再びの波乱3
傭兵に入念な服装チェックをされ、大きな門をくぐり、数百メートルの規模で地面を埋め尽くす花畑を抜けて、城の扉の前まで歩く。
通る度にする花の香りに癒されつつも、今日の話題への思案を膨らませるが、いまいちまとまってピンと来るものはなかった。
いつも通り、ゆっくりと重さを噛み締めて開いていく扉からはとてつもないオーラを感じる。
中に入るといつも案内してくれるメイドさんが俺たちを待っていた。
「ようこそ、おいで頂きました。『GKW』所属の矜持=ラナンキュラス様、琥珀=ラナンキュラス様」
「お、こんにちわ」
「こんにちは!」
白と黒のメイド服のスカートを両手で掴み、少し上にあげて、足を交差しながら言うメイドさんに少々見とれつつ挨拶を交わした。
「はい、こんにちは。今から案内していただきますね。私について来てください」
そのメイドさんのペースでゆっくりと階段を上がり、複雑な道を抜けると見覚えのある扉の前に止まった。
その扉は神竜討伐の時に俺が招待された大広間の扉だ。大きなブライダルベールの花が刻まれていて、今日も何かがあるその扉の向こう側からは多様なオーラが大きな大広間を小さいと思わすほどに圧迫しているように感じさせる。
メイドさんの魔術により静かにゆっくりと開いていく隙間からは奥の様子がちらほらと見えてくる。ただ、俺には。いや、琥珀も感じていただろう異様な雰囲気が漂っていた。その正体は俺たちには知る由もなかったがひとつだけ、やばいことが起きているのだけは分かった。
「お、矜恃。やっと来たか」
「ん? あ、ほんとだ」
達也の兄貴が俺の到着を呟くと周りがざわざわと、人の影響力ってすごいなぁと感心しながら中へゆっくり入っていく。そこには十数人の『GKW』所属のSランク級の戦士たちが集まっていた。皆顔色を変えて、誰一人と笑ってはいなかった。
すると、突然。
「「「こんにちは! 英雄様!!」」」
俺の見知らぬ戦士たちが口を揃えて叫び出した。戦士たちの突然の挨拶に俺は驚きを隠せずにおどおどしていると、琥珀が隣から「何やったの? またバカなことしたの?」というキツイ目線を向けられて、実質この大広間に集まる全ての戦士たちの注目を一身に受けた。もうメドゥーサの目でも見てるかのように体が動かない。
「え、え、ちょ、何ですか、みなさんっ!!」
「「「申し訳ございません、英雄様!!!」」」
あ、もーこれは。
誰だよこんなめんどくさい事したやつは、あとで英雄様パンチ食らわすぞコラァ。と心中で敵キャラ全開の台詞を連呼する俺に。
「おー、これはこれは」
と、見るからに元凶感丸出しのイキシア団長様が声をかけた。
「お前か、俺にこんな仕打ちをした元凶はァ!!」
「まあまあ、そうカッカするなって。嬉しいだろう??」
もう控えめに言ってバカにしているイキシア団長様は偉そうにスーツを煌めかせ、キリッとした表情をしている。
「それに、今日は。ふざけた話じゃないんでしょ? 国王様?」
そこで俺から目線を外したイキシア団長様は、紫電の稲妻の如き速さで奥の玉座で同等座る我らが国王に話題転換をした。
「ああ、少し静まってほしい物だよ。皆さん?」
少しキレ気味の我が国のリーダー格お爺さんは、その眼差しを俺たち戦士に向ける。その目線の殺意のようなものを直に感じた戦士たちはザワザワと「ヤバイヤバイやばい」「死ぬ死ぬ死ぬ」なんてことを連呼し始めていた。
「まあまあ」
「そうですよ、国王。たった十数人だけを呼ぶなんてことあったら、みんな階級進級とかなんやらなんて思うでしょ?」
「いやまー、確かにそれもあるなあ。一応この呼びかけにも私の意図があるのだよ」
国王様は頭を抱えながらそう言った。
ホープ国北の大地。
変種族が統治する『オッド』。
真っ黒なオーラを纏う漆黒のスライムの隣には、夜空にその白い体を輝かせた細々しくも何か歪な雰囲気のある骨の塊が立っていた。
「なあ、帝王。やっとこの日が来たのだな」
「ああ。やっと来た。この日が」
海よりも深く低い声は月が照らす夜の湖に響いていく。
「復讐を果たし、我らが上位に立つぞ」
「はい、そのために。内側から瓦解させましょう」
二人、いやこの国『オッド』の復讐はこの時、21:00から始まった。
昨日はすみません。
なのでいつもよりは多く書きました。裏と裏が交差しまくるような設定にしようと思っています!




