第6章 冒険者ギルド『木の短剣(WSS)』(2)
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聖歴166年9月上旬――。
場所はシルヴェリア王国王都シルヴェリア。
とりあえず簡易的ではあるが、エリシア神との『交感施設』、エリシア大神殿(仮)が設営された。
初代交信神官・大神殿長として、アナスタシア・ロスコートが任命された。
エリシア大聖堂の方の管理運営はレイリア・ミルハイトがあたっている。つまり、レイリアはアナスタシアの後を受けて、大聖堂大司祭を任命されたのである。
彼女のこれまでの献身的な働きと、後輩巫女たちへの思いやりある接し方からは当然の人事と言えるだろう。
「――初めまして、アナスタシア。これからよろしくね」
これがエリシア神からアナスタシアへ初めてかけられた『神託』であったと、のちに彼女は語っている。
――まるで、初めて出会った感じがしなくて、とてもお優しい声色ですぅっと心に染み入るようなお声でした。もちろんお姿は見えなかったのですが、まるでそこにいらっしゃるかのような優しく温かな感じを受けたのを覚えています。
と、アナスタシアは近しいものに伝えたと聞く。
これより以降、アナスタシアはその役目を次代の大神殿長に譲るまで、一日3度、食事の後にエリシア神像の前で祈りをささげることを欠かさなかった。と、言えばたいそうなことのように聞こえるかもしれないが、これまでも大聖堂大司祭として聖堂大広間の神像に祈りを捧げていたのだから、場所が移っただけで、やることに対して変化はなかった。
ただ、このエリシア神さまはかなりのおしゃべり好きのようで、なにかとこの世界や地方の人々の暮らしなどについてお話をしたらしい。
この大神殿(仮)は、現在建造中の大神殿が完成するまでの間の一時的な神像設置場所として選ばれた場所であった。
が、エリシア神との交信をするという機能自体は充分に果たすことが出来ているため、特にエリシアの方としては殊更に大きい施設でなくともよいと思っていたのだが、さすがに、この世界の神との交信施設がみすぼらしいなりでいいわけがないと、ガルシア王肝煎りでの大神殿の建造が行われたという流れだった。
この施設の設置と、アナスタシアの神殿長就任、そして、妖精族の協力による定期便『妖精便』によって、その後、各地のギルド間、魔法庁間の情報共有が劇的な変化を見せた。
エリシアは、冒険者ギルドや国際魔法庁の魔感士たちが探索することが難しい場所、見落としがちな場所など、あらゆる世界各地の魔巣の様子を逐一報告してくれるようになったため、各地の冒険者ギルドと国際魔法庁の連携により、特に脅威となりえる魔巣は発見次第駆逐され、現在のところ、大きな魔巣被害は起きていない。
ただ、魔巣の発生件数は増加傾向にあり、より一層の冒険者たちの活躍が望まれる状況に変わりはなかった。
――――――
そこから数日後、場所は移って、ソードウェーブの冒険者ギルド仮宿舎のロビー。
「情報共有速度の向上と、エリシアさんとの連携で、魔巣駆除への対応が早くできるようになったことで、現状は驚異的な魔巣の殲滅に僕たちが回れているという状況になって、一応間に合っているとは言えるんだけど――」
と、アルが前置きをしつつ、言葉を繋ぐ。
「――魔巣の発見件数自体は日々増加傾向にあることはみんなもよく理解しているところだと思う。そこで、この段階で、冒険者たちをさらに登用するためにも、しっかりとした管理体制を整える必要があると思うんだ」
アルが意を決して宣言する。
「いよいよここ、ソードウェーブに冒険者ギルド本部を設置して、これから先の見習い冒険者の獲得、冒険者登用の広告塔にしようと思う」
「で? 冒険者ギルドの名称は決まったのか?」
とはゲンシンだ。
「広告塔にするにはわかりやすい名称が必須だ。名称があるのとないのとでは伝達速度が劇的に違うからな――」
と、つづけた。
「それなんだけど――、『木の短剣』――ウッデンショートソードにしようと思う」
と、恥ずかしそうにアルが言った。
「――あ、それってもしかしてアルが最初にお父様からもらったという……」
と、ケイティが反応した。
「うん。僕の冒険者の原点、ルシアスと稽古をした最初の武器だ――。そして、各支部の冒険者見習いたちが最初に持つ武器でもある」
冒険者の中には自前で武器を準備することが出来ないものも多い。そんな彼らに、ギルドが最初の一振りとして、また、練習用の武器として彼らに与えているのが、アルが初めての冒険の際に父ダジムから授かったものを原型とした『木の短剣』だった。
実際、ダジムの手によるその『木の短剣』は、汎用性が高く、重さ、強度、殺傷力などどれをとっても市販されている金属製の武具と遜色ない性能を有していた。それを原型とした「複製品」を、各支部にある都市の鍛冶屋や木工品店に依頼して作らせている。
「なるほど、「WSS」か。まあ、いいんじゃねーか。冒険者ギルドの名称としては常に初心を忘れるなという教訓にもなるしな?」
と、請け合ったのはレイノルドだった。
「うん。僕もそれを考えていたんだ。冒険者をやっていると自分の実力を過大評価したりして時に自分を見失うことが起きやすい。そんな時でもこの名称が一つの契機になって、無謀を犯さない勇気を思い出してくれればいいかなって――」
アルが気恥ずかし気に言った。
「いいんじゃないかしら?」
「うん、僕もいいと思う!」
「マスターの想いが溢れる名称で、温かみがありますね」
と、ケイティ、クアン、ジークの3人も賛成の意を示した。
「じゃあ、それで決まりだ。早速、俺の仲間に触れ回させるとする。世界各地からこのソードウェーブに続々と冒険者希望のやつが集まってくるかもだぜ?」
と、ゲンシンが皆を沸き立たせた。
こうしてようやく、冒険者ギルド『木の短剣』本部がソードウェーブにて発足することになった。




