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赤毛の錬金術師は研究以外に興味がない〜魔力ゼロで追放された元筆頭錬金術師、オワコン学科から始める100年越しの復讐と学園無双〜   作者: あかぱん
皇太子殿下

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勉強令嬢

翌日の放課後。

旧錬金棟の静かな作業場に、コンコン、と控えめだが芯のあるノックの音が響いた。


「……誰ですか、こんな時間に」


私は作業台に散らばった古代術式の羊皮紙に目を落としたまま、ボサボサの赤毛を鬱陶しそうにかき上げた。


ギギィ……と慎重に鉄扉が開く。

そこに立っていたのは、昨日とは打って変わって取り巻きを一人も連れていない、単身の少女だった。


見事なピンク色の髪を優雅な縦ロールに巻き、背筋をピンと伸ばした公爵令嬢――セリア・フォン・ヴァレンシュタイン。

その胸元には、金のリボンで華麗にラッピングされた豪奢な小箱が大切そうに抱えられていた。


「ごきげんよう、エルカ特待生。……約束通り、王都最高峰『ル・ロワ』の特製マカロンを持参いたしましたわ」


セリアはツンと顎を上げ、誇らしげに箱を作業台の端へと置いた。

箱が開かれると、色鮮やかなピスタチオ、フランボワーズ、ショコラのマカロンが宝石のように並び、甘やかで香ばしいバターとアーモンドの香りがふわりと工房を満たす。


「……本当に買ってくるとは、物好きな公爵令嬢ですね」


「ヴァレンシュタイン家の人間は、一度口にした約束を違えたりいたしませんわ! ……それより、約束の『対価』をいただきますわよ!」


セリアは勢いよく、自前の分厚い魔導書と、夜なべして書き殴ったとおぼしき十数枚の羊皮紙を作業台に叩きつけた。


「昨夜、言われた通り第四階梯『嵐塵滅砕陣』の術式を最初から検算し直しましたの。……悔しいですけれど、貴女の言う通り、第3節の気圧展開式において下層の旋回速度が過剰になり、中心核にゼロ点二秒の魔力遅延が発生していましたわ。……ですが、ここから先の『温度差による気流の誘導』という理論が、既存の学術書をいくら探しても載っていませんの! 一体どういう理屈ですの!?」


鼻息を荒くして身を乗り出してくるセリア。

ピンク色の瞳の奥には、プライドの高さと同じくらい純粋な、知への渇望と悔しさがギラギラと燃え盛っていた。


(……なるほど。一晩でここまで自分の術式の欠陥を自力で洗い出してきましたか)


私はセリアが提出した数式を一瞥した。

字は焦りで少し乱れているが、計算のプロセスは極めて丁寧で、基礎が恐ろしいほど強固に叩き込まれているのが見て取れる。

ただ権力と才能に胡座をかいて威張っているだけの他の貴族生徒とは、根底にある『魔術に対する誠実さ』がまるで違っていた。


(……まったく。研究や学問に対して真摯な人間を無下に扱うのは、学者としての私の矜持が許しませんね)


心底だるそうに息を吐きつつも、私は無意識のうちにマカロンを一つ指先でつまみ、口へと放り込んだ。

サクッとした繊細な生地と、濃厚なガナッシュの甘みが舌の上に広がる。


「……うん、糖分の補給としては極上の品質ですね。脳の血流が促進されます」


「ちょっ……!? 人のお菓子を躊躇なく食べましたわね!?」


ふぁいか(対価)は受け取りまふぃた(ました)。んっ……そこに座りなさい、騒音令嬢」


私がボロ椅子を一つ指差すと、セリアは「だから騒音令嬢ではありませんわ!」と怒りつつも、素直にスカートの裾を整えて腰掛けた。


「いいですか。現代の魔法学は、風を『目に見える空気の塊』として強引に魔力で押し出そうとするから無駄な抵抗が生まれるのです。……フィリア、お湯の準備を」


「は、はいっ! すぐにお茶をお持ちしますね、セリア様!」


台所からエプロン姿のフィリアが、パッと顔を輝かせてお茶の準備に駆け出していく。

冷徹な元宮廷筆頭錬金術師による、理不尽で容赦のない、だが世界の真理を暴く『特別補習講義』が始まろうとしていた。

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