気怠げな天才の華麗なる変身
迎えた、クラリス王女の学園視察初日。
本館の大広間では、お忍びとはいえ各界の重鎮や選抜された生徒たちが集う歓迎レセプションが催されていた。
シャンデリアの煌びやかな光が降り注ぐ会場の片隅。
護衛待機列に並ぶフィリア、セリア、シズク、そしてクロエの四人は、控え室の扉を固唾を呑んで見つめていた。
「……あたくしたちの総力を挙げたコーディネートですもの。完璧なはずですわ」
「はい……! エルカ様の素質の良さを、余すところなく引き出せているはずです!」
「うむ……あのエルカ殿がドレスを着るなど想像もつかんが、楽しみだな」
「わ、私までなんだか緊張してきました……!」
ギギィ……と控え室の扉が開き、一人の少女が気怠げに姿を現した。
「…………」
その瞬間、四人の息が完全に止まった。
姿を現したのは、いつもの薄汚れた白衣でも、寝癖だらけのボサボサ頭でもない。
深みのあるワインレッドのイブニングドレスに身を包んだ、息を呑むような美少女だった。
艶やかに梳き上げられた赤銅色の髪はハーフアップにまとめられ、白磁のように透き通る柔らかな肌を際立たせている。
瓶底メガネを外したことで露わになった切れ長の瞳は、まるで磨き抜かれたルビーのように妖艶な光を宿していた。
小柄な体躯でありながら、コルセットで細く絞られたウエストと、その反動でドレスの胸元を豊かに押し上げる形の良い双眸――普段のだぼだぼな白衣の下に隠されていた、抜群のプロポーションが露骨に強調されている。
「……な、なんですの、その反則的な仕上がりは……っ!」
セリアが顔を真っ赤にして絶句し、シズクは黒曜石の瞳を丸くして喉を鳴らした。
クロエに至っては「ふへぇ……お人形さんみたいです……!」と頬を染めて見惚れ、フィリアは両手を胸の前で握りしめ、感涙の表情を浮かべている。
「……おい、全員揃って何を間抜け面で静止しているのですか」
絶世の美少女の口から放たれたのは、いつも通りの不機嫌極まりない冷淡なハスキーボイスだった。
私は胸元を鬱陶しそうに引っ張りながら、だるそうに眉をひそめる。
「コルセットの締め付けによる肋骨への圧迫が強すぎます。肺活量が平常時の八十五パーセントまで低下していますよ。あと、メガネがないと焦点距離の補正ができません」
「だ、ダメですわエルカ特待生! その気怠げな喋り方をしなければ、どこからどう見ても傾国の貴族令嬢に見えますのに……!」
セリアが慌てて駆け寄り、私の肩を揺さぶる。
「エルカ様……本当に、すごく綺麗です……!」
フィリアが潤んだ瞳でそっと私の手を取る。その温かい手に、私は少しだけ居心地悪そうに視線を逸らした。
「……無駄口はそこまでです。主役のお出ましですよ」
会場のざわめきが静まり、壇上の扉が開かれた。
生徒会長ユリウスにエスコートされ、第一王女クラリスが静かに姿を現す。




