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レジェンドオブシルヴェリア――Ⅳ伝説記~そして農夫の息子は伝説となった  作者: 永礼経


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第8章 木の短剣に捧ぐ(8)

8

 ケイティは慌てて駆けだしていた。


 魔法士の一人が「木の短剣」へつかいで行ったところ、中庭に冒険者たちが集結して何やらわぁわぁとはやし立てる声がしていたというのだ。その中庭の様子をのぞいたところ、テルドール卿(ギルドマスター)が冒険者と対峙しているではないか。それを見たその魔法士はあわててケイティのいる魔法庁へ駆け戻ったという訳だ。


 何が起きているのか全く見当がつかないケイティだったが、アルが後輩冒険者相手に木剣とはいえ剣を抜くなど、ここ最近ではなかったことだ。

 さすがに、何かあったに違いないと確信し、「木の短剣」に慌てて駆けだしたということだった。


 ギルドの正面玄関に差し掛かった辺りで、レイノルドと鉢合わせする。どうやらレイノルドも誰かから聞きおよんで飛んできたようだった。


「レイノルドさん! なにがどうなって――!?」

「ケイティ! 俺も今来たとこだ。状況は全く分からん!」


 二人して、ギルド本部の扉を壊れんばかりに開け放ち、ロビーを突っ切って中庭へと向かう途中、いよいよ雰囲気の異様さにふたりも気が付く。

 ロビーはガランとしていて、いつもなら冒険者たちがそこかしこにいるのに、今日は誰もいないからだ。


 その時正面の中庭の方からわぁっと歓声が上がった。


「いそぐぜ!」

「はい!」


 ようやく中庭に到達した二人の目に冒険者たちが湧いている中央に立っているアルの姿が見えた。


「――いずれ君たち全員の力がこの世界を救うために必要となる日が来る。それまで、生きて、精一杯『冒険者』を楽しんでくれ。以上だ」

と、いうアルの口上が聞こえた。


 どうやら事はもう済んだ後という感じだ。


 その後のこの中庭の様子はすでにお話したとおりだ。ふたりもその様子を見守ることしかできなかった。



******



「――ったく、びっくりさせんなよぉ。いったい何事かと思ったぜ?」

レイノルドはアルに苦言を漏らした。


「ははは、すまない、レイ。だけどちょっと最近思うところがあってね――」

と、アルはばつが悪そうに応じる。

「――最近魔物の動きが活発になっている。銀級冒険者以上に魔巣攻略を限定しているんだけど、それでも怪我人が後を絶たない。それに対して、冒険者の新規参入者の数は増えていく一方なんだ。徐々に、各国支部だけでは対応できない数にまで膨れ上がるだろう。組織として、大きくなりすぎている、と、僕は思ってるんだ。だけど――」


「――冒険者の受け入れを減らすわけにはいかねぇってことだろ?」

と、レイノルドが口を挟む。

「わかってるよ、お前の言いたいことはな」


 そもそも冒険者になるやつってのは、自分の家に居場所がない奴が多いのも事実だ。彼らは一様に、「必要とされてこなかった」という部分が少なからず見受けられる。だから、少し「ひねている」やつが多いのは事実だ。そういうやつらにとって「木の短剣(ギルド)」はいわば『家』だ。その『家』が自分たちを必要としてくれている。だから気概も大きく、想いも強い。しかし、その反面、功を上げることが出来ずに見向きもされなくなることを極端に怯えているという側面もある。

 彼らは人から認めてもらうという経験が極端に少ないと言えるのかもしれない。


 そういうものたちにとって、「木の短剣(ギルド)」は、そして、アルバート・テルドールだけは決して見捨てないということを知ってもらい、その代わりに、規律をしっかりと守るという規範意識を持ってもらわねばならない。でなければ、「木の短剣(冒険者ギルド)」はただのならず者の集団となってしまい、ひいては、世界中から除け者扱いされてしまうだろう。


「昔の俺たちのようにな――」

と、レイノルドが静かに言った。かつて、ルシアスと共に3人で活動していたころは、「冒険者」というのは汚い仕事を請け負う便利屋のような存在で、酒場で食事をしている時には白い目で見られ、除け者扱いされていた時期があった。その頃のことをレイノルドは言っているのだろう。


「僕はあんな思いを若い冒険者たちにしてほしくないんだ。レイ、あのころ君がいなければ、僕は今ここにいないかもしれないって思うんだよ」

とアルが請け負う。


「――はん! お前、気にしすぎだって。俺たち冒険者はすでに世界が認める一大組織だ。あの頃のようにはならねぇよ。それに、俺はただ、いつも自分らしく勝手気ままにしてきただけだぜ? 別にお前を庇うつもりは毛頭なかったんだからよ? ――なあ、アル。お前、今、楽しいか?」


――楽しいか? だって?


「――――」

アルは即答できなかった。


「ほらみろ! だからお前はそんなつらしてんだよ? 親分ルシアスがいたころのお前はもっと溌溂はつらつとしてたぜ? たしかに今お前の背負しょうものはあのころとは比べもんになんねえだろうがよ? だけど、よく考えてみろ? 親分だって、結構なもの背負しょってたぜ? だけど、あの人はそんな眉間にしわを寄せてたことはなかった。いつもその状況を楽しんでやがった。お前も人の先頭に立つものなら、そのぐらいのおおらかさを学ぶんだな? まあ、あの人レベルになれとは言わねえけどさ」


 じゃあ、俺は砦に戻るわ、はあ、走ってきて損したぜ、せめてお前とあの若い冒険者のやり取りを見たかったなぁ、と言い残してレイノルドは部屋を出て行った。

 部屋には今、そのやり取りを一部始終聞いていたケイティとアルの二人だけになっている。


「――楽しいか……か」

と、アルはつぶやいた。


「――ふふふ、さすがレイノルドさんだね? アルのこと、本当によく見てる」

とケイティが応じた。


「ああ、全くだ――。僕は自分を見失っていたのかもしれない」


 この一件以来、アルはよくロビーで書物を読んだり、冒険者たちと言葉を交わすようになったという。

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