第10章 魔族侵攻(3)
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数刻後、このダーンウェル遺跡の周囲を取り巻くように陣容が整えられた。
遺跡の中心の塔から約200メルほど離れてぐるりと周囲を囲む形で防衛線を敷いた「人類軍」は東西南北の廃墟の建物をそれぞれの指令所として構え、遺跡全体を包囲する形で陣取っている。
各国冒険者ギルドの冒険者約2000名、魔法士約300名、それに各国の国軍500名ずつが6カ国で計3000名。
総勢5300名の戦力がここに集結している。
遺跡の中央塔の様子だが、やはり魔素の収束が強まっている。しかし、未だに魔巣は生成されていなかった。
「アル、ケイティ。敵はおそらく一気に押し寄せる魂胆だ。竜族世界の時もそうだったが、その場合敵の総数は場合によっては数千を超える可能性がある」
と言ったのは、ゼーデ・イル・ヴォイドアーク竜族長だ。
「そうですね。魔巣が発生してくれれば潰しようもあるのですが、魔巣が発生しない以上こちらから打つ手はありません。敵が溢れ出るのをどれだけ抑え込めるか――。初動でその趨勢が決まるものと思われます」
と、アルが応じた。
「まあ、とにかくやれることをやるしかないだろう。これだけの軍勢が集結してるんだ、これでだめなら、どちらにしても俺たちに勝機はないさ」
と言ったのはルシアス・ヴォルト・ヴィントだ。
「じゃあ、作戦会議、始めるわよ?」
と号令をかけたのはアリアーデだった。
作戦は単純明快だった。
アリアーデとゼーデが共同で『竜結界』を生成する。
しかし、それは、敵を侵入させないようにするためではない。
敵を「外に出さない為に」生成するのだ。
このダーンウェル遺跡全体を取り囲むように結界を張る。結界というのは半透明な魔法で作られたドーム状の「壁」である。
かつて、竜族世界において、竜族の長であり、ゼーデとアリアーデの父でもあるゲルガが竜族の家臣たちと共に『世界の柱』を守護するために張った結界だ。
この術式は術者が解かない限り基本的に破壊不可能と言われているが、術者が死亡した場合や、魔素の供給が途切れた場合はその限りではない。
竜族世界においてゲルガが生成した『竜結界』は、魔素が高濃度で漂っている竜族世界であるが故の術式である。
魔素濃度の希薄なこの人族世界においてどれほどの強度と耐久力を持つに至るかについてはそれほどの信頼性はない。そこは、これまでのゼーデの研究の成果、つまり、【魔法石】の性能が問われるところとなるだろう。
そうして、その効力の持続している間に敵の首魁を殲滅する。
おそらくはあの「暗黒騎士」が来るはずだ。
そいつを倒すか、もしくは降伏へ追い込めば、敵の戦意は失われ、戦闘は終結するだろう。
それでも終結しない場合は、すべて殲滅する以外に方法はない。
「とにかく第一波を抑え込む。そうして戦況が膠着したら、遊撃隊を繰り出す。あとは敵首魁を無力化する――以上よ」
とアリアーデが締めくくる。
「姐さん、それ、作戦って言うんですかぃ? まあ、分かりやすくて俺にはいいけどよぉ……」
と口を挟んだのはレイノルドだった。
「大丈夫、そこは強い味方を呼んでおいたから。そのうち到着するはずよ。あんたたち遊撃隊はしっかり体力を温存して突撃に備えておくことね。たぶん、その人の指示はとてつもなく無茶なことかもしれないから――」
とアリアーデは薄笑いを浮かべた。
アルには理解できている。
この戦い、自分たち遊撃隊の作戦行動の是非そのものが全てだ。
遊撃隊のメンバーはアル隊のメンバーだ。アル、ケイティ、レイノルド、チュリ、ユーフェリア、ゲンシン、クアン、そしてジークの8人だ。この8人を、ゼーデ配下リュシエル・ミュルスとその麾下3名の竜族が運ぶ手筈となっている。
これまでのところ、魔族たちの中に空を飛ぶことが出来る種は見当たらない。
おそらくそれは今回も変わらないだろう。
それゆえに、空からの急襲が成功すれば、首魁との直接戦闘が可能だと考えたのだが、今はその可能性を信じてやり切るしかない。
「とにかく、みんなを信じよう。僕たちは力を併せてこの世界を守るためにここにいるんだ。そして今日この日のためにいままで世界中をめぐり旅をしてきた。この世界だけじゃない。四属世界すべての運命が僕たちに掛かっている。いや、みんなの頑張りに掛かっているんだ」
と、アルが宣言する。
「そうですね。私たち一人ひとり、それぞれの力は小さいかもしれないけど、これだけの仲間たちが互いを信じて自分のやるべきことをやればそれは大きな力になります。レイノルドさん、頼りにしてますよ?」
とケイティがふわりと笑う。
そんな二人の姿を見て、アリアーデとルシアスも心が熱くなった。
あの少年と少女がもう立派な戦士であり、リーダーに成長している。
ルシアスの手にアリアーデがそっと手を伸ばした。
ルシアスもまたその手を取って、しっかりと握り返し、アリアーデの瞳を見つめて微笑んだ。




