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レジェンドオブシルヴェリア――Ⅳ伝説記~そして農夫の息子は伝説となった  作者: 永礼経


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第8章 木の短剣に捧ぐ(3)

3

 聖暦168年1月中旬――。

 アルは各国ギルドからの報告書に目を通していた。

 現在各国ギルドからは2日に一回の定期妖精便を使って報告書が届けられる仕組みになっている。


(――死亡者は、なし、か……。ふぅ、取り敢えずよかった。でも、最近は魔巣の駆除案件も増えてきているだけじゃなくて、野生動物が魔巣の影響で狂暴化している案件も増え始めている。気を緩めてる暇はないな……)


 そう考えながら、書類ケースに報告書をまとめて入れておく。処理済みトレイにおいておけば、あとでカーラさんが片付けてくれるだろう。

 カーラさんというのは、ここ冒険者ギルド本部のギルド総長マスター室長を務めてくれている女性で、もとはと言えば、グアンタのルスト商会に努めていたひとだ。


 カーラ・リュート――年齢は30歳。大きな眼鏡をかけたショートボブの黒髪女性だ。性格は温厚で、後輩からの信頼も厚い。事務長のマルタ・フリアンと二人でこの本部の事務方を取り仕切ってくれている。


 まあ、最近はマルタさんは『料理長おかみさん』と言った方が合っているようなぐらいカーラが事務方を仕切ってくれている為、実質事務方の長はカーラと言っても過言ではないほどだが、もともとマルタさんはそちらの方が適性が高いようで、本人は好きな料理に没頭できている現状をむしろ歓迎しているようだ。

 マルタさんには本当にお世話になっているから、彼女が望む仕事の仕方であるならその方がいいと、アルも考えている。

 マルタさんの料理は非常に好評で、依頼から帰ってきた冒険者たちの胃袋をしっかりと満たしてくれるばかりか、冒険者の連中も、食堂のマルタさんの笑顔をみると活力や元気をもらえるらしく、まるで、みんなのお母さん的な立ち位置になっている。


(さてと……、そろそろ出るかな――)


 アルはハンガーから上着をとって羽織ると執務室の扉を開けて廊下に出た。廊下の先からはがやがやと話し声が聞こえている。

 このギルド本部庁舎は3階建ての木造建築で、執務室は2階にある。廊下から少し進むと3階までの吹き抜けがある大広間に出て、階下の1階ロビーには冒険者の依頼受注所があり、2階の廊下の踊り場からは下の様子が伺える。今日も数十名の冒険者が依頼掲示板や窓口に群がり、また、冒険者同士の情報交換などを行っていた。


「あ、ギルマス! おつかれさまです!」


 冒険者の一人がアルの姿に気付いたらしく、2階から階下へ降りる階段上のアルに向かって大きな声であいさつをした。


「お疲れ様です!」「おつかれっす!」「おつかれさま」などと、口々に皆が挨拶を投げてくる。

 アルは出来る限り自然に笑顔を作って、皆の挨拶に応えて右手を上げた。


「みんな、お疲れ様。今日も無茶はしないようにね? よろしくお願いするよ?」


 と声をかけると、冒険者たちはさまざまな反応をして応えた。


 階下に到達したころ、カーラが気付いて近づいてくると、

「お出かけですか?」

と声をかけてきた。


「ん、()()()に今日の報告をね。たぶん城砦じょうさいに居るだろうから、何かあったら使いを寄こしてください」


 そう言いおいて、本部庁舎の正面扉を開けて外に出る。

 目の前は主街区の大通りだ。庁舎の玄関前に左右に伸びる通りは、東に行けば港区、西に行けば領主城砦がある。アルは通りに降り立つと右に向いて港区とは反対方向へと歩み始めた。


 この主街区の大通りには2階建ての建物が立ち並び始めているが、その多くは、冒険者たちの下宿宿になっている。このソードウェーブの主街区ではまだ、住宅地の販売は行われていないため、個人の宅地を持つ者はまだ一人もいない。個人用宅地があるのは旧街区ソルス区の一部のみだが、そこもすでに原住民であるソルスの住人たちが押さえている為、今は売りに出ている宅地はない。

 あとは冒険者向けの物品を扱う武器鍛冶、防具鍛冶、道具屋などが数件立ち並ぶ程度だ。主街区と言っても実は交易中継地となっている港区よりは活気がない。

 港区の方はグアンタ、ダイワコク、ベイリス、レトリアリア、そしてこの国の南の交易港ニルスからの商船が絶えず入港しており、また、陸路を西のポート・アルトへ向かう為の商用貨物馬車も多く乗り入れていて、こことは比べるまでもないほどに人や荷物でごった返している。


 通りを歩き始めると、そこかしこで冒険者たちに出会う。

 さすがにもう全員の名前を把握することは出来なくなりつつある。

 それほどに多くの冒険者が参加してくれているという事でもあるが、アルとしてはそういう自分をあまり快くは思っていなかった。冒険者たちの反応も様々で、気軽に声をかけてくるものもあれば、気付かないふりをするもの、また、全く気付かないものもいる。

 

(いつごろからこうなったのだろう――)


 そんなことを想いながら、通りを歩いていると、ようやく城砦の門が見えてきた。

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