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レジェンドオブシルヴェリア――Ⅳ伝説記~そして農夫の息子は伝説となった  作者: 永礼経


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第6章 冒険者ギルド『木の短剣(WSS)』(4)

4

「じゃあ、そっちはウチが行くよ――」

不意に部屋に入って来た少女二人のうちの一人が声を上げた。


「ウチ? って、チュリ? チュリなのか?」

と、アルが思わず席を立つ。

「おまえ、いつ戻ったんだよ!?」


「ん、ああ、たった今だよ。下の人に聞いたらここだって教えてくれたから上がって来た」

と、チュリがやや恥ずかし気にそう返した。


「ユーフェリアもか! よく戻ったなぁ! まさか途中で逃げ出してきたんじゃねぇだろうなぁ?」

とはレイノルドだ。


「ふん、相変わらずそういうこと言うよね、レイノルドは――」

「ちゃ、ちゃんと、修了しゅうりょうしてきましたよ、私もチュリねぇも! 頑張ったんですから!」 


 チュリからの返しには慣れているレイノルドも、ユーフェリアの剣幕には少々首をすくめた。


「わ、悪かったよぉ。ただの冷や《《か》》しだから、そんなに怒るなって……」

と言って、ユーフェリアをなだめている。


「何も冷やしてません! むしろ私は怒って熱いぐらいです!」

と、ユーフェリアは収まらない。


「ユーフェリア、あのね、『冷やし』じゃなくて、『冷や《《か》》し』、つまり、冗談ってことで――。あ、そんなことより、どうして連絡しなかったんだよ、チュリ。ん? てか、どうやって帰って来たんだ?」


「ふん、ウチだってもう子供じゃないんだ。迎えがなくても帰る手段ぐらい考えてたさ――。ウチには強い味方がいるからね。アルみたいに薄情じゃない人がね?」


 ――誰が薄情だ!


 と言いたいところをぐっと抑えて、アルが心を落ち着けて問いただす。

「誰かに世話になったんなら、ちゃんとお礼と挨拶をしないとだろう? その――俺はお前の保護者みたいなもんだからさ――」

と、アルが聞くと、

「大丈夫だよ、ちゃんとお礼はしておいたから。それにその人からも言伝を頼まれたんだ。ベイリール支部の事務長の件、数日のうちに選定して遣わせますってね――」

と、チュリが答えた。


「もしかしてそのお世話になった人って――」

「ああ、オルトマン商会の会頭、リカルドさんだけど?」


「おまえ、お礼って、何をしたんだ?」

「ん? あ、アル、気にしてるのか? そりゃあ、ウチのような可憐な乙女がイケメンの金持ちに捧げるものと言えば……」


「お、おまえ、まさか――」

「ああ、そのまさかさ、ダイワコクの温泉――」


「ば、馬鹿野郎! なんてことを! そ、そんなことまでする必要はないだろう!」

「――町ヒイの温泉饅頭――? ん? 何が馬鹿だよ!」

「は、はあ? おんせんまんじゅう??」

「そうだよ! リカルドのオジサンとはそういう約束してんだよ、『お土産』を買ってきてくれたらなんでも手伝うからって。――ん? アル、なんか変だぞ? 耳まで真っ赤じゃないかよ――」


 アルは顔が火照るのと同時に、一気に力が抜けた――。


(あー、びっくりしたぁ、ま、まあ、そういう事ならそれでよかった――のか?)


 と、内心ほっとしつつ、突然襲った全身への疲労感に耐え切れなくなって事務机の椅子に崩れるように座り込んだ。



――――――



 数分後――。


 チュリとユーフェリアの帰還の報せを受けた、ケイティとジーク、クアンもギルド本部のギルド長執務室へやって来た。そしてそれに続くようにゲンシンも戻って来た。


 久しぶりの全員集合だ。


「それで? どうしてお前がアーレシアに行くって言いだすんだ? お前まさかまたお兄さんとなにか揉めたりしてないだろうな?」

「はあ!? なにがまただよ!? そもそもウチと兄さんは揉めたりしてねーし。それにこっちに戻ってからずっと修行してたんだから、アーレシアに意行ってる暇なんてどこにもないだろ?」

と、アルとチュリがまたやり合いだす。


「まあまあ、落ち着け、アル。チュリにも何か考えがあるんだろう。まずは聞こうじゃないか」

と、間に入ったのはゲンシンだ。こういう時の仲裁役がゲンシンの役割になってからかなり久しい。


「まったくよぉ。喧嘩するほど仲がいいとは言うが、お前らほんと兄妹きょうだいみたいだよな」

と、レイノルドがこぼしたのを二人が聞き逃さずに反応する。


「「兄妹じゃない!!」」 


と、声を合わせて、反論したさまは、まさしく《《兄妹そのもの》》だった。


「アーレシアの状況がちょっと気がかりなんだよ。この間はこっちにも時間がなくてウチにもやることがあったし、アーレシアに残るとは言えなかったけど、さすがにあんなことがあったんだ、そう簡単にうまくはまとまらないと思うんだ」

と、チュリが言った。


「だからって、お前が行って何ができるって言うんだ!?」

と、アルが返す刀で言ったのに対して、大声を上げた者がいた。


「いい加減にしろ、アル! お前がチュリを心配しているのはわかる。だが、それと、チュリの話を聞かないのは別の話だ。まずはしっかり聞いてやれ!」


――ゲンシンだった。


 何とも珍しい話だ。このいつも穏やかな中年のおじさんは、皆からかなり慕われている。前にも言ったが、ルシアスがパーティを抜けたのち、この「アル一行」の精神的支柱となっているのがゲンシンだといっても過言ではない。


 さすがのアルも面食らった。


 ゲンシンに怒られるなんて考えもしなかったからだ。


「あ――。そう、そうだね。悪かったよ、ゲンシン。僕が間違ってる――」

と、さすがのアルもようやく落ち着きを取り戻したようだ。


「アル、ごめん。心配ばかりかけてるのはウチもよく分かってる。でも、アーレシアの兄さんの役に立ちたいんだ。何ができるかわからないけど、何かしてやりたいんだよ――。だから、行かせてほしい――」

と、チュリもようやく素直に気持ちを伝えた。


「――もう、仕方ないですね。大丈夫です、アルさん。私がついてますから」

と言ったのはユーフェリアだった。

「ちゃんと、チュリ姐の面倒は私が見ます。この3カ月ほどで、チュリ姐のことはしっかり把握しましたから。もし何かあったら、すぐに連絡しますよ。たしか『妖精便』って、アーレシアでも使えるんですよね?」


「ユフィ――、ありがとう――」

と、チュリはこの優しい「妹」に礼を言った。

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