旧校舎の地下ダンジョン(後編)
地下回廊の最深部、巨大なドーム状の空間に足を踏み入れた瞬間、四方を青白い燐光が照らし出した。
壁面一帯に広がる、夜空の星々を閉じ込めたかのようにきらめく鉱脈。
「……あれが、星銀鋼の原石ですわ!」
セリアが歓声を上げる。だが、その神秘的な光景に見惚れる暇はなかった。
――グォォォォォン……!
鉱脈を守るように鎮座していた二体の巨像――古代の防衛機構たる『重装魔導ゴーレム』が、青い魔力光を両目に灯して重い足音を響かせた。
分厚い石と金属の装甲に覆われた巨躯。まともにぶつかれば一撃でミンチにされかねない威圧感だ。
「……鬱陶しい番人ですね。採掘作業の妨害は即座に排除します」
私は欠伸を噛み殺しながら、ポケットから小さな錬金道具を取り出した。
「セリア、左の個体の関節部に低圧の突風を打ち込みなさい。重心を三度傾ければ自重で姿勢を崩します。……シズク、武器がなくとも十分です。中央の個体が腕を振り下ろした瞬間、この『錬金楔』を肩の魔力循環弁へ差し込みなさい」
放り投げた金属の楔を、シズクが見事に空中で掴み取る。
「心得た……!」
「いきますわよ! ――風よ集いて、刃と化せ《ウェントゥス・コエイット・イン・グラディウム》――『風刃切断』」
セリアの放った鋭い旋風が左のゴーレムの足首を正確に削り取り、巨体がバランスを失って壁へ激突する。
その隙にシズクが地を蹴った。驚異的な体幹と反射速度で、振り下ろされたゴーレムの剛腕を紙一重でかわすと、魔力弁へ迷いなく楔を深々と突き立てた。
――バチチッ!
魔力回路がショートし、一体のゴーレムが活動を停止して崩れ落ちる。
「残るは壁に張り付いているもう一体ですが……フィリア、出番です」
「はいっ!」
フィリアが満面の笑みを浮かべ、担いでいた巨大な鉄製ツルハシを両手で構え直した。
エルカ謹製の手甲が淡く発光し、彼女の生体強化と衝撃波がツルハシの切っ先へと収束する。
「えーいっ!」
――ドゴォォォォォンッ!!!!
凄まじい轟音と共に衝撃波が炸裂し、残る一体の頑強なゴーレムが、まるで乾いたクッキーのように粉々に粉砕されて岩壁へ埋没した。
「…………」
「…………」
セリアとシズクが、口をあんぐりと開けて静止する。
「……相変わらずの規格外ですわね」
「ツルハシの一撃で古代兵器を粉砕するとは……恐るべき剛力……!」
「えへへ、エルカ様のおかげで力が無駄なく伝わるようになりました!」
フィリアは照れくさそうに笑うと、粉砕されたゴーレムの背後に露出した鉱脈へ向かい、リズミカルにツルハシを振るい始めた。
サクサクと掘り出される、透き通るような青銀色の鉱石塊。
「純度九十九パーセント。これだけあれば、刀の打ち直しと鞘の増幅ギアの素材まで十分に足りますね」
麻袋に鉱石を詰め込み、私は満足げに頷いた。
「さあ、労働は終了です。埃っぽい地下からさっさと脱出しましょう」
地上へ戻り、旧市街の老舗菓子店『ヴェルナー堂』へ寄り道した頃には、西の空が茜色に染まっていた。
「……んんっ……!」
テラス席で、焼き立てのハニーワッフルを口に運んだ私の口から、思わずとろけるような吐息が漏れる。
外側は驚くほどサクサク、中はふんわりと温かく、最高級の結晶蜜が舌の上で濃厚な甘みとなって広がっていく。
「ふふ、エルカ特待生は本当に幸せそうなお顔をなさいますわね」
セリアが紅茶を優雅に飲みながら、満足そうに微笑む。
フィリアも美味しそうにワッフルを頬張り、シズクは手元の鉱石の袋を抱きしめながら、しみじみと呟いた。
「皆の協力のおかげで、素材は揃った。……エルカ殿、セリア殿、フィリア殿、この恩は決して忘れん」
「礼を言うのは、あの頑固親父に刀を打たせてからにしなさい」
甘い蜜の香りに包まれながら、四人の絆は確固たる形を結び、次なる『新刀の誕生』へと向かい始めていた。




