終章 そして伝説はつづく(5)
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人の形をした魔物――。
アルたち一同はその存在を想像して身震いをした。
つまりもう、見た目で魔物と判別できない人間が生まれるということなのだ。
「――アル、みなさん。それでも恐れないで。かつての人類、エルフも魔族もこれらに打ち勝ってきたのです。きっと次こそは、『闇』に打ち勝って真に安定した世界を作り上げることができると、私は信じています。六属世界すべてが今まさに一つとなることができました。原初の世界、人族の世界、妖精族世界、亜人族世界、精霊族世界、そして魔族世界――。これまでの人類の全ての知恵と勇気を併せ協力すれば、必ず成し遂げることができるはずです。なぜなら、あなた方はもう何も欠けていないのですから――」
エリシアはそういうと、柔らかな微笑みをアルたちに向けた。
その表情はまさに「希望」そのものであった。
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「人の形をした魔物――か。それは確かに恐ろしい存在だな……」
と、ルシアスが呟いた。
「うむ。だが、我々はそれらに今度こそ打ち勝たねばならないのだ。二度と世界が崩壊の危機に見舞われないためには、我ら人類が一丸となって『闇』の脅威に平伏さぬ強さを身につけねばならんということなのだろう――」
と、返したのは『英雄王』ガルシア王だ。
「大丈夫です。私たちなら、きっとそれを手に入れることができるとエリシアさまも仰っておいでです。それに、私たち人類はもう、互いにいがみ合うことは無いのですから――」
と、ケイティが言った。
魔族の侵攻をもたらした「破壊の神ゼルダ」の思惑は、ひいては六属世界すべての人類の邂逅を促したともいえる。
これまでは個別の世界でそれぞれの世界を作り上げてきた様々な姿や心をもつ人類たちが、今、ようやく「一つ」になった。
この先は、互いを尊重し協力し合いながら、困難に立ち向かってゆけるのだ。そこには様々な思考や方法が見いだされ、そして、必ずや望むべき未来を掴み取ることができるだろう。
「魔族――、あらため、魔人族の者たちの処遇についてだが、竜人族世界をそのまま住処として割譲することにした。我ら竜人族の個体はもう残りわずかになっている。今後再興がなるとしてもそれは数千年以上も先の話になるだろう。いまはあれほど広大な世界はわれら竜人族には必要ない。魔人族と共に共存してゆけると考えている」
と言ったのは、ゼーデ・イル・ヴォイドアークだ。彼は竜人族の長として、残った竜人族の者たちにその旨を推し量ったところ、竜人族の者たちは皆、それに同意した。
竜人族もまた『悪』を持たない種族である。
彼らには、かつての仲間たちを想う心は在っても、魔人族どもを恨む心は持たない。彼ら魔人族も生きるためにやったことなのだ。
「ゼーデ殿、貴公をはじめとする竜人族の決断、このフェルト、心より御礼申し上げる――」
と、ガルシア王は深く頭を下げた。
竜人族世界から他の五属世界へ魔物の軍団が押し寄せる心配はもうない。
つまり、竜人族世界との『次元門』も、再度開通させても問題なくなったのだ。
「――現在、魔物の存在は一時的に小康状態となっています。が、魔物の存在自体が消滅したわけではないと、エリシアさんも言っていました。『世界の柱』の加護はそれほど長くは持たないということです。それほど期間を待たずに再度、魔巣が出現し始めるとのことです」
と言ったのはアルだ。
「――しかも、しばらくの間、エリシア神の加護は期待できないというのだろう? アル、『木の短剣』の活躍が大いに求められるところだな?」
と、アルに向かってにやりと笑みを浮かべたのは、妖精族の王姉ミュルシーナ・グィンズィーデルだ。
「まったくだぜ? 今はまだこの人族世界にのみ『闇』の要素が拡散しているが、今後、その他の四属世界との交流も活発化してゆくにつれ、やがては全属世界にその拡散は広がるのだろう? こりゃあ、世界中どころか、全属世界中に諜報網を張り巡らせる必要が生じてくるって話だ……おれぁ、体が幾つあっても足りねぇってもんだぜ?」
と、続けたのは、ゲンシン・カワダだ。彼はダイワコクの諜報部員でもある。今後おそらく世界中の諜報活動をダイワコク主導で行ってゆくことになるだろう。
「――それで、どうするつもりだ? ルト。あいつらの処遇は……」
とルシアスが言った。
「うむ、話してみるほかないだろう――。なんの、言葉は通じるのだ。言葉が通じ、話ができるのなら、互いにとってどうするのが最善なのか、そのうち『結論』も見つけられよう」
と、ガルシア王が応える。
ルシアスの言う「あいつら」とは、言うまでもない、捕らえた魔人族の長セ・ルスたち数名の元黒騎士たちのことだ。
現在彼らは、このシルヴェリアの東、オーヴェル要塞にてアリアーデが竜結界を張って監視をしている。




