第1章 魔術士の異変(4)
4
「もう大丈夫だと思います。でも、どうしてあんなことになったのか、それが気になりますね」
ケイティがミリルへ答える。
あの女性魔感士の容態は一応落ち着きを取り戻したということだった。
具合が悪くなった要因はやはり魔素の暴走によるものだったらしい。ケイティが彼女の魔素の流れを正常化して落ち着かせると、容態は回復へ向かったという。ただ、かなりの消耗だったため、2~3日は安静にしておいたほうがよいだろうということだった。
「それなんだけど――、ケイティ、ちょっといいかな?」
ミリルは一応彼女と彼女の恋人の話をケイティには伝える必要があると思った。が、さすがにここでそれを話すわけにはいかない。「ここ」、つまり、魔法庁の食堂なのだが、ここには今、アルやレイノルド、ジークやゲンシン、クアン――は子供だが――、とにかく男性が山盛りいる。
こんなところで「あの話」をするわけにはいかない。
「はい? どうしたんです?」
「ちょっと、廊下で、いいかな? あ、リリアンも来て。あと、男性陣はここで待機で!」
「ん? はあ、わかりました。じゃあ、まってます――」
アルは少し腑に落ちないという風だったが、ミリルの目がいつになく真剣だったので、少し遠慮することにする。
「じゃあ、さっきの続きをやろうか! レイの負けからだからね?」
「はぁ? もう終わったんじゃねーのかよ?」
と、レイノルド。
「負けたままでいいのかい?」
と、アルが煽る。
「ぐぅ。そう言われると、確かに終われねぇなぁ」
「よし、今度はレートを倍にするよ?」
アルが調子に乗ってさらにあおると、
「なら、俺も参加するぜ?」
「あ、私もやりますよ?」
「ボクだってやるから!」
と、ゲンシン、ジーク、クアンの3人も乗っかってくる。
男性陣は「ピーナッツダーツ」に集中してくれるようだ。
こうなればしばらくは時間が取れるだろう。ミリルはアルにウインクで応えておいて、ケイティを廊下へと誘った。
廊下には3人の女性陣が集った。
ミリルがリリアンに目配せをすると、重い口を開いた。
「実は、ね。彼女が具合が急変したその時に、その、なんて言うか、彼女の恋人と一緒だったって言うんだ」
ミリアは少し言いにくそうに口にする。
「ああ、そうなんですね。彼女、恋人がいるんですね。――それがどうかしたんですか?」
ケイティはそりゃあ年頃の女性なら彼氏の一人ぐらいいてもおかしくないだろうといった具合に軽く受けとったようだ。
「でね、その恋人と、その……、まあ、あれだ、わかるよね? だから――」
ミリルがなかなかその行動を口に出せないでいる。
「え? なんですか? どういうことですか?」
「いや、だからさ、その、あれだよ、あれ」
「はあ、あれですか? あれってなんでしょう?」
まあ、なんとも要領を得ない。
「いや、ごめん。もういいよ、とにかく、その恋人ってのが女の子なんだよね」
「へ? 彼女、もしかして――」
「そ、そうそう!」
さすがに理解したか、と思ったが、ケイティの次の言葉はさらに予想を超えてくる。
「男の人だったんですか?」
なんでそうなる! と、ミリルとリリアンが同時に項垂れた。君、容体を診てきたんだろ? ちゃんと女の人だったでしょ? と思ったが、もうそれ以上言葉を継ぐ力が抜けてしまった。
「――へえ~、そんなことあるんですね。私初めて知りました……」
ケイティはミリルとリリアンから、容体が悪くなった女魔感士とその時一緒にいた女魔感士との関係を聞くと、目を丸くして、頬を赤らめた。
「うん、まあ、世の中にはいろいろあるってことだよ」
と、ミリルはとんでもなく疲れた表情で言う。
「別におかしなことじゃない。けど、少ないとそれだけで奇異の目で見られる。まだまだそういう世の中なんだよね」
とさらに続けた。
「なるほど……。ですが、それとこれとは全くの無関係だと思います。おそらくあの子の容態がおかしくなったのは他に要因があると思います」
とケイティはきっぱりと言い切った。
理由は簡単だ。これまでにすでに何十人と言う魔法士・魔感士が生まれている。しかし、今回の様な容態の急変を起こしたという報告はこれまでに一度も受けていない。
もしミリルの言うように、彼女たちの様な関係がその原因だったとすれば、これまでにもすでに似たような状況が報告されててもおかしくないからだ。
「私もそう思います――。実は彼女は昨日の任務でケラール丘陵へ向かったと言っていました。もしかしたらその場所に原因があるかもしれません。ですので、一応念のため、今日の任務から、ケラール丘陵方面の任務は除外しておきました。ちなみに、今日の報告では彼女のような容態の急変者の報告はありませんでした」
とはリリアンの報告だ。
「じゃあ、明日はそのケラール丘陵へ行くことにします。いずれにせよこのまま原因不明のままでおいておくわけにもいきませんから――」
とケイティが即応する。
翌日、アルたち一行は、案内の冒険者1名と共に問題のケラール丘陵へと向かった。




