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レジェンドオブシルヴェリア――Ⅳ伝説記~そして農夫の息子は伝説となった  作者: 永礼経


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第11章 生存をかけた戦い(2)

2

 北の戦場を預かっているのはアーレシア共和国とカルティア帝国の王国軍と冒険者たちだった。

 この二つの国の軍勢に共通しているのは、比較的兵たちの練度が低いというところだ。

 カルティア帝国の状況は他国と比べて魔巣案件が少ないという傾向にある。そもそも国土の北方は険しい山岳地帯であり、魔巣が発現することがほぼほぼ皆無であるし、人里に近しいところに発現する魔巣の性質から見ても、そもそも人里自体がそれほど多くないカルティアでは他の国と比して魔巣案件が少ないのは頷けるところである。また、アーレシア共和国の方では国土の大半が砂漠で覆われている為、こちらもまた比較的魔巣案件が少ない地域であった。


 他の国家に対して魔物との直接戦闘経験が少ないのは必然のことになる。


 それでも、冒険者たちを筆頭にしてよく耐え忍んではいた。

 塔の方面から押し寄せる魔物の軍勢をこれまでかろうじて抑えて居られたのは、亜人族からの応援部隊を多く充てていたからでもある。

 亜人族の応援部隊の中にはあの男がいた。

 かつて、クアン・ハアルジーンと、亜人族の意地をかけて戦った元近衛兵隊長のオズラだ。


「おまえら! 怯むな! 俺たちが壁になって前に立たねえと、前線が崩れちまうんだ! ここは亜人族の誇りをかけて死守しろぉ!」


――おう!


と、オズラの怒声に威勢良く言葉を返す亜人族部隊だった。


 後方で隊を指揮していたカルティア帝国冒険者ギルドグアンタ支部長キリシュテラ・ブルーナも、彼ら亜人族の奮闘ぶりを見て奮起していた。


 キリシュテラ・ブルーナ――。彼女の名前を憶えておいでだろうか。グアンタ支部古参の冒険者パーティは2つあった。一つは現ベイリール支部長と副支部長を務める3人、スティーブン・ハワード、エリザベス・ターナー、ロバート・ウィスコンスのパーティ。そしてもう一つの古参パーティこそ、「キリィ」ことキリシュテラ・ブラーナのパーティだ。


「キリィ! アイツらやっぱすげえな! あの体躯から繰り出す大型戦斧の一撃で小鬼がいっぺんに数体吹っ飛んでくぜ?」

と、声をかけたのはキリィのパーティの一人、エルナド・ガードランだ。エルナドはキリィと共に冒険者を目指しベイリールに参じたキリィの昔からの幼馴染らしい。この、なかなかに調子ものの大男は、強面であるが、その性格から若い冒険者からも慕われている、「話の分かる兄貴分」と言った感じだ。


 その言葉をキリィの隣で聞いていたもう一人の女性がいた。彼女の名前は、シンディ・ルーターという。小柄で幼い顔立ちだが、なかなかにはっきりとものをいう女性で、冒険者たちからは「氷のシンディ」などという異名が付けられている。

 そのシンディが、エルナドの言葉に反応した。

「でも、少しずつ押されてる――。魔族軍の数が多すぎる。このままだと、数刻もしないうちに前線は崩壊する」


「わかってるわよ、シンディ。でもね、今は、耐え忍ぶしかないの。総隊長のルシアス様からそのように指示が来てるわ。この戦、いつもの魔巣攻略や魔物退治とはわけが違う。私たち一隊だけで動いても埒があかないのよ。だから、連携を取って各方面で出し入れして消耗を最小限に食い止めつつ、前線を維持する。それがこの戦の勝利につながるのよ」

シンディの言葉にキリィが返した。


 そのルシアスからの指示はそれほど難しいものではない。言うなればある意味非常に単純明快だ。「ダジム・テルドールに従え」、これだけなのだ。


 キリィは過去にルシアスと面識がある。実は、スティーブンがアルたちの護衛でミンチャへ行った時、その後、ルシアスがギルドに立ち寄ったことがある。そう、アルたちの元へアリアーデと共に向かっている道程での話だ。

 ルシアスはギルドホールで悔しくて泣き喚いていた「少女キリィ」に優しく声をかけたのだった。

「心配するな。アルはお前たちのことをしっかり見ている。そのうち必ずお前たちの力が必要になるときが来る。その時はアルをしっかり支えてやってくれ」

 キリィは今もその時頭を軽く叩いてくれたルシアスの手のひらの優しく温かい感触をしっかりと覚えている。


 そのルシアスの言葉がそれなのだ。今は何が何でも指示に食らいついていくしかない。

 

「それに、あの指示を出されているのはギルマスの父上様なのよ。かつて、領土確定戦の折、迫りくるレトリアリア軍をオーヴェル要塞で押しとどめた時、シルヴェリア軍の指揮を執っておられた方なのよ。今はその方の戦略眼を信じて耐えるしかないわ――」


 そもそもこういった集団戦闘というのは冒険者向けではない。冒険者たちはせいぜい3人から5人程度のパーティを組んで行動するものたちだ。こんな数百数千の軍勢を指揮するなど、到底無理な話である。それでも、魔物との戦闘経験に一日の長がある冒険者たちは、王国兵などから見れば魔物退治のスペシャリストたちだ。その経験で何とかこらえていると言った方が正しいだろう。


(さすがに、兵たちの動きが鈍りつつある――。回復が追い付いていないわけではないけど、精神的な疲弊は回復させることが出来ないわ――。それに、やはり、全員が無事生きて帰れるという保証はない。すでに何人かが命を落としているわ。テルドール卿、ルシアス様――、ここはもう、そう長くはもちません――)


 キリィは、それでも必死に声を上げ、軍勢を鼓舞し続けた。


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