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レジェンドオブシルヴェリア――Ⅳ伝説記~そして農夫の息子は伝説となった  作者: 永礼経


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第2章 ケラール丘陵(1)

1

 聖暦166年8月中旬――。


 アルたちが精霊族のおさルシュリオン・ルデイルイーと別れてからすでに2カ月が過ぎようとしていた。


 一行はアーレシアの砂漠にいる。


 昨日、国際魔法庁アーレシア支部のミリルから急報を受けたアルたち一行は、その日のうちに次元門ゲートでアーレシア共和国の主都アレシアンへやってきた。

 具合の悪くなった魔感士の容態は今朝には既に落ち着きを取り戻していたが、その急変の原因がまだつかめていない。


 そのため一行は、一昨日、その魔感士が訪れていたというケラール丘陵へと向かったのだった。


 メンバーの構成は、アル、ケイティ、レイノルド、ゲンシン、ジーク、クアンの6人と、随行してくれている冒険者が一人の計7人だ。


 ああ、そうそう、クアン・ハアルジーンについて一つお伝えしておかなければならないことが在る。クアンはこの2カ月の間に、「成人」を迎えていた。

 と言うのも、獣人族の掟によれば、男女とも14歳に達すれば成人とみなされるという事らしい。これは、その年を迎えると体が一回り大きくなり、いわゆる「成体」に一歩近づくからという事だ。

 獣人族は「幼体」「少年体」「青年体」「成体」と4段階の成長を遂げるらしい。

 クアンがアルたちと出会ったころはまだ「少年体」だった。それが14歳を迎えるころ「青年体」へと成長する。そうなった時、獣人族では「成人の儀」が行われ、「成人」の仲間入りを果たすのだ。

 実際、クアンもついこの間、「成人の儀」を受けたばかりだった。


 クアンの体は確かに一回り大きくなり、身長もアルたちより少し低いぐらいまで成長している。「成体」となった獣人族の体躯の強靭さは来たる魔族との戦いにおいて大いに助けになると期待されている。

 しかし、獣人族は個の力は確かに強靭であるが、集団戦闘には全くと言っていいほど適応できていない。いままさにクアン・ハアルジーンの役割は、その集団戦闘に対する経験と知識の研鑽であり、この先の獣人族の戦闘訓練の構築が主たる目的である。


 体が一回り大きくなったことで、強靭さが増したのはいいが、逆に「少年体」の俊敏性が落ちてしまっては意味がない。その辺りも普段の訓練や戦闘からその特性を維持できるよう工夫している。おかげで、今のところ目立った衰えは見られていない。

 つまり、俊敏性はそのままに、強靭さが増している、という事になり、クアンはさらに剣術の腕も上がって来ている。少年期のクアンにはチュリの様な身のこなし重視の戦闘スタイルが合っていたが、体が大きくなったことで、剣術の幅も広がったと言える。現在はアルとゲンシンが指導にあたっていて、最近の彼の得物ぶきはショートソードとなっていた。


 

「こら! そうじゃない! それはダガァの動きだ。それだと射程の長いショートソードを使いこなせない。もっと間合いを取って、しっかり構えろ!」

ゲンシンの怒号が飛ぶ。


「もう! こんなに長いのなんていらないよ!? ボクにはあの「英雄の短剣」があるんだから!」

とクアンは文句を言ったが、実際のところ、獣人族には短剣の方が合っているようには思う。

 しかしそれは青年期までの話、もしくは単独戦闘での話だ。

 「成体」となった獣人族に期待しているのは、その頑強さである。集団戦闘において彼らの役割はおそらく「盾役ガード」になるだろう。もしくは、「複数敵殲滅役バーサーカー」だ。

 後々のことを考えると、今のうちに「間合い」について習得しておくことが大事になってくる。最終的に彼ら獣人族の「成体」の得物は、ルシアスの様な特大剣か大型戦斧のようなものになるだろう。片手剣と盾という組み合わせは、残念ながら獣人族の手の形に合っていない。そもそも片手剣と盾という装備は「各個撃破型」の装備であり、獣人族の体躯を活かしきれるとは言えないので、その方向での訓練はしていない。

 今も、クアンが持っているのは、ショートソード一本のみだ。

 まずはこれによって「射程と間合い」を訓練する必要がある、と、アルとゲンシンは結論付けていた。


 そして今も、行軍中の昼食後の訓練時間に、クアンはアルとゲンシンにしごかれているというわけだ。


「何度も言ってるだろう! もう()()()のことは『用心のため』程度に考えろ! お前たち獣人族の主力は『火力』と『頑強さ』を求められるんだ。得物えものは徐々に大きくなるだろう。おそらく最終的には、大型戦斧か特大剣になるはずだ。それに対応して、後輩たちに伝えるのがお前の役目だ。さあ、早く構えるんだ!」

ゲンシンは厳しい眼でクアンを睨みつける。


 普通の子供ならここで嫌気がさして放り投げてもおかしくないところだが、クアンは違った。文句は言いながらも決してあきらめることはない。結局は素直に構えて練習を再開するのだった。


 クアンにも分かっている。

 彼もこれまでに何度もアルたちと共に敵を倒してきた。しかし、自分がパーティメンバーの「足枷あしかせ」になっていることを理解していた。

 

――まだ幼いから。


 などという考えは微塵もない。

 クアンには強い責任感がある。獣人族代表として英雄一向に帯同しているという自負がある。自分がここでやるべきことは、来るべき魔族との戦いにおいて、獣人族が「力になれること」を証明することなのだ。


「――わかってるよぉ! 誰も止めるなんて言ってないだろう!? ぜったい、ものにしてみせる!」


 言うなり、ショートソードを中断に構え、ゲンシンに対峙した。


 そんな二人の姿を遠巻きに見ながら、初めはなかなかに手古摺てこずったが、最近ようやく様になってきたなと、アルは目を細めていた。


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