第5章 『大蛇』ヤマタ(6)
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「いえ、待ってください! あれって、私たちの影じゃ――」
「ん? あ、ああ! 本当だ! ってことは――」
二人は今一度正面を向く。
そこには確かに何かがゆらゆらしている影がある。
「あれが、ヤマタ?? ってこと、ですよね――」
「う、うん。行ってみよう!」
二人は揃って前へ駆け出した。滝をくぐってからさらに十数メルほど進んだところに、一つの鉢が置いてある。鉢には何やら植物が植えてあり、それがゆらゆらと揺らめいていた。
ヴォォォオオオオオオオオオオオ――ン!
という咆哮がまた響いたが、これもどうやら「声」ではなく、風が吹き抜ける音だということに気付く。
「なんだ、これ? これが、ヤマタの正体?」
と、言いながらチュリがその鉢植えを指す。
「なんでしょうか? この洞窟はどうやらここまでのようです」
と、ユフィがその先を見て言った。
確かに洞窟はそこで終わっており、その先には完全な空が広がっている。
どうやら山の中腹に出たらしく、出口から先右方向に、山肌を伝うように細い山道が続いている。その先はどうやらヒイの街に続いているようだ。
そしてその道の中ほどに、さっきの「味噌餅のおやじ」が立っていた。そばにはもう一人、さっきの盗人もいる。
「あ、あいつら! あんなとこに!」
「でも、なんか変ですよ? 逃げるそぶりは見せませんし――」
「逃げないなら、帰って好都合だ! とっちめてやる!」
「あ、チュリ姐――」
勢いよく駆けだすチュリをあわててユフィも追う。
やがてチュリとユフィは、その二人の目の前まで到達した。二人の男は全く動じず、ただチュリとユフィが到着するのを待っていた。
「あ、ウチらの荷物――。返してもらうよ!」
チュリが男たちの足元に置いてある荷物に気付いて、怒声を浴びせる。
「どうやら、試験には合格のようだな――。ほれ、荷物は返すぞ」
そう言うと、味噌餅おやじが足元の荷物を二つ、チュリとユフィに向かって放り投げた。
「お!?」
「きゃ!?」
二人は突然投げ渡された荷物を慌てて受け取る。ここは山肌に沿った細い道だ、足を踏み外したら崖下に真っ逆さまだ。
「あ、あぶないだろ!? 落ちたらどうするんだよ!」
チュリが荷物を受けながら言い返す。
「ははは、間違っても落ちるようなことはないだろう? お前たちは、訓練場の卒業生なのだから――」
と、味噌餅おやじが言い放つ。
「――! どうしてそれを!? あ、いや、お前たち――」
チュリが何ごとかを言おうとした時だった。盗人のほうが声を上げた。
「チュリ、ユーフェリア、ひさしぶりだなぁ。二人ともよく訓練されている。見違えたぜ?」
「――? ん? この声――、ゲンシン!? ゲンシンなの!?」
チュリがその声に気付いて声を上げる。
盗人は頭に巻いていた黒い頬被りをするすると解きほどくと、顔を上げた。
「よお。お前ら二人とも結構足が速いんで、久しぶりに全速で走ったぜ――。元気そうで何よりだ」
それはまさしく、ゲンシンだった。
「さあて、最終問題だ。この状況、どういう事か説明してみろ?」
ゲンシンが二人に対してそう問いかけた。
「この状況? つまり、ヤマタが何もので、どうしてゲンシンがここにいるかってこと、だよね……」
チュリはゲンシンの質問の意図を今一度精査した。
「何がどうなっているのか――、ってことですよね?」
と、ユフィも同じく考え込む。
「ヤマタは作り物だった――。ゲンシンがここにいる――。味噌餅のおやじと盗人はグルで、ウチらのことを知っている――」
チュリがぶつぶつと言いながら思案する。
「噂を聞いたのは訓練生たちから――。街の人たちに聞いても誰もヤマタのことは知らなかった――。あれ? だれも知らないって、そんなことあるのかな? 間違っていたとしても、なにか適当な情報ぐらい出てきてもおかしくはない――、だって、《《ヤマタ》》ってよく考えたら、この地方の人の名前にもあるぐらいの言葉ですよ?」
と、ユフィがきっかけをつかむ。
「――つまり、知らないんじゃなくて、知らないと《《言っていた》》――ってこと?」
チュリがユフィに問い返す。
「そうだとしたら、すべて辻褄があっちゃいます――」
と、ユフィが答える。
「ん? んん? いや、待てよ。そうなると、これって、もしかして――」
「ええ、間違いないと思います。ヒイの街に来てから今日まで2日ほど何も進展がなかったのは、ゲンシンさんが到着するまでの時間稼ぎだったとしたら――」
「あ! ああ~~~! マジかよ、そんなことって――」
「でも、そう考えれば今までのことすべてに説明がついちゃいますよ――」
二人は恐る恐る、味噌餅おやじとゲンシンの方を振り返った。
「どうやら、答えは出たようだな――。さあ、答えてみろ」
「「全部、初めから、仕掛けられていた――ってこと、だよね?」」
ゲンシンと味噌餅おやじは顔を見合わせると、しばらく肩を震わせていたが、ついには堪えられなくなって、大爆笑した――。
タネを明かせばなんてことはない。
すべて「作り話」だったのだ。
「ヤマタ」の噂をそれとなく流し、修練場を卒業したら、それに立ち向かうように二人の気持ちを仕向け、卒業する少し前にゲンシンに連絡を入れておき、二人がヒイに到着した後は足止めをするために街中全員で「知らない」と口裏を合わせた。
そうして、ゲンシンが到着したタイミングで「山田味噌餅」を出現させ、二人がそこに着くように誘導し――。
あとは、話しの通りというわけだった。




