終章 そして伝説はつづく(1)
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突っ伏した黒騎士の身体が黒い靄に包まれる。
その黒い靄はどんどんとあふれ出し、やがて天空を覆わんばかりに拡散していった。
この戦場にいる者たちすべてを覆い包み、あたりが混沌の闇に沈みかけた時だった。
天空より地上の黒騎士の身体に向け一筋の光が降り注ぐと、その光がどんどんと広がって、やがてその靄をすべて打ち払った。
そしてその中心、黒騎士の身体のはるか上空から一つの『宝珠』が舞い降りてくる。
その宝珠はやがて黒騎士の身体に舞い降りると、ふわりとその直上で静止した。
「あれは、『世界の柱』――」
この地に数いる人類の中で、一人の少女がそう呟いた。
その瞬間、
『世界の柱』はまた、上空高くへと舞い上がり、やがて視界から消え去った。
そして、辺りには静寂が舞い降りた。
「やったの?」
「やった……のか?」
小柄な少女二人がつぶやいた。
「――いや、このおっさんは、死んじゃいないよ……」
少年が応じた。そして、そのあとに短く続けた。
「――でも、戦闘は終わりだね。さすがにもう何もできないみたいだ」
「ケイティ、さっきのあれは――」
と、リーダーの青年が少女に問う。
「たぶん、エリシアさま――でしょう」
と、少女が答えた。
「――アル、私たちの勝ちです。先ほどの光で、この場にいる魔族たちは消滅してしまいました。残っているのは、負傷した黒騎士と、その亡骸だけです――」
と、続けて少女、ケイティが言った。
「――そうか……、取り敢えずは「終わった」んだね」
と、アルが応える。
階下から上がって来た男が聞き馴染みのある声で、問いかけてきた。ルシアスだ。
「アル! なんだったんださっきの光は? 魔族どもは全て消え去ったみたいだが――」
「おそらくは、エリシアさまです。状況はまだよくわかりませんが、どうやらこの戦場は「終わった」ようです」
と、アルが答えた。
ここにいるすべての者が今の状況をよく把握できていない。
それはアルもケイティもその周りの仲間たちもそうだろう。
上空から二つの翼の羽ばたき音が聞こえてきた。
塔の上に集結したものたちが上空を見上げると、その羽ばたき音が二頭の竜から発せられたものだと気づく。
アリアーデとゼーデに違いない。
やがて二頭の竜は塔の直上にまで進んで、ふわりと舞い降りると同時に男女の姿に変化した。
「終わった――のね?」
と、アリアーデが聞いた。
「周囲にあった魔族の気配が完全に消えている。それに――」
と、ゼーデが言った。
「ええ。『次元門』も完全に消失してしまいました――。どうやら終わりのようです」
と、アルが答えた。
「そうか、じゃあ、やることは一つだ。アル、勝鬨だ――」
と、ゼーデが言った。
いまだエリシアからは何も反応がない。
さっきの現象、『世界の柱』の飛来がエリシアの仕業であるなら、すぐに交信することは難しい状況にあるのかもしれないが、今それを確かめる術は何もない。
だが、この戦場にはすでに敵は存在していない。
そうだ、「終わった」のだ。僕たちは、勝ったのだ――。
「アル!」
「ギルマス!」
と、レイノルドとジークが叫ぶ。
「アル――!」
「あんちゃん!」
「アルバートさん!」
と、チュリとクアンとユーフェリアも視線を投げかけてくる。
「よくやった――」
「うむ」
「さあ――アル」
と、ルシアスとゼーデとアリアーデも促した。
「アル、勝鬨を――」
と、最後にケイティが優しく言った。
「――ああ、そうだ、そうだね。勝ったんだね――」
とアルが呟く。
周囲の者たちの目に、勝利を確信した確かな光が宿る。
「僕たちの勝ちだァ――! 皆の者ォ! 勝鬨を上げよ!! おおおお―――!」
そう言うとアルは利き手に持ったショートソードを高く掲げた。
それを合図に塔を中心に唱和の波が広がっていった。
やがてそれは大地を揺るがすほどの大音声となり、一つの戦闘の終焉を告げたのだった。




