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赤毛の錬金術師は研究以外に興味がない〜魔力ゼロで追放された元筆頭錬金術師、オワコン学科から始める100年越しの復讐と学園無双〜   作者: あかぱん
黒い滓の盃

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重力の檻

大気が軋むような重圧が、階段前の広場を満たしていく。

バルドは大剣を水平に構え、低く重い息を吐き出した。


「重力よ、我が刃に宿りて地をグラウィタス・オン・グラディウス圧せ」


大剣の刀身に刻まれた古代文字が赤黒く発光し、周囲の小石が重力場に引き寄せられて浮遊し始める。


「来ます、シズクさん……っ!」


「応ッ!」


二人は左右へ同時に散開した。

直後、バルドの大剣が大地へと振り下ろされる。


――ズズズズゥゥゥンッ!!


斬撃の直撃地点から、指向性を持った重力波が放射状に炸裂した。

地面の敷石がすり鉢状に陥没し、横へ跳んだシズクとフィリアの身体に、何倍もの鉛を背負わされたような超重力がのしかかる。


「ぐっ……身体が……!?」

着地したシズクの足が深く敷石にめり込む。


「うぅっ……重い……っ」

フィリアも膝をつきそうになりながら、必死に歯を食いしばって耐え忍ぶ。


「小賢しく跳ね回るネズミを叩き潰すには、これが一番手堅い」


バルドは重力の影響を一切受けることなく、まるで平地を歩くように加速した。

黒銀の巨躯が、間合いを一瞬で詰めてシズクへと肉薄する。

大剣の切先が、頭上からシズクの頭蓋めがけて振り下ろされた。


「シズクさんッ!」


「舐めるなァッ! 紫電一刀流・波打(なみうち)――ッ!」


シズクは重力に抗い、刀の鎬を斜めに傾けて大剣の腹へと滑らせた。

真っ向から受けず、刃の角度と身体の回転で威力を地面へと逃がす受け流し。

――ガガガガッ!

火花が激しく散り、大剣の切先がシズクの肩をわずかに掠めて地面を爆砕する。


「受け流したか。だが――」


バルドは即座に大剣の柄から左手を離し、重装甲のガントレットをシズクの鳩尾へ叩き込もうとした。

重力加速の乗った必倒の拳打。

体勢を崩したシズクには、躱す術がない。


「シズクさんを……打たせませんっ!!」


悲鳴のような叫びと共に割り込んだのはフィリアだった。

恐怖に涙を浮かべ、全身を震わせながらも、エルカにもらった魔導グローブの両手でバルドの太い左腕へ必死にしがみつく。


――ドゴォォォッ!!


重力拳の余波がフィリアの華奢な体を打ち据え、エプロンドレスの袖が引き裂かれる。

口元から血が滲み、骨が軋む激痛が走る。

しかし――決してその腕を離さなかった。


「エルカ様に……助けてもらった命です……! エルカ様の大切な場所を……絶対に通しませんっ……!」


「小娘が……邪魔だ!」


バルドが腕を振り払おうとするが、祖先の血を引くフィリアの類まれな膂力とエルカの手甲、そして主への恩義が生み出す執念が、鋼鉄の巨漢の左腕を一瞬だけ完全に封じ込めた。


(フィリア殿が……命懸けで隙を作ってくれた……!)


シズクの研ぎ澄まされた動体視力が、バルドの装甲を捉える。

力任せにフィリアを振りほどこうと魔力を左腕へ集中させた瞬間、胸元の重力障壁にわずかな「波長の乱れ」が生じていた。


――『星銀鋼は、特定の魔力振動を与えると硬度と振動数を爆発的に跳ね上げます。相手の装甲の波長に同期させれば、どんな頑強な結界だろうと“共振”で内側から粉砕できますよ』


(今だ……! フィリア殿の覚悟、無駄にはせん!)


シズクは刀身に全魔力を注ぎ込み、刃を高速で微振動させた。

星銀鋼の刀身から、高周波の澄んだ金属音が鳴り響く。


「紫電一刀流・鳴弦(めいげん)――ッ!!」


シズクの切先が、バルドの胸当て――乱れた重力障壁の結節点めがけて一直線に突き出された。

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