終章 そして伝説はつづく(3)
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アルたち一行の6人は、翌朝、早速エリシアの元、『剣ヶ峰』へ向かった。
エリシアに現状の確認と今後の展望の「お告げ」を貰うためだ。
「――来ましたね、アル」
と、エリシアは静かに言った。
「エリシアさん、黒騎士セ・ルスの軍勢は退けることが出来ました。セ・ルスは現在、決戦の遺跡で師匠の竜結界によって幽閉されています」
とアルが報告をする。
セ・ルスは死んではいない。決戦の後、治療を受けた彼は今、アリアーデによって囚われの身となっていた。そのほかにも、数名の黒騎士が治療を受け、同じく捕らえられたが、その中に副長だろうジ・ラドの姿もあった。
「そうですか――。本当にご苦労でした。……さて、それでは昨日のあの現象について話さねばなりませんね……」
「黒い靄と、世界の柱のことですね? あれはいったい何だったんです?」
――少し長くなりますが……。
そう前置きし、エリシアは「神と世界」について語り始めた。
エリシアがこの世界「五属世界」を創造したことはすでに述べている。彼女は最初にエルフの地「原初の世界」を創造した。エルフたちは目覚ましい進化を遂げ、文明を築くに至った。
しかし、高度に発展しすぎた文明は、やがて世界の形をも変革し始める。そしてそれはやがて回帰不能な状況にまで進むことが確定するに至る。
そこでエリシアは、原初の世界の膨大な「記録」を源に、さらに4つの新しい世界を創造した。いや、正確に言えば、「5つの」世界をだ。
それが、人族世界、亜人族世界、妖精族世界、そして竜族世界の4つ。そしてもう一つ――。
「魔族世界――。これも私が創造したものです。――ごめんなさい、みなさん。今回の元凶は実は私の過去の「至らなさ」によるものなのです」
そう言ってエリシアは、アルたち6人に頭を下げた。
つまり、エリシアの創造した世界は全部で「5つ」ではなく、「6つ」だったのだ。
「――ですが、この魔族世界は五属世界とは完全に切り離された世界でした。いえ、私が意図的に切り離したのです」
と、エリシアは告げ、話を進めた。
現在、後発四属世界には一つの「要素」が欠けているのだとエリシアは言う。
それは「闇」。
もしくは「暗黒」とも言おうか。
そして、その外した「闇」の要素をすべて最後の一つ、魔族世界へと集約した。
この「要素」というのは世界を形成する「素材」と考えてもらえばいい。すべての世界はこの「要素」の組み合わせで創造されているのだという。
「原初の世界、今あなたたちが精霊族世界と呼んでいるユーフェリアの世界は、本当に悠久の年月をかけて文明を築き上げました。しかし、最終的には世界に変革をもたらし、世界はやがて終焉を迎えることになるでしょう――」
エリシアは、この問題の根源に対し、一つの仮説を立てたという。
原初の世界にはもちろん、この「闇」の要素も含まれていた。エルフたちはこの要素のために長く険しい戦争の日々を経て、ようやく一つの帰結を見出すことに成功した。
『科学』だ。
そしてそれをさらに推進することによって、ついには「戦争(=闇)」を克服したように見えた。
しかしながら、彼らはその加速する『科学』に歯止めが利かなくなった。
ついには『神の領域』たる、『創造』をも科学の力で手に入れようとし、そうしてそれを成し遂げた。
「生命創造――。エルフたちはとうとうその域にまで到達しました。自然の原理に基づかない『科学』による生命の創造を成し遂げたエルフは、因果なことに「生きる希望」を失いました――。とても残念なことですが、人類はどこまで行っても『神』にはなれないのです。それは、『人類』も『科学』も『摂理』の範疇だからです」
「『摂理』――。エリシアさんがいつも言っていた、あれ、ですね?」
と、アルは事あるごとにエリシアが口にしていた言葉を思い出して問うた。
「世界」を創造する――。
これこそが神の神たる由縁、まさしく「神の御業」である。
しかしながら、一度創造した「世界」を作り変えることは出来ないのだと、エリシアは言った。
『摂理』は「神」をも、規定するものだ。
つまり、「神」もまた『摂理』の範疇の存在なのだ。
「神」であっても、創造した世界を作り変えることは出来ない――。
それであれば人類の世界の行く末に、「救い」は無いのか?
「各々の世界がどのように変革し、成長し、やがてどのような結末を迎えるのか、それらはすべてその世界の人類が長い年月をかけて到達する終着点なのです。我ら「神」に出来ることはたった二つ。『世界の創造』と『世界の破壊』です――」
と、ここまで話したエリシアは、一旦話を止める。
「私は、原初の世界が破滅に向かった原因が『闇』の要素によるものではないかと仮説を立て、新たな世界の創造を行いました。ただ、世界を創造するにあたり集めた『要素』は必ず消費しなければなりません。これも『摂理』です。そこで私は、4つの世界には込めなかった『闇』の要素をすべて一つの世界へと集約することにしたのです。こうして、『闇』の要素のない世界4と、5つ分の『闇』の要素を持った世界が1つ生まれました――」




