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レジェンドオブシルヴェリア――Ⅳ伝説記~そして農夫の息子は伝説となった  作者: 永礼経


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第3章 二人の女(くのいち)(2)

2

 ヤマトから北へ1日の距離に、ヒイという町がある。山あいの道を北へ登ってゆくと初めに到達するのがこの町だ。


 ヤマトからの街道は東西南北へ伸びている。


 西へ向かうとベイリス王国との交易港があるダイシンへ、南へ向かうとレトリアリア王国との交易港があるタンダへ、東へ向かうとこの大陸の東の海岸へそれぞれつづいている。

 そして、北への街道は、このヒイを通過し、剣ヶ峰の脇を抜けてそのうち西の海岸線へと至り、その海岸線をさらに北上すると、ベイリス王国との陸の国境、関門街フワセキへと至る。


 チュリたちのこの旅の最終目的地はシルヴェリア王国の北の港町ソードウェーブだ。とはいえ、ベイリールまで行けば、オルトマン商会があるし、冒険者ギルドベイリス支部もある。つまりそこから先は、船が使えるという事だ。冒険者ギルドに寄って、あの二人――ゲールとヒューゴ――にも会いたいところだが、そうすると二人が卒業してソードウェーブに向かっていることが知れ渡ってしまう可能性が高いため、それは避けたい。なので、オルトマンに会って頼めば内密にソードウェーブまで運んでくれる船を用立ててくれるに違いない、とチュリは考えている。


「あ! 見えてきましたよ? あれがヒイですね」

と、少し上ずった声を上げたのはユフィこと、ユーフェリア・リュデイルイーだ。


 精霊族のこの少女――といっても見た目はチュリよりやや幼いが実年齢は400歳を大きく超えているのだが――は、亡き養父ルシュリオン・リュデイルイーの命を受けて、アルたちの冒険者パーティに加わることになったのだが、戦闘術については全くの素人同然だ。そこで、チュリが修行しているところでともに修練させようと、アルによってダイワコクへと連れてこられたという経緯がある。

 

 精霊族といえばもともとは魔法能力の基礎値が非常に高い種族でもある。しかしながら、進化する「カラクリ」の技術の陰に追いやられて、その魔法を使えるものは極僅かとなっていた。その一人が妖精族の長、ルシュリオン・リュデイルイーだった。

 そしてこのユフィは彼の養女である。

 当然のことながら、ルシュリオンから魔法の訓戒くんかいは受けている。

 つまり、彼女は「魔法士」でもあるのだ。


 彼女が約2カ月という短期間で、剣術修行をクリアできた要因の一つに、彼女の「魔法」の力があることは言うに及ばない。

 

「ふぅ。それにしてもこの山、険しすぎないか? こんなとこ抜けないと北の関門に辿り着けないのかよぉ」

とチュリが額の汗をぬぐいながら愚痴をこぼした。


 街道の後方は遥か山のふもとまでずっとそこそこ急な勾配の坂になっている。周りの風景は、かなりの大きさの岩が乱立している景色へといつしか変わっていた。


 その岩肌の間から先に、町らしき集落が見え始めたのだ。


「チュリねぇ。本当は北の関門に行く場合は、ヤマトから一度西へ行って、ダイシンの手前の分かれ道を北上するルートをとるんですよ? 知らなかったんですか?」

「いや、それはもちろん知ってるよ? でも、ほら――」

「『北へ向かえ』ですね」

「そう、それ。北といえば、やっぱりヒイになるじゃん?」

「ですね。私もそれで合っていると思っていますよ。だから、もう少しです。ヒイまで行けば何かまた手掛かりが見つかりますよ」


 どうして年上のユフィが「チュリねぇ」と呼ぶのかについてだが、こういうものは大抵成り行きと言うものだ。この二人にもそういった「成り行き」というものがあったのだろう。


「あと、数十分ってところかな。まあ、()()たれてても進むしかないんだけどねぇ」

  

 と言って顔を街道の先へ向けたその時だった。


「――! ユフィ! 何か来る!」

「ええ! 上!? 空!?」


 チュリには魔法の能力はない。だからチュリが感じるのは「気配」と言うものだ。そのチュリと、魔素を感知できるユフィの二人が合わされば、それは非常に高い索敵能力となる。

 いわば現代で言うところの「高性能レーダー」だ。


 二人は弾かれるように頭上を見上げた。


 頭上に旋回する「それ」は、今にも二人に急降下を掛けてきそうな雰囲気を漂わせている。


「鳥?」

「鳥にしては大きすぎないか!?」


 ユフィの疑問詞にチュリが即応する。


「でも、魔素量から見て、魔物の類ではないように思えます」

とユフィが返す。


 ユフィ自身、この2カ月の間にいくらかの実戦には参加している。ギルドの依頼にチュリと共に参加したりしたことがあるからだ。魔物にも何度か遭遇しているため、魔物かどうかの判断は付く。


「――! 来るよ! 防御態勢で迎えよう! まずはどんなやつか見極めよう!」

「はい!」


 チュリの的確な指示に、素早く反応したユフィが持ち前の魔法を発動する。


 本来魔法というのは「詠唱」という儀式を踏んで、魔素を現象へと変換する術だが、精霊族の魔法、いや、()()()()()()()魔法はそれをすでに超越している。


 そしてまた、ユフィもそれをしっかりと受け継いでいるのだ。


 全くの「無詠唱」で発動した魔法の効果によって、瞬時に、ふわりと二人の体に光の膜が覆うように被せられると、それはすぅっと体に染み入るように消えてゆく。


「耐性上昇の魔法を付与しました。これで少しは耐久力が上がります」

「サンキュー、ユフィ。じゃあ、いっちょ、やりますかぁ!」


 チュリがそう高らかに宣言すると、二人は頭上から襲い来る「それ」に対して身構えた。



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