第10章 魔族侵攻(1)
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聖歴168年9月――。
とうとうこの時がやって来た。
場所はレトリアリア王国の王都レトリアーノ北部の新街道沿いだった。
この街道は最近整備された街道で、王都レトリアリアと新港町ハーツを結ぶ南北に引かれた街道だ。
港町ハーツは、レトリアーノへのアクセスを容易にするために新造された港町で、位置的には、ベイリス王国の王都ベイリールから真っすぐ南に東の大海を渡り切った場所にある。
旧東西航路のうち、ベイリスのベイリールとダイワコクのタンダの間に新寄港地としてこの港町が順路に加えられてからまだ一月も経っていない。
この港町ハーツから南に約1日の距離に王都レトリアーノが位置している。
これまでレトリアリアへ向かうためには、タンダの次の寄港地ニアルタから街道を行かねばならなかった。その道程は約3日だったから、周遊船とこの新街道を使うことで、各国の王都からレトリアリアへの距離が「短く」なったと言える。
ハーツの造成にはレトリアリア王国が総力を挙げ、これまでダイワコク以外とあまり親交の無かったレトリアリア王室にも、各国との連携を積極的にすすめようという意欲が現れており、世界各国からレトリアリアへ向けられる目も、これまでより好意的な視線へと変わりつつあった。
その矢先だ。
レトリアーノ―ハーツ間の『南北街道』は、そもそも、「憂いの森」という名の大森林を切り開いた街道であったが、その大森林の中に、旧遺跡ダーンウェルが存在している。遥か太古の遺跡の一つであるが、これまでは深い「憂いの森」の中に紛れており、人通りもほぼなかったため、これまでは魔巣の発現も見られなかった場所だったのだが、街道がそのそばを横切る形になったことで、魔巣発現監視区域に指定されたばかりのことであった。
「――ダーンウェル遺跡に超巨大な魔巣の発現の兆候が見られます」
と、警告を発したのは、エリシアだった。
かねてよりこの時のために備えていたシルヴェリア王都のエリシア大神殿、その神官長アナスタシア・ロスコートの元に、エリシアからの急報が届いたのだ。
この情報は時を経ずして、アルとケイティの元へもエリシアから「直接」届けられた。
アルとケイティはすぐさまルシアスに報告し、レイノルドをその任から一時離脱させた。
ついで、チュリとユーフェリア、クアン、ゲンシンに即刻連絡し、冒険者ギルド『木の短剣』総本部のアルの執務室に全員集合したのは連絡を受けた日の昼前だった。
「とりあえず、ダーンウェル遺跡へすぐに飛ぶ。そうして、魔巣の状況を確認し、場合によってはそのまま拠点の構築を開始する」
というアルの命に、一同が意義無く頷いた。
ルシアスとアリアーデはアルからの報告を受けた後、旅支度を整え、すぐさま、シルヴェリアへ向かった。王都ではおそらく二人の到着を今か今かと待ち受けていることだろう。この際、娘のメルリアは砦に留守番となった。そうして、メイファとダジムに遣いをやった。そのうち二人が様子を見に来てくれるだろう。
シルヴェリア王城内はたいそうな混乱になったかと思いきや、実はそうはならなかった。
そこは英雄王ガルシア2世のことだ。
あらかじめこの日が来ることを予期していた彼と彼の腹心イレーナ・ルイセーズ国際魔法庁長官はかねてよりの打ち合わせ通りに事を運んだ。
まずは各国の王都に妖精便を遣わせた。
臨戦態勢を整えた王国兵士軍を招集して備えてもらうように文を託ける。
また、各国冒険者ギルド支部にもその旨を通達させた。各ギルド支部長はすぐさま支部に所属する全冒険者に通達を発することだろう。
「追って、ギルドマスター、アルバート・テルドールより指示があろう。心して待て」とだけ通達する。
そうこうしているうちに、魔法石研究所から3人が駆けつけた。
竜族族長ゼーデ・イル・ヴォイドアークと、その家臣リュシエル・ミュルス、そして妖精族の元近衛兵長・妖精王姉ミュルシーナ・グインズィーデルの3名だ。
この3名とガルシア王、イレーナ、アナスタシアの計6名はルシアスとアリアーデの到着を国王執務室で待っていた。
そしてこの数日後、ついに人類存亡をかけた大戦が幕を開けた――。




