第3章 二人の女(くのいち)(1)
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聖暦166年9月初旬――。
アルたちがちょうどアーレシアからシルヴェリアへ戻ったころ、ここ、ダイワコク政権領のヤマトには二人のクノイチが誕生していた。
「クノイチ」というのは、この地方の方言で、「サムライ」が基本的にニホントウを操る戦士、「シノビ」がクナイという特殊な短剣を操るレンジャー系の戦士をさすらしいが、その「シノビ」の中でも女性のことを「クノイチ」と呼称するということだった。
そして今まさに新しい「クノイチ」が誕生したのだ。
「チュリ、ユフィ、二人ともここまでよく頑張った。この2カ月ほどの修練で、基本的な戦闘術は身に付けられたはずだ。しかしあくまでも、基本的な部分のみだ。この先はここで修練するより、より実戦的な経験が必要だろう。――つまり、卒業だ」
ダイワコクの武術修練場の教官(=ダイワコクでは彼らのことを師範というらしい)が、二人にそう言った。
「え? 卒業、ですか?」
「おわり、ってことですか?」
二人がきょとんとした表情で二人の前に立つ3人の師範を見つめる。
「ああ、終わりだ。あとは彼らのところへ戻って、実戦で腕を磨いた方がいい。もしそれでも足りないと感じた時には、また戻ってくるがよい。ここからしばらくは自分の形というものを作る方がよいと、師範会議で決まった。だから、卒業だ」
「二人とも、わしらが驚くほどの習熟を見せた。よくぞこの短期間でここまで来たものじゃ。久しぶりに筋のいい弟子に出会えて、わしらも随分と力が入ったわぃ」
「チュリは自分の形を一度壊してからになるためもっと時間がかかると思っておったが、思ったより素直で呑み込みが早かった。お前の素直さ謙虚さはこれからも財産になるだろう。ユフィはたゆまぬ努力を惜しまなかった。この短期間ですでに実戦経験のあるチュリと比べても遜色ないほどにまで成長したのは、間違いなくお前の実直さゆえだ。その努力をこれからも続けて行くのだぞ」
3人の師範がそれぞれに二人へ言葉をかけた。
二人は顔を見合わせ、ようやく自分たちが「免許皆伝」を与えられたことをじわりと実感し始めた。
「師範がた! これまでのご指導、ありがとうございました! 今後も精進を怠らぬよう努めてまいります!」
「本当にありがとうございました! これでようやく父の指し示した道を歩み始めることが出来ます。ここでの日々を忘れることなく、今後も修練を重ねること、お誓い申し上げます」
そう言った後、二人は向き合って互いに抱き合って喜んだ。
さあ、帰ろう、みんなのところへ。
――と、思ったのだが、その前に一つ、やりたいことが残っている。
どうせ、帰りたいと言ったところで、アルたちが迎えに来てくれなければ、すぐに戻ることはできないのだ。だったら、この際、こちらから旅をして、いきなり押しかけてびっくりさせてやろうと、そう思ったのだ。
そこで二人は、師範たちに、ゲンシンへの修行終了の報告を待ってほしいと願い出た。未だ修行中としておいてもらいたいからだ。
それで、どうするのだと問われた二人はこう答えたという。
『ヤマタを倒す』
「ほう、それをやるか? まあいいだろう。二人掛かりなら今のお前たちでもなんとかなるだろう」
「たしかに、いい卒業試験ともいえるか」
「歴代の先輩たちが臨むものでもあるしの。お前たちもここの修練生には違いないのじゃからな」
という訳で、『ヤマタ討伐』後、自身の足でシルヴェリアのソードウェーブへ戻るという二人旅が始まる。
ダイワコクのヤマトを二人が発ったのは、その日から二日後のことだった。
「――とは言ったものの、その「ヤマタ」ってどんなやつなのさ?」
「そんなこと、私も知りませんよ。チュリ姐が聞いてきたんじゃないんですか?」
二人はとにかくヤマトを発つと北へと向かった。陸路を行くならいずれにしても北へ向かうしかない。
ちょうど、「ヤマタ」の住処もヤマトから見てきたの方角であることは判明している。
「チュリ姐がどこぞで聞いてきたんでしょ? それならウチらもやるしかないよね! って息巻いてたじゃないですか」
「だってさぁ、武術修練場の先輩たちは卒業試験後に必ずそれをやるってきいたんだもん、そんなのウチらもやらないわけにはいかないじゃん?」
「だったらもっとよく聞いておけばよかったじゃないですか? どんなやつで、どこにいるのかとか」
「いや、聞いたんだよ。でも、修練場のみんなは答えてくれなかった、っていうか、知らないって言うんだよね。先輩方の話もみんな口をそろえて、自分で確かめるんだな、としか言わないんだもの」
「だったら、仕方ないんじゃないですか? でも、どこにいるのかのヒントぐらいはあるんでしょ?」
「北へ向かえ――。これだけだよ」
「なんなんですか、それ。それしか手掛かりがないんですか?」
「はい――」
「まああまり期待してはいませんでしたけど。チュリ姐のそういうところ、この2カ月で思い知りましたから」
「ごめんね、ユフィ――」
「え? 謝るって、なんからしくないですねぇ。そんなに不安なんですか!?」
「ははは、ちょっと途方に暮れてる――」
こんな感じの門出となった。
さてこの二人の旅路、無事シルヴェリアに辿り着けるのだろうか――。




