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レジェンドオブシルヴェリア――Ⅳ伝説記~そして農夫の息子は伝説となった  作者: 永礼経


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第5章 『大蛇』ヤマタ(3)

3

 翌日――。

 チュリとユフィは高級旅館に後ろ髪を引かれる思いを断ち切って、宿をチェックアウトした。


 ヒイも今日で3日目だ。そろそろ手掛かりらしきものを見つけないと、さすがに先へ進まない。


 二人はもう一度酒場あたりを聞きこんでみた。昨日とは違う人がいるかもしれない。

 しかし、全くと言っていいほど。箸にも棒にもかからない。


「こりゃぁ、さすがになんかおかしいよねぇ~」

「ですね。ここじゃないとしたら、他にどこが考えられるんでしょう?」

「こっから北にはもう山しかないからね~」


「嬢ちゃんたち、何かお困りごとかい?」

問いかけてきたのは露天商のおじさんだ。


 二人は途方に暮れて、露店の一つの軒をくぐっていた。

 今も、困ったなぁと言いながら、「みそダレ餅」を頬張っている。「みそ」とはこの地方独特の調味料で、甘塩あまじょっぱい味がなかなかに癖になる。それを餅にたっぷりと付け、焼いているものだ。


「ん? まあね~。一応聞くけど、おじさん、「ヤマタ」って知ってる? 知らないよね?」

「ヤマタ? ああ、知ってるよ」

「だよね。誰に聞いても――、ん? え? いま、知ってるって言った?」

チュリは予想外の返答に一瞬聞き逃しそうになったが、かろうじて食らいついた。


「ヤマタだろ? ほれ、うちの看板見てみなよ?」


 言われて、二人は軒から出て、店の垂れ幕を見上げる。


「山田味噌餅」


 ん? たしかこれってダイワコクの古い文字で、うしろの三文字は「みそ」、「もち」だ。もちろん、二人はこの文字を見てここに飛び込んだわけだが、前の二文字は「やま」と「た」だ。


「チュリ姐、これって――」

「やま、た――?」 


「「ヤマタ!」」

二人は顔を見合わせて叫び声をあげた。


 その瞬間だった――。

 二人の脇をザッと駆け抜けるものがあった。


 あっ、という瞬間に、その影は通りを北の方へと駆け去ってゆく。


「チュリ《《ねえ》》! 荷物が!」

「あっ! あいつ! 盗りやがった!」


「追いかけるよ、ユフィ! ――おじさん、お代は――? あれ? いない?」

「もしかして、仲間!?」


「な!? くそう! 嵌められた!」

「どうしましょう――」


「とにかく追おう!」


 幸い通りは結構長く見通しがいい場所だったため、まだ、盗人の背中が見えている。二人は即座に駆け出して、盗人のあとを全力で追った。


 盗人は幸いそれほど足は速くなさそうだ。二人の脚力はこの二カ月の修業で相当上がっている。徐々に背中が大きくなる。このままいけば追いつける、とそう思った矢先のことだ。そいつはふっとわきの路地へと身を投じた。


 あっ、と声を上げてさらに速度を上げると、二人もその路地へと飛び込んだ。


「どこいった!?」

「あ! あそこです!」


 さすがにユフィだ。魔素感知を一杯に張った彼女の「レーダー」から逃げおおせることは出来ない。

 盗人は二人の荷物を背負いながら、数十メートル先の壁をよじ登っている最中だった。


「にがすかぁ!」

チュリが叫んで、駆け出す。その壁まであと数メートルのところまで近づく。

 ユフィもすぐ後を追って駆け出している。



 その時だった――。


 地面が消えた。


「え!?」

「きゃっ!?」


 二人はいきなり足元の地面の感覚がなくなって、慌てたが時すでに遅し――。


「わ、わわわっ――!?」

「あ、な、何!? なに? なんなの~!?」


 落ちた。


 とは言っても滑り台の様な感覚で地下へと続く暗い通路をするすると滑ってるようだ。

 通路の材質まではわからないが、とてもよく磨かれた石か何かかもしれない。


 二人とも、手を振って、掴めるものがないかと必死に耐えるが、体はどんどん滑り落ちて徐々に加速してゆく。ついには、かなりのスピードになり、二人は落ちるがままに任せるしかなくなった。


「ゆ、ユフィ! だ、だいじょうぶぅ~?」

「あ、ちゅ、チュリねぇ~、とまりませ~ん」


「「ぬああああ~」」


 と、ようやく穴の先に光が見えた。出口か?


「で、出口かも? 体勢を整えて受け身の準備をしよう!」

「はい!」


 そうしてついにはその光の穴が大きくなり、二人はその中へ投げ出された。


「た、高くない!? 下、水だぁ!」

「わ、た、高いですね!」


 どっぼ―――ん!


 二人はその水の中にまともに飛び込んだ。

 幸い、地底湖はかなりの深さがあったらしく、結構高いところから落ちたがダメージはない。


「ぶっ! ぶはぁ!」

「は、はあ!」


 二人はようやく水面に上がり岸になんとか辿り着く。


「なに、ここ?」

「洞窟? ですかね?」


 見上げると先程落ちてきた穴が天井にぽっかりと口を開けている。

 後は周囲は石壁でぐるりと囲まれ、どうやらドーム状になった洞窟の一部屋だと思われた。


 その壁面から天井には、ぼんやりと明るい光を放つものがあった。

 通路から見えた「光」はこれのせいだったのだろう。


「ヒカリゴケ――、か」

チュリが呟いた。

「でも、こんなたくさんのは初めて見ました。綺麗ですね――」

とユフィも答える。



「ここのは特別だからなぁ――。ようこそお嬢さんたち、私をお探しだろう?」


 洞窟の部屋の片隅からいきなり男の声がした。


「――! だ、誰だ!」


 チュリは咄嗟とっさにユフィの前に体を入れて、ユフィをかばう位置を取った。


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