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レジェンドオブシルヴェリア――Ⅳ伝説記~そして農夫の息子は伝説となった  作者: 永礼経


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第11章 生存をかけた戦い(6)

6

 ルシアス隊は塔の一階部分を制圧し、2階部分へと上がった。

 アルたちがあの黒騎士と対峙しているのは3階だ。あと一つ上がればアルたちに加勢に行ける。


 しかし、ルシアスの周囲にはすでに残り5名の兵士しか残っていなかった。


 もともとはシルヴェリアの王城仕えの兵士たちを新領主拝命の褒美としてルトが差し向けてくれた、いわばソードウェーブ領主親衛隊のメンバーたちだ。ルシアス隊として今回の戦闘に参加したのはその親衛隊のうち10名。塔に到達する時点で8名に、そして一階部分での乱戦で今は5名にまで減ってしまった。

 つまり、半数が脱落したことになる。


(くそっ、幸い命を落とすところまでではなかったが、おそらくあの5人にはもう継続任務は無理だろう――。この戦闘が終わった後のことも考えてやらねば……)


 脱落した5名は辛うじて命を落とさずに済んでいる。が、おそらくのところ負傷の度合いから見て衛兵や親衛隊などの戦闘任務への復帰はほぼ無理だろう。


 しかし、今はそんなことを言ってはいられない。この2階部分を突破し、早くアルたちのところへ到達しなければならない。


 この2階部分にも敵がかなりの数配備されている。相手としてもここを突破されれば、3階の総大将のところへ到達されてしまうわけだ。なんとしてもここで食い止めなければならないと必死だろう。


(敵の数が多いな。とはいっても、この狭さだ――相手もその数をうまくいかせないことは明白、とにかく地道に削ってゆくしかない)

そう見て取ったルシアスが隊員へ指示を送る。


「隊列を崩すな! 固まって盾を構えて少しずつ削るんだ! 俺のことはかまうな! お前たちはお前たちのできることをやればいい!」


「はっ! 閣下! 申し訳ございません、我らがもう少し――」

隊員のうちの一人がこれに応えた。親衛隊長のケイランド・メルレードだった。


「ケイランド! よくぞここまで付き従った。もう一つだ。今しばらく奮起してくれ」

ケイランドの言葉を遮ってルシアスが応える。

 そもそも王城警備が主たる任務だった衛士たちのうち、ルトが有志を募ったことに応じた連中だ。新領主の元でその仕事を支えたい一心で王都から辺境の村までやって来たものたちで、その志は非常に高い。

 なればこそ、自身のふがいなさに唇を噛んでいるのも理解できる。


「――俺なんかにここまでついてきただけで充分すぎる働きだよ。しかし、だからと言って、ここでお役御免にはできない事情を察してくれ。すまんな、ケイランド」

「な、なにをおっしゃいます、このケイランド、閣下の元で働けて光栄でございます!」

 そのケイランドの言葉に残る4名も皆うなずいた。


「悪いが、俺は後ろを振り返らない質なんだ。付いてこれないものは置いてくぜ?」

「閣下。元より我らは顧みられることを望んではおりませぬ。むしろ、最後まで閣下の背中を追う覚悟でございます故――」


 ケイランド以下5名の目に強固な意志の火が点っている。何があろうともルシアスを最上階へ進ませる覚悟だ。


「出来の悪い上司ですまない。終わったら、ソードウェーブの港で凱旋の祝祭を行うぞ?」

「おお、いいですね。ソードウェーブの繁栄を祝して大いに盛り上がりましょう!」


 ルシアスは最後に皆の顔を眺めると、


「よし、こっから先、俺は《《冒険者》》ルシアス・ヴォルト・ヴィントだ。これが俺の冒険者最後の姿だろう。お前たちの領主がどれほどの冒険者だったかとくとまぶたに焼き付けるがよい!」

 そう言うとルシアスは大剣をブンと一振りして、肩に担いだ。


「冒険者ルシアス・ヴォルト・ヴィント、いざ、参る!!」


 そこからのルシアスの動きは凄まじかった。

 敵の集団に単身で突入するや、左右の小鬼は一太刀で肉塊と化し、一気に大鬼3体の首を跳ね飛ばした。


「我らも続け! 閣下にばかりろうをかけるな! ゆくぞぉ!」

少し遅れて響き渡ったケイランドの号令に、応、と4人が応え、一団となってルシアスの後に続いた。


 ルシアスが作った道に5人が分け入り、ルシアスの背を追わせないように周囲の敵を捌く。当のルシアスはと言えば、全く自身の背を気に掛けずただひたすらに前進してゆく。目指すはこの階の首領、奥に控える黒騎士だ。


 左右の大鬼の首を刎ねつつも、ずんずんと前進してゆくルシアスに、最後の難関が立ちはだかる。


 ――オウガだ。

 しかもこのオウガ、これまでのやつとは明らかに装備が違う。全身フルプレートの鎧を身に付け、両手戦斧の大きさはルシアスの大剣より大きい。


(最後の最後にこんなのが出てくるかよ。しかし、力と力じゃ負けるわけにいかねぇなぁ――なんてったって、今の俺は、『漆黒のルシアス』だからな――)


 オウガはまさかそんな結末を予期してはいなかっただろう――。


――おおおオオオォォォォォぉォオオオ!!


 この塔内が震えるかのような轟く気合。その起点は紛れもなく、この男、ルシアス・ヴォルト・ヴィントだ。


 ルシアスは大剣を頭上高く掲げると、そこから一気に真下へ垂直に振り下ろした。


 オウガはこれをその戦斧で防ぐべく迎え撃つ。受けるのには充分な時間があった。

 大剣と戦斧の刃が触れた瞬間、眩しく閃く火花が一瞬散った。

 しかしそれは「一瞬」だった。


 大剣はそのまま戦斧の刃を分断し、オウガが被っているプレートの兜を叩き割り、そのまま地面へと進むことをやめない。大剣の刃はオウガの頭から胸、腹へとまだ突き進む。

 そうしてやがて、股まで進むとそのまま地面へと突き刺さった。


 ルシアスの目の前の肉塊が、まるで岩にぶつかり分かたれた川の奔流のように左右に二つに割れ、やがて地面へと転がった。


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