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レジェンドオブシルヴェリア――Ⅳ伝説記~そして農夫の息子は伝説となった  作者: 永礼経


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第11章 生存をかけた戦い(7)

7

 ルシアスはついに黒騎士の前に到達した。

 周囲の魔族どものうち脅威となるものはそう多くはない。オウガも大鬼ももう居ない。あとは小鬼ばかりである。いまだ数は多いが、ケイランドに任せておいて問題はないだろう。

 

 いや――、任せておく他ないのだ。

 それほどに黒騎士コイツから漂う雰囲気は凄まじい。


「なるほど、ここまで到達するだけのことはあるというわけだ――。ルシアス、とか言ったな。人族の分際でよくぞ私の前まで辿り着いた。褒めてやるぞ」

と、その黒騎士が言い放つ。


「はっ、何様のつもりだ? そんな余裕も今だけだぜ?」

とルシアスも返す。


「我はガべディレイラ帝国宰相セ・ルス様配下、ジ・ラドである――。我らにも負けられぬ理由があるのだ。ここは命に代えても通さぬ」

「そうか。俺もここを抜けなけりゃいけねぇ理由があるんだよ。そうとなりゃ、決着ケリをつけるしかないなぁ、ジ・ラド。覚悟はいいか?」

「ふん、臨むところよ――。さあ、始めようではないか」


 言い終わると、黒騎士がその腰のロングソードを抜き放ち、腰を落として構える。構えは片手剣一本を利き手の右に持ち、前方に向けている片手剣使いの構えだが、左手はやや引いて、腰の位置辺りに手のひらを開いて置いている。


(やはり、魔法剣士、というところか――)


 ルシアスはその構えからそう判断した。

 左手の構えはいつでも魔法を放てる準備をしている魔法士のそれだ。しかし、そうであればルシアスにもできることはある。


「ふん、魔法剣士か――。だが、俺の大剣をお前はその片手剣一本で受け切れるかぁ――!?」

ルシアスは言うなり、大剣を一閃する。

「ふん、力ばかりでどうにかなると思っているのか? それこそ笑止!」

ジ・ラドはその大剣に呼応して利き手のロングソードを合わせに行く。


 ギィン!


と、金属音が響き、激しく火花が飛ぶ。


 ルシアスの大剣はジ・ラドの剣を滑り、ぐるりと回転させられた。

 こうなると、剣の大きさがそのまま反動の大きさへと変わる。


 大きく旋回するルシアスの大剣に対し、滑らせた後のジ・ラドの剣の軌道は小さく速い。

 瞬く間にルシアスの眼前にその剣先が迫る。


「ちいぃぃ!」

と、ルシアスが短く声を発する。そして、まるで川の水が岩を避けて進むかのような流麗さでその剣先をかわした。

「おおおらぁぁああ!」


 旋回する大剣はそのまま止まらず、一回転すると、再びジ・ラド目掛けて襲い掛かる。先程斬撃をかわされたジ・ラドの剣は今度はルシアスの大剣を受けに戻す時間はない。


「ウィンド・ブロウ!」


 ジ・ラドが短く詠唱句を放つと、ルシアスの体に強烈な風圧が掛かる。ルシアスは剣の斬撃をかわした直後で、体勢が崩れている。地に足が付いていない状況で、体の右側から強い風圧を受けたルシアスは、堪えきれずに左側へと体が揺らされた。


――ブゥン!


と、ルシアスの大剣が旋回するが、体勢が崩れた分、ジ・ラドの頭の数センチ上を通過する形になる。

(やべぇ――!)

 体が横に流された状況では、受けが取れない。ここに打ち込まれればさすがにかわす手立てが無い。


「終わりだぁ!」

と、ジ・ラドの気合が発せられた。ルシアスの左側にいつの間にか回っていたロングソードが横薙ぎに襲い掛かる。


 このままでは、ルシアスの左脇に直撃する――。


「いや、まだまだぁぁぁぁあ!」


 ルシアスは崩れゆく姿勢の中で、右足を振り上げた。

 そしてその右足で、ジ・ラドの胸に蹴りをいれたのだ。


「ぬぅうあああ!」


 ドンと ケリを見舞った反動で、ルシアスの体が空中で後方宙返りをするように舞う。

 そしてその下をロングソードの刃が通過していった。


「な、んだとぅ!?」

 蹴られたジ・ラドの方は地に足が付いていたため、それ程体勢を崩さずに済んだ。

 だが、そのおかげで、ルシアスにとっては「丁度いい足場」となったわけだ。


「しかし、これはかわせまい!」

ジ・ラドは追撃をくらわすために、剣を翻した。

 宙返りから地面に着地したばかりのルシアスの方はと言えば、無理な体勢で宙返りを打ったため、さすがに充分な体勢とは言えない。

 ルシアスは、尻もちをつき、()()()地面に手をついている。

 そして、ジ・ラドが剣を振り上げるのをただ見ているだけだ。


 一瞬、ジ・ラドは違和感を感じた――。

 剣を頭上に振りかざしたその刹那のことだ。


(な、んだ? なにかがおかしい?)


 次の瞬間、ジラドの右腕に衝撃が走った。次いで、背中にも途轍もない熱さを感じる。


「ジ・ラド――、俺の()()だ……」


 ザン――!


 と、地面に何かが刺さる音が響いた。それはジ・ラドの背中の真下部分からの音だった。


「な、ん、だと――?」

ジ・ラドは音がした自分の足元に視線を移した。

 そこには大剣の刃が突き刺さっている。


 ジ・ラドはようやく先程の違和感に気がついた。そうだ、この男、大剣を持っていなかったのだ。


「ふ、まさか剣を放り投げるとは――。それでこの剣がこの位置ここの角度で落下してくることまで計算してやったってのか……?」

「まさか、あの瞬間にそこまでうまく計算なんてできるものかよ――。これはただの賭けさ。そしてその()()()()()()だけだ。お前に勝ったんじゃねぇよ――」

「ふ、ふふ、賭けに勝った、か。じゃあ、次は俺が勝てる可能性もあるわけだ――な」

「そうだな。取り敢えず、今回は、俺の勝ちだ――」


 ジ・ラドはその言葉を聞いたのを最後に、暗闇に落ちていった。 


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