終章 そして伝説はつづく(6)
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聖暦168年9月下旬――。
「ダーンウェル遺跡の決戦」から数日が過ぎていた。
人々の生活は日常を取り戻している。
そして、今、奪われた世界、「竜人族世界」との間に「次元門」が再度開通させられた。
ガべディレイラ帝国宰相セ・ルスは、オーヴェル要塞に囚われたままであるが、そのほかの今回生き残った黒騎士たちは「国」へと送還させられることになった。
それを送るにあたって、ゼーデ・イル・ヴォイドアークと負傷から回復したリュシエル含む竜人族数名が付き従った。
ゼーデはようやく自らの世界へと帰還を果たしたのだ。
そして「次元門」をくぐり竜人族世界へ足を踏み入れたゼーデたちは、自分たちの世界に大きな変化が起きていることに気がついた。
念のために、少し小高い山の山頂へと帰還し、その後、王城へ竜変化で向かおうと考えていたのだが、そこから見渡した世界の景色が変わっていたのだ。
「街が、家が、畑が増えている――」
と、ゼーデは驚嘆の声を漏らした。
その呟きに耳を止め、誇らしげに応える魔人族の姿がある。
「当たり前だ。我らとて、何も為さないわけではない。畑を耕し、野菜や麦を育て、物を作り、森を切り拓いて、家も立てる。我らガべディレイラは本来そのような生活をする民族だ。他世界への侵攻など、必要が無ければしはしない。我らは「人間」なのだ。「悪」を憎む心は貴様らと同じように持ち合わせている」
彼の名は、ジ・ラド。
元ガべディレイラ帝国宰相セ・ルスの側近の一人であり、現ガべディレイラ帝国国家代表である。
ジ・ラドも一命をとりとめ治療によって回復させられていたのだ。
そしてもう一つ、変化が見られた。
魔物の姿が見当たらないのだ。
「あれだけ多くいた魔物の軍勢はどうしたのだ? あれらを操っていたのはおまえたち魔人族のものたちなのだろう?」
と、リュシエルが問いただした。
「魔物がどうなったかは俺にもまだわからない。だが、見たところ、その姿はないようだな。――まあ、城へ戻れば、何か分かるだろう」
そう、ジ・ラドは答えた。
ゼーデたちは竜変化し王城へと向かう。
王城で彼らを迎えたのはまだ若く見える、美しい容姿の女性だった。
「ガべディレイラ帝国政務大臣マ・アレと申します――。ジ・ラド様、ご帰還、何よりです――。そして、そちらのお方は竜人族の王とお見受けいたします。そうですか――。我々の目論見は失敗したのですね――」
それが第一声だった。
マ・アレはここに「セ・ルス」がいないこと、そしてゼーデがいることから、今回の決戦の結果を察したのだろう。
「ゼーデ・イル・ヴォイドアークである。マ・アレよ。いろいろと話さねばならぬこと、そして、聞かねばならぬことがある」
「はい。これからの我らの処遇、われらは甘んじてお受けする覚悟でおります。こちらへ――」
そうして、竜人族と魔人族の会談が始まった。
会談で判明したこと、取り決めが交わされたことについては端的に述べるにとどめることとする。
大枠で三点。
第一に、魔物の存在であるが、これは、決戦の際にセ・ルスが展開した「大規模魔巣生成術式」の糧として、消滅させられたと言った。おそらく、セ・ルスは自分たちが戻れなかったときのためにいくらか時間の猶予を持つため、この世界に魔物を一体も残して行かなかったのだろう。
第二に、セ・ルスにはこれから裁定が下される。その裁定は、五属世界の会議によって決定されることになったというものだ。その際に、魔族、いや、ガべディレイラの民への処遇も決定されることになる。
ただ、これについてゼーデとガルシア王の間ではすでに、原案ができており、意見が一致している。それは、ガべディレイラと竜人族の共存共栄である。
第三に、現段階で交渉に立つ魔人族の代表を、ジ・ラドが務めるということだ。ジ・ラドにはガべディレイラと他世界国家との間での戦後処理を為してもらわねばならない。その後、改めてガべディレイラの国家元首を定めることになるだろう。
「話は分かりました。ガべディレイラ帝国政務大臣としてその話、全面的にお受けいたします。もとより、仕掛けておいて負けた我らに、自らの行く末を決定する権利はございません。ヴォイドアーク王よ、此度の寛大なご処置痛み入ります」
と、マ・アレは深く頭を下げ、答えた。
「マ・アレ、すまない。カ・ルスの死に俺たちは報いることができなかった。許してくれ――」
ジ・ラドはそう言って震えながら頭を垂れた。
「ジ・ラド様、彼は私たちの未来への礎となったのです。結果として我らはまだ生きているではありませんか。セ・ルス様もあなた様も、ここへ戻れなかった黒騎士の皆様も、皆、我らガべディレイラの未来のために良かれと思って為したこと。誰もあなた様方を非難することはないでしょう」
と、マ・アレがジ・ラドに声をかけた。
このやり取りを聞いていたゼーデは、ガルシア王の言っていたことを思い出し、さもありなんと思うのだ。
『なんの、言葉は通じるのだ。――そのうち『みらい』も見つけられよう』
あの『英雄王』はそう言った。
(わたしもまだまだ「王」として学ばねばならんことが多くあるということだろう――。今はたった7人の種族になってしまったが、我らは生き残った者として、種族の「未来」を考えねばならん。そうでなくては、死んでいった者たちにあの世で申し開きができないからな)
ゼーデはそう感じ、決意を新たにしていた。




