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レジェンドオブシルヴェリア――Ⅳ伝説記~そして農夫の息子は伝説となった  作者: 永礼経


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第8章 木の短剣に捧ぐ(2)

2

 3人は慌てて執務室を飛び出して、メルリアの元へと駆けた。

 レイノルドの話では、ケイティと一緒に魔法の訓練を行っていたところ、メルリアの魔法が暴発したというのだ。


 場所は城砦の中庭だったため、執務室からそれほど離れていない。数十秒後、中庭へ飛び出したルシアスとアリアーデは、血相を変えて叫んだ。


「メルリア! 大丈夫か!?」

とはルシアスの声だ。

「メルちゃん! 大丈夫なの!?」

とアリアーデも声を上げる。


「え!? なになに!? どうして父上様とお母様が飛び出してくるのよ!?」

そう応えたのは当のメルリア本人だった。


 メルリア・ユルハ・ヴィント――、昨年の年初に誕生したばかりのルシアスとアリアーデの娘である。つまり、ようやく1歳になる頃だった。

 が、どうやら竜族と人族の混血の場合、その成長速度は竜族寄りになるらしい。見た目年齢的にはすでに人族の子供の8歳程度の体躯をしていた。知能の発達も早く、人族の見た目年齢に応じた程度の知能をすでに有していると思われる。


「――もう! どうせまた、レイのおじさまが大げさに言ったんでしょ!? ちょっと失敗して手の甲を火傷やけどしただけなのに――」


「火傷だと!? おまえ、跡は残ってないのか?」

と、ルシアスがメルリアに駆け寄って手を取ろうとする。


「もう! 全然平気よ! 父上様は心配しすぎなのっ!」

と言ってメルリア嬢は両手を背中に回して隠した。


「メルちゃん、本当にだいじょうぶなの? お母様に見せてごらんなさい?」

アリアーデが一足遅れて近づいて優しく問いかけると、

「大丈夫よ、お母様、すぐに『氷結アイスブロウ』を発動して冷やしたし、ケイティ様からも治癒魔法をかけてもらったから――、ほら、跡も残ってないでしょ?」

と、全く意に介さない風に両手をひらひらと振って見せた。


 聞くところによると、メルリアは魔法の発動段階において少し加減を誤ってしまったらしい。それで思いのほか威力が上がりすぎた『火炎』を制御できなくなって手の甲を火傷したということだった。

 だがすぐに、自身で『氷結』を発動し、瞬間冷却したという。それによって火傷のダメージはほとんどなかったということだった。念のためケイティがすぐに回復術式を施したため、今はもう跡すら残っていない。


「――そうか、よかった。ケイティ、すまない、ありがとう」

と、ルシアスが自然の頭を下げて礼を言う。


「あ、いえ、とんでもありません。私がついていながら、ご心配をおかけして申し訳ございません」

と、ケイティも頭を下げる。


「メル! あなたまさかまたケイティのいう事を聞かなかったんじゃないの!? あなたのお師匠様はケイティなのよ!? しっかりということを聞いて練習なさい!」

「だって、まだうまく制御できない時があるんだもん! 失敗は成功の元って人族の人たちは言うのでしょ? だから失敗を畏れちゃダメなんだって、アルお兄ちゃんもいってたよ?」


 そういうことを言っているんじゃないわよ――と、アリアーデがたしなめている時、中庭に入って来る二つの人影があった。


「――ん? あれ? どうしたの、みんなして――、あー、メルるん、またなんかやらかしたなぁ?」

「あ、チュリねぇ! ユフィねぇも! ギルドの訓練は終わったの!?」


 入って来たのはチュリとユーフェリアの二人だった。

 二人を目にとめたメルリアはこれ幸いと言わんばかりに、二人のほうへ向かって駆けだすと、チュリの腰あたりに抱きついた。


「こら、メルるん! またおイタしたんじゃないだろうね? もしそうなら、今日の稽古はお預けにするゾ?」

「そうですよ、メルるん。お父様とお母様に心配かけるような子は、お仕置きですよ?」


「う。おイタじゃないもん、ただの失敗だもん――」

二人のキツイまなざしを受けて、さすがのメルリアもすこし肩を落とした。どうやらこの二人とメルリアの相性はずいぶんといいみたいだ。メルリアからすると、アルたちのメンバーの中でも一番年齢が近いという事もあるのかもしれない。


「魔法が思いのほか威力が上がりすぎちゃって、少し制御が崩れたのよ。それで少し火傷をね――」

と、ケイティが二人に事情を説明した。


「へぇ~、メルるん、そんなに威力の高い魔法を発動できるようになったのかぁ、すごいなぁ。でも、制御できない魔法なんて、切れない短剣と同じだよ? 言ってる意味、わかるよね?」

と、チュリが屈みこんでメルリアの視線に高さを併せてまっすぐに見つめながら言った。


「う……。はい、チュリねぇ。ごめんなさい。メルが少し調子に乗りすぎました――」

と、殊勝に応えて視線を落とす。


「分かればいいんですよ、メルるん。失敗は恐れないで挑戦すべきです、ですが、無茶はいけません。無茶は愚か者のすることですよ?」

と、チュリの隣に同じように屈みこんで優しく諭したのはユーフェリアだった。


「はい、ユフィねぇ。メルはもう無茶はしません、だから稽古をお願いします」

と、返事を返した。


「ふふふ、分かればいいんですよ。魔法の練習はもう終わり? じゃあ、今度はおねぇちゃんたちと剣術の稽古の時間ね――」


 ユーフェリアのその言葉を聞いたメルリアは、すぐに顔を上げるとぱぁっと花が咲くように笑った。

 そうしてくるりと向きを変えるとケイティの方へと向き直り、

「はい! ケイティ師匠! 今日もありがとうございました! またお願いいたします!」

と、元気よく挨拶をする。


「はい、ではまた明日ですね。お疲れ様、メルリア」

ケイティも優しく微笑んで返す。

 生まれたころから一年間見てきたが、やはり子供メルリアの笑顔程癒されるものはない。


「では、父上さま、おかあさま、メルは剣術の稽古を始めます。お二人は心配なさらずお茶でもなさっててください」

と、返したもんだから、一同はさすがに笑いをこらえきれなくなった。


 こんなようやく一歳になろうという子がこのような受け答えをするようになるとは、一年前の赤ん坊を見ている一同からすればなんとも言葉に出来ない感慨があるというものだった。

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