第9章 それぞれの果実(9)
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聖歴168年7月、今年も暑い季節がやって来た。
各国の街々に冒険者のパーティが多数見受けられるようになって、すでに久しい。
冒険者ギルドへ加入するものの数もようやく落ち着きを見せ出している。
それでもすでに全世界で計2500名以上を数え、その参加者たちの中には亜人族、妖精族の姿も見られた。
そして、国際魔法庁の方も新人魔法士の発掘を続け、魔法石の恩恵もあり、各国平均100名ほどの規模に達している。
これは人族魔法士の数であり、もともと魔法に長けている妖精族も緊急の場合は魔法士団を形成して駆け付けてくれることになっている。
とりわけ、亜人族の話をここでは取り上げるとしよう。
成人した亜人族(=成体)の冒険者への適性は思った通り非常に高かった。
そもそも体格的に人族や竜族よりも大きくなる亜人族はその膂力も耐久力も非常に高い。彼らの肉体を覆う鋼のような筋肉は、容易に刃物を通さないほど頑強であるし、また、そこから繰り出されるパワーは人族の中でかなりの大柄な者でも容易に扱えない両手用戦斧や、大型の鎚なども余裕で扱えるほどだった。
しかしながら、亜人族の者たちはそもそも集団戦闘に経験がなく、個人戦主体の力自慢大会がある程度なので、戦闘術にも長けていない。
その為、クアン・ハアルジーンのいるここ、ソードウェーブの冒険者ギルド修練場を卒業したもののみ、正式冒険者と認めるという制限を付けた。
実際、体格的にまさる成体亜人族の中には、人族の冒険者を軽んじるものも多かったため、自身の戦闘に対する未熟さをまずは身をもって知ってもらう必要があったためだ。
それには、未だ青年体であるクアンがこてんぱんに負かしてしまうことが一番最良の手段となる。
そもそも亜人族の性質は非常にカラッとしていて、素直である。自分よりも相手の方が「強い」という事さえ分かれば、そこは素直に負けを認め、相手を敬う性格なのだ。
こうして、冒険者ギルドで修練を積んだ亜人族の正式冒険者は、ここソードウェーブの冒険者パーティに参加して実際に集団戦闘を経験し、やがて、各国のギルドへと拠点を移すものも現れだしている。
彼らの性格はそもそも人懐っこく快活であるから、各地の冒険者たちとの相性はとてもよかった。それに、冒険者ギルド『木の短剣』総本部で直にクアン・ハアルジーンの訓練を受けたということは各地の冒険者にとってみれば一つの「勲章」でもある。
拠点を他国に移した亜人族の冒険者たちも、その大柄な体格と前衛としての盾役や対多数戦闘においての殲滅役としてパーティに一人いるだけで、パーティ全体の戦闘力が数段上がることを鑑みて、メンバー勧誘の対象として引く手数多だった。
次に、各国の交流についてだが、実は世界周遊の航路が二つ整備された。
東回り航路と、西回り航路の二つだ。
ソードウェーブから出港し、ベイリスのベイリール、ダイワコクの南端タンダ、そしてレトリアリアのニアルタ、次いでアーレシアのアレシアン、最後にシルヴェリアのポートアルトまでの航路を東回りと言う。逆に、ポートアルトから出港して逆さ順に航海するルートを西回りとした。
つまり、それぞれの出発点と終着点をソードウェーブとポートアルトに設定したわけだ。
なお、この二つの都市の間には陸路で連絡街道が整備されているため、実質、用途や行先に応じて好きな向きで各国へ渡航が可能になっている。
なお、アレシアンとニアルタの間には永久氷原という極寒の土地が南北に広がっている。これを越えるには一度最南端まで下らねばならない。
さすがに、この区間を一息で航海することは出来ない為、レトリアリアの東の端の漁港テュルクで一度補給を行うことにしている。
古くからお付き合いいただいている方には懐かしい街の名だ。そう、ジークがかつてレトリアリアを逃れ出るときに一艘の小舟を用立ててもらったあの漁師町だ。
ニアルタを出港した周遊船は、そこで一旦補給をした後、さらに東へ進み、突き当たった永久氷原の沖合を今度は南下する。そうして氷原の最南端『果ての岬』をまわり、そこから北東に針路を取ると、アーレシア共和国の領土が見えてくるという訳だ。
カルティア帝国の王都グアンタへは、ベイリールからの川船がある。しかしながら、レトリアリアの王都レトリアーノだけが現在非常に容易に到達できない場所にある。
南に広がる『果ての海』はなかなかに気候が険しく、長期航海には向かない為、かろうじて、『果ての岬』を回る時だけ通ることにして、東の大海に面するレトリアリアの北端に現在新しい港街を建設しているところだ。その港町が完成すれば、今よりも格段にレトリアーノへの道程も楽になるだろう。
また、蛇足ではあるが、この周遊船を管理運営しているのは、あのベイリスの豪商リカルド・オルトマンである。そしてさらに当然のことだが、グアンタの輸送船団ルンゲ商会のルスト・フォン・ルンゲ会頭も一枚噛んでいる。
このような形で、人族世界は以前に比べてかなり「小さく」なってきていた。




