終章 そして伝説はつづく(2)
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――そうか。お前の仕業だったのだな。創造の神エリシアよ。
――破壊の神ゼルダよ。まだ終わらせるわけにはいきませんから。
――ふん。しかし、いつか必ずその時は来る。お前はいつまであの者たちを守護するというのだ。
――希望が消えてなくならない限り、です。
――希望、なるほど、まあいいだろう。光と影は表裏だ。お前が光なら我は影。希望があれば絶望もある。今はしばらく好きにするがいい。だが我はすでに『次の計画』に入った。さて、この先あの者たちはどうあがない続けるのだろうな。
――ゼルダよ。あなたが何を仕掛けてもおそらくあなたの目的は何度でも打ち砕かれることでしょう。わたしは彼らが希望を持つ限り何度でもあなたを退けます。
――ああ、そうだろう。だが必ずいつかその時は来る。ふふふ、私はその時をゆっくりと待つとしよう。
――できればそのまま消え去ってくれてもいいんですけど?
――それは無理な相談だということは、エリシアよ、お前が一番よくわかっていることだろう。我は影。なれば、光ある限り我は必ず存在する。我がなくなるということはお前もなくなるということだ。まあ、せいぜいしばらくの間はあの者たちを照らすが良いわ。照らせば照らすほどに影は濃くなる。我はまた戻るだろう――。
エリシアが最後に聞いた声はそう伝えて消えた。
ゼルダが言った言葉、『次の計画』はすでに始まってしまった。
これまでは、「光」と「影」が分かたれてきた。
しかしこれからは「同居」することになる。
拡散した「靄」は世界中に広まった。そう時間がかからないうちにそれは5属世界に浸透してゆくことだろう。
(――でも、たぶん大丈夫。人類はそんなものにすら負けない団結を生み出し、やがてそれらの「影」にすら打ち勝つ力を身に付けるはずだ。私は彼らが「希望」を見出す限りたゆまず照らし続けるだけでいい)
――今は、彼ら人類の心を信じましょう。
(さて、そのうちアルたちもやってくることでしょう。さすがに『世界の柱』の力を使った今、私もしばらくの間、力を失うことになるわね……)
エリシアは「剣ヶ峰」の塒で、今はアルたちがやってくるのを待つことにした。
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アルたち一行がシルヴェリアに帰還したのはその戦闘が終結した夕暮れのことだった。
さすがに人類軍の全てを『次元門』で移動させるのは無理がある為、取り敢えずのところ取り急ぎ、アル隊の面々のうち6人、アル、ケイティ、チュリ、ユーフェリア、クアン、レイノルドだけ先に帰ってきた。
ルシアスやジークや他の面々たちは、今晩は現地でゲンシンをはじめとする怪我人の対応や、酒宴を行った後、明日以降徐々に引き上げてくることになった。
なお、魔族のうち、いわゆる異形のものたちは消失してしまったが、黒騎士たちの遺体や、怪我をしている者たちはその場に残っている。
ルシアスはそういったものたちの「後始末」も必要と考え、残ることにしたのだった。
「おお! 戻ったか! それで、こちらの被害や戦況はどうなったのだ!?」
英雄王フェルト・ウェア・ガルシア2世はいてもたってもいられず問いただした。
戦勝の報告を受けた英雄王は、どさりとソファに腰を下ろして安堵の吐息を大きくついた。
「アル、ご苦労であった。――負傷した敵の将兵たちはこちらで取り敢えず保護することにしよう。しかし、詳細はエリシア神へ確認を取らねばなるまいな……」
と、さすがに聡明な王だ、すぐに状況を把握し、次にすべきことを理解した。
「……はい。終戦の折に生じた現象が何を意味するのかは、さすがに分かっておりません。それに、エリシアさんへ魔法交信を行っていますがいまだ交信が繋がっておりません。もしかすると交信できない状況に陥っている可能性がありますので、急ぎ「剣ヶ峰」へ赴きたいと思っております」
と、アルが答える。
――まあ、今晩はゆっくりなさい。「剣ヶ峰」へは明日でも構わないでしょう。
と差し込んだのは、国際魔法庁長官のイレーナ・ルイセーズだ。
さすがに6人の身なりを見れば、相当厳しい状況を潜り抜けてきたのは一目瞭然だ。それに、エリシア神がどうしても取り急ぎ連絡の必要を感じておられれば、何としてでもそうお伝えになるだろう。
「そうですね。今晩は、一旦、ソードウェーブへ戻ります。明日朝そのまま『剣ヶ峰』へ飛んで、その後報告に戻ります」
アルがそう答えると、英雄王も今日はゆっくり休むが良い、明日の報告を待つことにする、と応じた。
その後、再び『次元門』を利用して、ソードウェーブに戻った一行だったが、この街の冒険者たちは、皆、戦場で酒宴を開いていることだろう。
街中はいつもの賑わいは無く、ひっそりと静まり返っていた。
レッド・ジュース・ダイニングの扉を開けると、テーブルを拭いてそわそわとしていたフランシスがレイノルドの姿を目にしたとたんに飛びついてきて、熱い抱擁を交わす。そしてその後、一行は夜が更けるまで飲んで騒いだ。
まず最初にクアンが寝息を立て始めた。
今日一番の働きと言ってもいいだろう。クアンは黒騎士セ・ルスの攻撃を受け続けた。彼が受け切れなければ今日の勝利はなかっただろう。
次いで珍しくレイノルドがいびきをかき始めた。
レイが酔って眠ってしまうなんて、アルはあまり記憶がない。それほどに苛烈な働きだった。最後の一撃はレイとジークの二人の連携によるものだった。
次に、チュリとユーフェリアが互いに身を寄せあうようにして眠りについた。
クアンを防御に徹せさせるために、いつもより俊敏に連撃を繰り出していたチュリはさぞ疲れていたことだろうし、ユーフェリアはケイティの傍らで適宜魔法による支援を行っていた。二人とも、よくも大怪我をせずにいてくれたものだ。
結局最後まで起きていたのはアルとケイティだけになった。




