第6章 冒険者ギルド『木の短剣(WSS)』(5)
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結局、チュリとユーフェリアの二人に、ゲンシンを加えた3人がアーレシアへ向かうことになった。
チュリの気持ちを汲んだとしても、さすがに少女二人に何ができるかと言われてもおそらく難しいだろう。ゲンシンならいろいろな事態に対応してくれるはずだし、チュリの想いを充分考慮して的確なアドバイスを送ってくれるに違いない。
アーレシアの冒険者ギルド支部の運営を軌道に乗せることについては、チュリにもベイリスでの訓練教官の経験があることだ。基本的にはその仕事にあたってもらいつつ、ウォーラス卿の手助けをすればいいだろうということになった。
そうなると、残るはもう一つの国、レトリアリアの状況を何とかしなければならない。現在レトリアリアの状況としては、元冒険者のヘンデル・クライスこと、王国軍司令ヘイゼル・クロスが冒険者の統制も兼務してくれているはずだ。
しかし、王国軍と民間団体の冒険者ギルドがいつまでも一緒にしておいて良い訳はない。やはり、官と民はしっかりと分離しておくに越したことはないのだ。
「じゃあ、そこには僕とレイノルド、そしてジークで当たることにしよう」
と、アルが決断した。
ジークにとっては母国であり、将来自分が統治する可能性のある国でもある。冒険者ギルドの支部長としては彼の信任の厚いものを選定するほうがよいのだろうが、現状ではそのような候補は見当たらない。そういう意味においても、ジークには少しの間、レトリアリアで活動してもらうのもありだろうということになった。
まあ、さすがに身分は明かせないだろうから、冒険者ジークバルト・キュールとして、活動することになるだろう。
ある程度ダイワコクの状況が落ち着いたころ、ジン・タニガワを呼び寄せて、引き継ぎたいとアルは考えていた。
「もう少しで、体制が整う。それに、そろそろ亜人族の有志のものたちの受け入れも始まる。僕はこことレトリアリアを行き来することになると思うから、訓練の方はレイとジークの二人が主体でお願いしたい。亜人族の有志はしばらくの間はここソードウェーブの本部で受け入れようと思う」
そう言ったアルは、クアンの方に向き直った。
「クアン、君が師範代だよ」
その言葉にクアンの目が見開かれる。
「僕が――、師範代――?」
「クアン、すごいじゃない。頑張ってね――」
と、ケイティが優しく微笑んだ。
「まあ、そうなるだろうなぁ。ここの師範代はお前しかいないからな。しっかりやれよ? クアン」
と、レイノルドも背を押す。
「でも、ここに来るボクの種族の人ってみんな僕より年上かもしれないんだよ?」
と、クアンはさすがに尻込みする。
「クアン。冒険者に年齢は関係ない。結果と力が全てだ。そして君はもう、亜人族の誰よりも強い。それはここにいるみんなが知っていることさ。君は自信をもって精一杯全力で尽くせばいいんだよ。結果は自ずとついてくるさ――」
アルもそう言って、クアンの肩を叩いた。
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こうして、冒険者ギルド『木の短剣』本部の第一回全体会議は終結した。
これからしばらくの間は各地で皆がバラバラで頑張るしかない。しかしおそらくこの数か月を乗り切ることが出来れば、あとは新しく加入してくる冒険者たちの力を借りて、魔物たちの侵攻に対抗できるに違いない。
今はそれを信じて、一つ一つこなしてゆくしかないのだ。
そして、事実、ここから数か月の間の各員の働きは目覚ましいものだった。
聖歴166年9月中旬のこの会議から、この年の年末までの間、一同は各地で孤軍奮闘し、結果、年の瀬を迎える頃、ようやく一つの区切りがつくことになるのだった。
11月初旬に『木の短剣』レトリアーノ支部が発足。
初代支部長には予定通り、ジン・タニガワが就任する。
これに伴いダイワコク支部の方は、メグミ・タチカワが支部長に就任した。彼女は冒険者ギルド初の女性支部長となった。
12月初旬にはようやく最後のギルド支部長が決定する。
アレシアン支部の支部長には、ジンバハル・ゲオルストという男が就いた。
実はこの男、全く縁も所縁もないものという訳ではなかった。
彼の兄の名は、メザーレ・ゲオルストという――。そう、アルたちがケイノール渓谷で救出した、ウォーラスの腹心のメザーレだ。
ジンバハルは、兄を救出したアルたち冒険者の話を聞き、是非にとギルド入会を成し、訓練に励んだ結果、アレシアン支部の冒険者の中で一番最初に「銀級」に昇格。そしてついには支部長を任命されるに至った。
そうしてこの年が暮れ、翌年聖歴167年1月初旬、もう一つ、大きな喜び事を迎えることとなる。
アリアーデが出産したのだ――。




