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レジェンドオブシルヴェリア――Ⅳ伝説記~そして農夫の息子は伝説となった  作者: 永礼経


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第8章 木の短剣に捧ぐ(5)

5

 ちょうどアルがギルド総本部庁舎に戻ってきた時のことだった。

 このソードウェーブ支部長を務めるゲール・クロフォードと、副支部長のヒューゴ・ベルルの二人が他愛もないおしゃべりをしていたのをアルが耳にしたことから事件は始まる。


「おい、ヒューゴ、アイツらどう思うよ?」

「ちょっと調子に乗ってる気がしますねぇ……。今朝も、こんな初級者クエストなんて見習いにやらせて、俺ら銅級にも魔巣駆除に参加させてくれれば、もっと勲功を上げることが出来るのに、なんで行かせてくれないんだと受付に食って掛かったそうですよ」

「たしかに、見習いのころからそれなりに器用な奴だったし、その後組んだパーティの連中も皆、筋はいい。銅級の中でもクエスト消化時間が速いのもいいんだが……」

「同じ銅級のウィルに聞いたんですが、かなり無茶な戦闘法を取ってるようですね。とにかくごり押しで力任せって感じらしいです」


「――ゲール、ヒューゴ、今の話、詳しく聞かせてくれないか?」


 階段に向かって行ったと思っていたアルが二人の方へとやってきて、そう問いただした。珍しく真剣な面持ちで問われたものだから、ゲールは思わず空気を緩めようと冗談交じりに応える。

「あ、ああ、ギルマス。お疲れ様です。いやあ、最近の若いもんは血気盛んっていうか、元気があっていいなぁって話ですよ?」

「血気盛んって、ゲールさんが言いますか?」


 かかか、とから笑いする二人の耳に、久しく聞いていなかったアルの怒号が飛んだ。


「そういうことを言ってるんじゃない! そのパーティが受付に食って掛かったって話だ!」

 

 ホール全体にアルの怒号が響き渡った。

 このホールには依頼を模索していた冒険者や、受付窓口にはもちろん受付事務にあたっている事務員たちもいたが、皆が何事かと3人の方に視線を向けた。


「あ……、ああ……、すいません、つい――」

「ど、どうしちゃったんです? 冒険者が受付に愚痴をこぼすなんて日常茶飯事のことですよ?」

 シュンと大柄な体を小さくするゲールと、慌ててとりなすヒューゴに、アルは我を取り戻して、静かに言った。


「あ、ああ、すまない、大声を出して。その冒険者の話、詳しく聞かせてくれないか。僕の部屋で話そう――」

アルはそう言うとくるりと身を翻して、自分の執務室へ向かうべく階段の方へと歩み始めた。


――おい、ギルマスのあんな声、おれぁ、初めて聞いたぜ?

――なんだよ、何があったんだ?

――ギルマスってあんな感じの人なの? 私、もっと優しい方だと思ってたけど……


などという声がアルの耳をかすめてゆく。


(くっ……、思わず気がたかぶってしまった――。だけど、受付に食って掛かるなんて言語道断だ。このままにしては置けない――)


 アルは押し黙ったまま、自室の方へ向かう。

 ゲールとヒューゴもとぼとぼとその後に付いて階段を上がっていった。


 そして数十分後、


『――告――。

冒険者ギルド『木の短剣』ソードウェーブ支部に属する全冒険者は、1月12日午前9時、ギルド庁舎中庭に集合すること。

ギルドマスター アルバート・テルドール』


 掲示板にそう告知が掲げられた――。



******



 当日午前9時――中庭に現在ソードウェーブを拠点にしている全冒険者が集結していた。


 それに、支部長ゲールと副支部長ヒューゴ、師範代のクアンはもちろん、チュリ、ユーフェリアもまた集まっていた。

 ケイティ、レイノルドの姿が見えないが、そもそもケイティは国際魔法庁の方が主たる仕事場で、アルのパーティが出動しない限りは基本的には国際魔法庁に詰めているし、レイノルドはすでに師範の任から外れて、ルシアスの城砦衛士長に任じられているため、ギルドの仕事に今は加わっていない。


「朝早くからみんなに集まってもらったのは、僕からみんなに伝えたいことがあるからだ――」


と、アルが切り出した。


 アルは、昨日現在までの冒険者の死亡者数、重症者数、離脱者数などの統計を紹介し、現段階においての冒険者ギルドの現状を赤裸々に隠すことなく述べた。

 

「――以上だ。この場に参列できなかった者たちに僕は非常に申し訳なく思っている。ある意味、僕が彼らの未来を奪ってしまったのかもしれないと、そう思っているからだ――」


 冒険者たちの反応はさまざまであった。

 真剣に話に耳を傾けるもの、自己責任なのだから仕方ないだろうと意に介さないもの、離脱した仲間を思い起こして涙するもの……。


「――だったら……」

と、冒険者の輪の中から声を上げるものがあった。


 ツンツンに短く刈り込んだ金色の髪の毛に冒険者用の革鎧を着こんだまだうら若い青年だった。年齢はおそらく17ぐらいだろうか。

 首から下げている冒険者証は赤茶色、つまり、銅級冒険者だ。


「――階級制度とか止めにして、実力主義、自己責任主義でいいんじゃないんですかぁ?」


 と、その青年が言った。



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