第9章 それぞれの果実(1)
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先般の黒騎士襲来、いわゆる『北の遺跡の大規模魔巣騒動』以来、すでに1年半が経過している。
騒動が起きたのは聖歴166年6月。現在は聖歴168年1月だ。
黒騎士による大規模魔巣襲来はそれ以降起きていない。しかしながら、各国の魔巣案件は徐々に増加傾向にあり、冒険者たちの駆除活動をもってしても追い付かないほどになりつつあった。
しかし、その間、人類たちもただ手を拱いていたわけではなかった。
これから数話を割き、彼らの「果実」を紹介していくとする。
一つ目の舞台は、シルヴェリア王国王都シルヴェリアである。
現在、国際魔法庁の本部庁舎が設置されているこの王都は、いわゆる世界の両輪の片輪であると言ってよかった。もちろん、もう一つの輪は冒険者ギルドである。
そして、その国際魔法庁の管轄下に、竜族の長ゼーデ・イル・ヴォイドアークと妖精族の女王姉ミュルシーナ・グインズィーデルの二人が協力し合い束ねている集団があった。
――『魔法石研究所』である。
竜族の生き残りたちとゼーデによって成り立つこのチームは、初めはアルとケイティの封印を解く補助のために【魔封石】を生成することに成功した。そしてそののち、魔感士育成までの間の魔巣探索用に【魔導石】を生み出した。どちらもこの人族世界に生成されるシブライトという鉱石を使用したもので、これに魔法を付与した魔導具である。
その後、ミュルシーナの協力を得て、【魔法石】という、魔素を一時的に補給する魔導具をも生み出すことに成功し、そうして、その【魔法石】の魔素含有量は改良を加えるごとに増大していた。
先般、『北の遺跡の大規模魔巣騒動』の際、腕を切り落とされたアルの治療にケイティが使用した【改良魔法石】がそれである。ゼーデとミュルシーナたちの研究の成果、現状で最大魔素を含有できる限界に挑んだ作品だ。ただ、その魔素量はかなり強大で、現在ケイティをもってしても単独で制御できるものではない。
もちろんそのままでは通常利用に耐えることは出来ない為、今度は適量を適正な大きさのシブライトに含有させる研究を続けていた。
その研究の結果生み出されたのが、【携帯魔法石】である。
利用する魔法士のレベルや経験に合わせ、3段階の大きさを用意した。いまや、『魔法石研究所』はこの魔法石生産工場ともいえる組織となっている。また、今ではシルヴェリアの国際魔法庁に属する魔法士もこの研究所に数名出向しており、この大・中・小魔法石の生産に従事している。
次に、二つ目の舞台は、ソードウェーブだ。
ソードウェーブのテルドール鍛冶工房。そこがその舞台となる。
旧ソルス地区にあったダジム・テルドール宅を改修増築したその工房は、アルたちが持ち帰った設計図と、北の遺跡の先、アダマンタイト鉱石採掘所からもたらされるアダマンタイト鉱石を使い、【魔素変換機】を作ることに注力している。
材料や素材の調達には、ダイワコクの諜報部と、仲介役として来てくれているアカネ・ミナミカワが活躍してくれていた。
設計図自体は言語こそわからなかったが、なんとかこれまでの鍛冶の経験と、各国からこの地に召喚され、それに応じてくれた技術者たちとの協議を重ねるうちに何とか形になる物が製造された。
『初号機』が誕生したのは166年の12月のことだった。設計図がもたらされてからすでに半年ほどが過ぎ去っていた。
だが、結果は惨敗。動力は全く生み出すことが出来なかった。
それから再考察が始まる。
そしてようやく『弐号機』が完成したのが、翌年の春だった。
聖歴167年3月下旬。
人類(正確には精霊族以外の四族)は、初めて魔素を動力へと変換することに成功した。
最初に作動した【魔素変換機】の生み出すその動力はまだまだ微力で、せいぜい手のひら大の水車を回す程度のものでしかなかったが、この男、ダジム・テルドールはへこたれることはなかった。
「ようし、きたぜ! これでこの装置の造りに間違いがねぇってことは証明されたってわけだ! あとは、威力を上げるだけだってことだ」
というダジムの言葉に、3人の鍛冶師たちが返す。
「ったく、うちの大将は気やすく言ってくれるぜぇ」
「だよなあ、ここまで来るのにどれだけ時間がかかったか――」
「まあ、いまさら、だけどなぁ?」
と言いつつもその表情は明るい。
オイゲン・ヨーク、カイル・レーリ、そしてエルスト・ベイランドの3人だ。
オイゲンとカイルは北の遺跡の先、アダマンタイト鉱石探索の際、アルたちについていった二人である。
「何言ってやがる!? 動かなかったものが動いたんだぜ? これはとてつもなく大きな一歩だ! いわば、シルヴェリアがレトリアリアと「ダンスする」より難しいことをやってのけたんだぜ?」
などと言ったものだ。
シルヴェリアとレトリアリアの間には過去に戦争が起きている。両国のわだかまりが晴れたとは言えないが、先般のレトリアリア内部紛争の際に『英雄王』フェルト・ウェア・ガルシア2世の仲裁もあり、両国の関係は改善に向かっていると言っていいため、このダジムの言葉は適切ではないと言える。
まあ、ダジムの真意としては、とにかく難しいことをやってのけたのだから、この先も大丈夫だといいたかったのだろう。




