徹で、かつ傲慢だった。


「おい、黙って聞いてれば適当なこと言いやがって……! そんな挑発に乗ると思ってんのか?」

リーダー格の男が顔を真っ赤にして怒鳴るが、春馬はその怒声さえも楽しむように鼻で笑った。


「へぇ? 驚いたな。今の猿は『知ったかぶり』という高度な社会的偽装まで学習しているのか。俺の言葉を日本語として認識するだけでなく、『挑発』という概念的な対人行為すら理解するとは。最近の霊長類学の定説を覆すほどの劇的な進化だ。論文のネタを提供してくれて感謝するよ」


「だから、猿じゃねえって言ってんだろ!!」

男が拳を振り上げようとした瞬間、春馬はその動きを冷たく制するように、一歩前へ踏み出した。


「いや、むしろ今のうちに『自分は猿である』と定義し直しておいた方がいい。……お猿さんに教えてあげるよ。人間の法は、責任能力のない動物を裁くようにはできていない。今ここで『ウキー!』と叫んで木に登り、俺は人間のルールなんて知らない野生動物だと言い張れば、刑務所行きを回避できるかもしれないぞ? お前にとっては、それが唯一の生存戦略ライフハックじゃないのか?」

春馬は、獲物を追い詰める捕食者のような冷徹な瞳で、男たちを射抜く。


「人間界にはな、他国から来た人が『俺たちのルールはこれだから、ここでもそうさせろ』と主張することがある。文化の多様性というやつだ。……それと同様に、お前にも言えることがある。お前がその低俗な『本能』を優先させたいのなら、それ相応のオリを用意してやるのが、人間側の最低限のマナーだと思わないか?」

春馬の舌鋒は止まらない。SNSのレスバで鍛え上げられた「相手の存在価値を根本から否定する」ための語彙が、容赦なく男たちのプライドを解体していく。


「お前たちのやっていることは『自由』でも『若気の至り』でもない。単なる、管理の行き届いていない家畜の暴走だ。……さあ、どうする? まだ人間として裁かれたいか? それとも、俺が今ここで、お前たちを『処分対象の害獣』として登録し直してやろうか?」

春馬の放つ圧倒的な「負のオーラ」と、淀みのない罵倒の連射。

三人の男たちは、数の優位に立っているはずなのに、一人の少年の「言葉」という暴力に縛り付けられ、一歩も動けずにいた。

背後で、蒼奈が呆然と春馬の背中を見つめている。

彼女の知っている「理屈っぽい春馬」が、今、最凶の「言葉の魔王」へと変貌していた。


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― 新着の感想 ―
拝読いたしました。 珍しい作品です。 ここまで形式論理だけで会話が進むというのは……。 春馬くんがここまで来るまで、いや、長い長い。 まるで不条理主義の芝居を延々と見せられているようでした。 機械の…
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