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第百四十四話「第一期末テスト終了⑦」


校門前の死角。アスファルトから立ち上る熱気が、男たちのどろりと濁った欲望と混ざり合い、逃げ場のない停滞した空気を作り出していた。


「……いいじゃん、抵抗しなくてさ。どうせ最後には気持ちよくなるんだから」

リーダー格の男が、歪んだ笑みを浮かべて蒼奈の細い手首をさらに強く締め上げる。蒼奈の瞳には、かつて見たことのない「恐怖」の色が濃く滲んでいた。彼女の予測不能な思考アルゴリズムさえも、剥き出しの悪意という圧倒的な暴力の前では、出口を見失い停止していた。


「それにしてもさぁ……この子、高校生にしては出来すぎだろ。今まで相手してきた女の中でも、正直、別格だぜ」


「だな。……なぁ、これ、みんなでヤっちゃわねぇ?」

男たちの間で、反吐が出るような同意が交わされる。彼らにとって、目の前の少女は心を持った人間ではなく、単なる「極上の消費財」に過ぎなかった。


「……でもさ、大丈夫か? さすがに未成年だろ。ヤバくね?」


「いいんだよ、そんなの。バレなきゃ関係ねーっての。証拠なんて残さなきゃいいんだ。……おい、暴れるなよ。これでも嗅いで、大人しく夢でも見てろって」

一人の男がポケットから、薬品の染み込んだ布を取り出す。ツンとした刺激臭が、夏の熱気の中に混じる。蒼奈が必死に顔を背けようとした、その時だった。


『ピッ——』


乾いた電子音が、静寂を切り裂いた。


「……あ? なんだ今の音。……おい、お前のスマホか?」


「いや、俺じゃねぇよ。……どうせ誰かの通知だろ、気にするな。……それより早くしろよ。場所、俺の家でいいよな?」


「最高だな。……いやぁ、今日は運がいいぜ。こんな極上のスイーツをタダで頂けるなんてよ。早く『食べ』たくて堪らねぇよ……!」

リーダー格の男が、下卑た期待に肩を揺らし、仲間に向かって振り返った。


「よし、運ぶぞ。せーの——」


だが、その言葉が最後まで紡がれることはなかった。


「——が……っ!? ぶ、ごっ……!?」

次の瞬間、男の視界に白銀の「塊」が飛び込んできた。

凄まじい速度で突き出されたそれは、男が大きく開けていた口内へと、容赦なく、深く、力強く侵入した。


「……っ!? ……ご、あ……冷たっ……!?」

男が反射的に数歩後ずさり、口の中に押し込まれた「物体」を吐き出す。地面に落ちたのは、形を失いかけたバニラアイスクリームの成れの果てだった。


「……そんなに早く食べたかったのなら、あげるよ。……どうだ、美味しいか? お前が望んだ『極上のスイーツ』の味は」


低い、地這うような声。

そこには、氷のように冷たく、刃のように鋭い「殺意」に似た響きが宿っていた。

男たちが一斉に視線を向けた先。そこには、片手に小さなコンビニのレジ袋を提げ、もう片方の手でスマホを掲げた少年が立っていた。

箕島春馬。

彼の瞳は、かつてないほど無機質で、それでいて奥底で黒い炎が揺らめいているような、異様な迫力を放っていた。


「……てめぇ、何しやがる……!!」

リーダー格の男が、口の周りについたアイスを拭いながら怒鳴る。だが、春馬は眉ひとつ動かさず、スマホの画面を男たちに向けた。


「不法侵入、強制わいせつ未遂、致死量には至らないものの劇物の使用による傷害予備。……および、集団による強姦予備。……先ほどの『ピッ』という音は、警察への直通回線が接続された合図だ」

春馬の声には、一切の動揺がなかった。彼は震える手首を押さえる蒼奈を、一瞬だけ視線で捉えた後、再び男たちに冷徹な事実を突きつける。


「……現在、この通話は最寄りの警察署に繋がっており、お前たちの全発言——『ヤっちゃわねぇか』『バレなきゃいい』『俺の家に行こう』——これら全てはデジタルデータとして記録ログされた。GPSによる現在地の特定も既に完了している。到着予定時間は、現在の交通状況から逆算して、あと約四分三十秒だ」


「な……っ!? てめぇ、ハッタリこいてんじゃ——」


「ハッタリかどうかは、今すぐにお前のスマホで、このエリアのネットワーク状況を確認してみるといい。お前たちが仲間内だけで盛り上がっていた間、俺は校門の裏からお前たちの人相、服装、そして車両と思われるナンバープレートの撮影を済ませている」

春馬は一歩、男たちの方へ足を踏み出した。


「……お前たちの論理的生存確率は、現時点で0%だ。抵抗すれば、さらに罪状に『公務執行妨害』と『現行犯逮捕時の暴行』が加算される。……どうする? このままここで法の裁きを待つか、それとも俺が直接、お前たちの脳細胞に『後悔』という名の消えない傷を刻んでやろうか?」


春馬の体から発せられるプレッシャーは、男たちが今まで相手にしてきた「高校生」の範疇を完全に超えていた。

女性不信。

彼が長年、自分を守るために磨き続けてきた「他者を拒絶し、論理で刺し殺す」ための武器が、今は、たった一人の少女を守るための絶対的な防壁へと変貌していた。

春馬は、不敵な、それでいて底知れない怒りを含んだ笑みを浮かべた。


「……若宮に触れたその手。……法が裁かないというのなら、俺がお前たちを徹底的に解体してやる。……逃げられると思うなよ、不純物共」

春馬の掲げたスマホの画面で、通話時間のカウンターが静かに、刻一刻と刻まれていく。

男たちの足が、恐怖で目に見えて震え始めた。

校門前の熱気は、春馬という特異点の介入により、一瞬にして氷点下の戦場へと塗り替えられた。

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