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レジェンドオブシルヴェリア――Ⅳ伝説記~そして農夫の息子は伝説となった  作者: 永礼経


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第11章 生存をかけた戦い(1)

1

 ルシアスは隊を率いて、魔族の軍勢に分け入った。


 騎馬にまたがり大剣を振るうのはもう何十年ぶりだろうか。


 しかしながら、頭上にはダジム・テルドールがいる。

 アイツが大軍勢を指揮するその腕前は、ルシアスをもってしても足元にも及ばない。しかも今回は「あの右腕(カラクリ)」のおかげで全軍に視認可能な状態で指示が下されている。


 各軍ともよく訓練されていて、ダジムの指示にそれほどの時間的なズレもなく応じ、指示を確実にこなしてゆく。殊に、各国王国軍の働きはこういった規律を重んじる用兵とは相性が良い。しかも訓練が行き届いているとなれば、おおよそダジムの思った通りの成果が表れることだろう。


「進め! 止まるな! 必ず道はひらける! 信じて駆けろ!」


 後ろに続く自身の手勢を鼓舞しつつ、指示通りのルートを進み続ける。


 右に左に魔族の軍勢をなぎ倒しながら、ルシアスは目的地点となる塔の入口へと突っ走る。左右から押し寄せる魔族軍は、ダジムの用兵の効果か、それほどの脅威にはならなかった。


 やがて、ルシアス隊は初速のまま速度を落とすことなく、塔の入り口まで辿り着く。塔の入り口に立ちはだかるオウガに隊員の数人が切りかかり、隙を見出したルシアスが頭上から真っ二つにそのオウガを分断した。


「突っ込めぇ! 目指すは最上階、アルのところまで駆け上がるぞ!」


 隊員に号令をかけ、自身も塔の内部に侵入した。


 塔の内部にも魔族の軍勢がひしめいている。

 しかし、とにかく早く最上階まで辿り着かなければ、さすがにアルにはああいったが、あの黒騎士が相手となると8人では数が少なすぎる。できる限りの数の隊員を連れて最上階まで辿り着かねばならない。


「ひるむな! 必ず最上階まで辿り着くんだ!」

言うなり正面の大鬼を一刀両断する。


――おおおおおおぉぉぉぉぉぉ!


と、ときの声が上がり、ルシアス隊の塔内攻略戦が始まった。



******



 ダジムはルシアスが塔内に進入したのを見届けた。


(頼んだぜ、相棒。こちらはとりあえず一つ目の仕事は完了だ――が、やはり、魔族軍の軍勢は耐久力が高い。小鬼はともかく、大鬼とオウガは厄介だ。それに、各方面に配置されている黒騎士ども……。あいつらが定期的に打ち込んでくる魔法の矢で、押し込んだ部分が押し戻されることを繰り返してやがる。こりゃあなかなかに思い通りにはいかねぇなぁ――)


 しかし、弱音を吐いている場合ではない。この戦いには自らの、いや、人類全体の命運がかかっている。負ければ、それこそ明日はないのだ。


 現在前線で戦っているのは冒険者たちと各国の王国軍だ。それぞれの司令官にはあらかじめルシアスから一つの指示をおとしてもらってある。


 冒険者たちと王国兵たちが「見るべき指示」は、それぞれ色分けされているのだ。


 現在空中に魔素で描く線や指示は全部で3色。

 赤は王国軍、青は冒険者、そして黄色が魔法士隊だ。


 各軍はその色を確認しながらダジムの指示を着実にこなしてくれている。もちろん、こちらの被害はゼロとはいかないだろう。回復できるのはあくまでも死んでいないものたちのみだ。できうる限り即死をさせないように気を配ってはいるが、そう簡単に事は運ばない。大鬼やオウガの一撃をまともに喰らってしまった場合、それだけで命が吹っ飛んでしまう事さえあるのだ。


 その時、北側の前線にほころびが生まれた。やはり、きっかけは黒騎士の放った魔法の矢だ。


 わあああ!


という悲鳴が塔の北の戦場から上がった。

 北の戦場を担当しているのはアーレシアとカルティアの合同軍だ。

 この二つの王国軍は比較的練度が低いのは始めから分かっていたのだが、それゆえに合同軍として数を割いている。

 しかし、さすがに練度の差はいかんともしがたい。


(くそっ! こりゃあ、なかなかやべぇぞ! すぐに建て直さねえと、北の前線が瓦解する!)


 ダジムはとりあえず、即応するために、北の軍勢に対して隊列変更の指示を送る。とにかく中央突破されて魔法士隊のところまで魔族軍が進むのだけは防がねばならない。


「――ったく!! 何やってんの! ダジム! しっかりしなさい!」

その刹那、頭上から聞きなれた声が響いた。


 見上げると、そこにはダジムと同様に飛行機械にまたがった妻の姿があった。


「メイファ! 間に合ったか!?」


「すでに各方面隊の後ろに整列しているわよ。でも、()()は一度きりしか使えないんだから、タイミングを間違えないでよね?」


「へっ、誰に言ってやがる。俺は、ダジム・テルドールだぜ?」


 そう返すダジムの目に自信と確信の炎が再び燃え上がった。


「この戦い、俺たちの勝ちだ――」

「何言ってるのよ! そんなのは当たり前のことなの! あなたの仕事は()()だけじゃないでしょう!?」


 メイファの厳しい言葉とは裏腹にその表情は相変わらず優しく微笑んでいる。

 

(へっ、この顔だよ。俺はこの顔を守るために今までやって来たんだ。わかってる、分かってるさ、俺の仕事は勝つだけじゃ納得させられねぇってな!)

そう頭の中で反芻はんすうしながら、

「――ったく、相変わらず、注文の多い奥様だぜ! わかってるよ! まあ、見てろって、惚れ直させてやるからよぉ!」


 そう叫ぶと、ダジムはその右腕を掲げた。


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