生徒会長の査問
「……対価、か。平民の特待生が第一皇子に向ける言葉としては、これ以上ないほど不敬だな」
ユリウスは感情の読めない声で呟いた。
だが、その氷のような青い瞳には、怒りではなく冷徹な値踏みの光が宿っている。
「ユ、ユリウス会長……! エルカ特待生は言葉遣いに少々癖があるだけで、他意はありませんの! どうかご容赦を――!」
セリアが必死に割って入ろうとするが、ユリウスは静かに片手を上げてそれを制した。
「下がっていろ、ヴァレンシュタイン。……君がこの工房に入り浸り、わずか数日で術式の精度と魔力効率を跳ね上げた理由は、今の一手で理解した」
ユリウスは一歩、私の作業机の前へと進み出た。
プラチナブロンドの髪が、夕暮れの陽光に冷たく光る。
「エルカ。貴様が演習場で見せた手甲の細工、副会長の第四階梯の強制解体、そして今の結界干渉……。どれも現在の魔法学の教科書には存在しない技術だ。……貴様は、どこでそれを手に入れた? 誰の息がかかった間者だ」
低く、刃物のように鋭い問い。
背後でフィリアが息を呑むのが分かった。
だが、私は動じるどころか、心底だるそうにボサボサの赤毛をかき上げた。
鼻梁の丸メガネをツッと押し上げる。
「間者、ですか。……想像力が貧困ですね。他国や他派閥の陰謀でしか未知の技術を説明できないのは、現代の魔術師の思考停止の証拠ですよ」
「なっ……!」
セリアが泡を食って口元を押さえる。
「……ほう。この私を『思考停止』と断じるか」
「事実ですからね。あなた方が『至高』と崇めている現代の魔術体系は、百年前の基礎理論から不要な装飾と利権だけを上塗りした、ただの非効率なパッチワークです。……数式を原点に戻して検算すれば、誰でも導き出せる初等力学に過ぎません」
「言うな」
ユリウスの眉がピクリと動いた。
彼ほどの天才であれば、エルカの言葉が単なるハッタリではないこと――魔術の根底を揺るがす『本物の視座』から放たれていることを、本能で察知してしまうのだ。
「ならば、その言葉が本物かどうか……試させてもらおうか」
ユリウスは懐から、一冊の古びた黒革の手帳を取り出し、作業台の上に滑らせた。
表紙には、王立大書架の最深部を管理する『至高封印術式』の複雑な幾何学陣が刻まれている。
「学園の大結界および中央大書架を統括する、王家秘伝の防護術式だ。現在、三系統の術式同期において謎の魔力干渉が発生し、宮廷魔術師団が三ヶ月かけても原因を特定できずにいる」
ユリウスは冷たい瞳で私を見据えた。
「貴様が本当に『数式の原点』を理解しているというのなら、この場でその干渉の原因を突き止めてみせろ。……できねば、学園の治安を乱す危険分子として、即刻退学および査問会へ引き渡す」
「会長、それは無茶ですわ! 宮廷魔術師団総出でも解けなかった難問を、こんな急に――!」
「いいでしょう」
セリアの悲鳴を遮り、私はあっさりと手帳を引き寄せた。
白衣のポケットから赤インクのペンを取り出す。
「もちろん……タダではありませんよ?」
「……よかろう。解けるものなら、な」
ユリウスの挑戦的な視線を受け、私は特製の錬金硝子を光らせながら、手帳のページをパラリと開いた。




