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レジェンドオブシルヴェリア――Ⅳ伝説記~そして農夫の息子は伝説となった  作者: 永礼経


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第11章 生存をかけた戦い(9)

 戦闘開始から数分後――。


 ケイティの待ち望んでいた瞬間がようやく訪れた。


 レイノルドとジークがやってくれたのだ。

 二人は息の合ったコンビネーションを繰り出すと、ようやく眼前の黒騎士を打ち倒した。

 ケイティは、レイノルドの盾の先端が黒騎士の兜を割ったところをはっきりと確認している。


(あの分だと、もうあの黒騎士は立てない――)


と、一安堵するが、もう一方のゲンシンの方がさっきから目にもとまらぬ速度の剣戟を絶え間なく繰り出している。

 後方からできる限りの治癒術式を放ち続けているが、さすがに完全回復させることまでは出来ない。

 

 ケイティにしてみれば、どんな不測の状態にも対応できるよう、常に魔力を温存しておかなければならないのだ。治癒術式は最低限という制限が伴うのは避けようがない。


 その時だった。


 ゲンシンの気がわずかに揺れた。

 その刹那、ゲンシンは急激に速度を落とし、体勢が崩れるのをケイティは見逃さなかった。

 この瞬間を逃すまいと、黒騎士のショートソードがゲンシンに向かって振りかざされる。


――ダメ!


 とっさの判断だった。


「――させません!!」


 ――アイス・ウォール!!

 ――降り落ちる結晶の槍フォールン・グラス・スピア!!


(間に合って――! お願い!)


 祈りと共に最速で詠唱しふわりと短杖タクトを振ると、即座に連続で魔法を放つ。


 その二つの魔法はまさに奇跡的な精度で発現した。

 黒騎士の眼前に氷の壁を出現させ、そして頭上に現れた結晶の槍が黒騎士の頭上から真っ逆さまに落下した――。



 ゲンシンは何ごとかを呟くと、その場にくずおれた。が、すぐさま駆け付けたレイノルドとジークの二人が、ケイティに向かって手を振る。

 どうやら、命に支障は無さそうだ。


 あとは、目の前、今3人が対峙している敵の頭領、セ・ルスを残すだけだ。


「レイノルドさん! ジークさん! すいません! アルたちに加勢を!」


と、ケイティは渾身の声で叫んだ。



******



 セ・ルスはさすがに驚愕していた。

 これほどの力がこの者たちにあろうとは。


 いや、分かっていたはずだ。

 だが、自分には――自分たちには時間が無かったのだ。


 「あの方」との契約の結果として、際限のない戦力を手にすることは出来た。魔素の充填さえ成し得れば、いくらでも「兵士」を生産できる力。しかし、その力を行使するには代償が無いわけではない。


 この世界に侵攻するために、もう既に多くの自国民の命を失ってしまっている。


――私は戻るわけにはいかないのだ。


 唯一の望みは、『世界の柱』だった。


 あれさえ手にすれば、その無限の力で、あるいは「あの方」の呪縛を破って、また穏やかな世界が創造できるかもと考えていた。


――もう、よそう。


 ここで退いたとしても、もう次にこちらへ侵攻する戦力を溜めることは出来ないだろう。おそらくのところ、「あの方」は私の敗北を許しはしない。今回の敗北はそのままガべディレイラの消滅を意味する。


 自身の要望を実現できぬものに力を貸す道理はない。

 いっそ、その世界ごと丸のみにしてしまえばよいのだ。

 そうして新しい「しもべ」を探すことだろう。

 

 セ・ルスは左右からの攻撃を防ぎつつ、眼前の亜人族の少年の眼に見入っていた。


――なんて、美しいひとみだろう。


 仲間を信じ、自分のすべきことをただただひたすらにこなしている。

 おかげでこちらはこの少年に斬りつける以外何も手を出せなくなっているのだ。


 魔法、剣術、体術、戦術――。

 すべてを駆使して3人に対峙しているが、妙な高揚感を覚えるのは何なのだろうか?


「――おい、おっさん! 何笑ってやがるんだよ!? 余裕を見せてるつもりかよぉ!?」


 亜人族の少年がセ・ルスの攻撃を受けながら、そう言葉を投げてきた。


――笑っている? 私が?


 よく見ると、その少年も笑っているように見えた。


「――じゃあ、聞くが、お前はなぜ笑っているんだ」

とセ・ルスが問いかける。


「へっ、勇者ってのは、最後の最後まであきらめないって、そうアルから教わったんだ! だから、おいらは最後まで仲間を信じて諦めないのさ。おっさんをぶっ倒して、みんなであとで騒ぐんだ。それが楽しみで仕方ないんだよぉ!」

と、少年は答えた。


――いい表情だ。かつては私もこのような気持ちを持っていたはずだった。


 仲間――。

 その多くは、これまでの戦争の中で私の元を去って行った。

 私はそれを取り戻すために、いや、私の様なものをこれ以上生まないために戦ってきたと思っていた。

 

 だが、結果はどうだ?

 ここに連れてきた「仲間」も大半は死んでしまっただろう。それは、私がまねいた結果だ。そうしてさらに多くの身内を失くした者たちを生んでしまった。


――そうか。()は間違ったのだ。


 道は一つしかないと、そう思っていた。

 「あの方」に従うしかないと、そう思ってしまった。あの強大な力を前にすれば誰しもそう考え行動するものだろうと、自分を擁護していたのだ。


――しかし、もしもこの者たちだったら、本当にそれしか道が無いと考えたのだろうか?


「諦めなければ、道は必ずひらける! そして、それは一人ではできなくてもみんなならできることだってあるんだよ! だから、おいらは、絶対、諦めない! おっさんをぶっ倒す!」


 その言葉がすべてだった。少年が意図して放ったわけではないだろう。

 だが、セ・ルスに自身の間違いを認識させるには充分の言葉だった。




――ギィン!


 と、クアンの大斧とセ・ルスの剣が交錯し、つばいの体勢になった。この瞬間、セ・ルスの動きが完全に静止する。


「少年――、名を、聞こうか」

「おいらは、クアン! ハアルジーンの勇者、クアンだ!」


「クアン・ハアルジーン。見事な戦いであった。礼を言う。最後にいいものを見せてもらった――」

「??」


 ううおおおおおおらああああ――!!

 いっけえええええ――!!


 クアンの目の前、黒騎士の向こうから二つの怒号が響いた。


 そして、目の前の黒騎士が衝撃を受けて、びくりと振動したように見えた。


「――? おっさん?」


「クアンよ……、仲間は好きか――」


 ああもちろんだよ、と応えようとした瞬間だった。

 目の前の黒騎士から明らかに力が抜け、鍔迫り合いの体勢からずるりと滑り落ち、やがて地面に突っ伏した。


 滑り落ちた黒騎士の向こうには、レイノルドとジークの姿が見えた。



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