風の綻び
「全員、下がっていなさい! これ以上、我がヴァレンシュタイン家の名誉と風紀委員会の威信を泥で汚すことは許しませんわ!」
セリアは腰に手を当てて風紀隊を退かせると、自慢の細身の魔導杖――純白の柄に大粒の翠玉が埋め込まれた特注品を、両手で優雅に構えた。
夕暮れの風が、彼女の見事なピンク色の縦ロールをふわりと揺らす。
「認めますわ、赤毛の特待生。貴女が何らかの古代の小細工を弄していることは。……ですが、小手先の細工が通用しない本物の『至高魔術』をお見せいたします!」
セリアの全身から、これまでの取り巻きたちとは比較にならない濃密な魔力が立ち上る。
大気がキリキリと悲鳴を上げ、旧錬金棟の前庭に猛烈な旋風が渦巻き始めた。
「これぞ我が公爵家に代々伝わる、暴風を統べる第四階梯の奥義――!」
セリアは杖を天高く掲げ、朗々と響き渡る声で仰々しい詠唱を紡ぎ出す。
「――至高なる風の主よ、天刃束ね暴威を振るえ! 吹き荒べ、万象を切り裂く嵐の檻! 『嵐塵滅砕陣』!」
前庭の全方位から無数の風の刃が立ち上り、私を中心とした半径十メートルを逃げ場のない竜巻の檻が包み込んだ。
木々が軋み、石畳がめくれ上がるほどの破壊力。
「どうですの! この術式は全方位からの気圧差で獲物を拘束し、微小な風刃で切り刻む完全結界! いかに小細工を弄そうと、逃げ場はありませんわ!」
勝ち誇った笑みを浮かべるセリア。
暴風の檻の中心で、私はボサボサの赤毛を激しく乱されながら、メガネを直した。
(……はあ。やはりダメですね)
特製の錬金硝子越しに見れば、その術式は穴だらけだった。
風を幾重にも束ねたせいで、中心部の気圧が急激に低下し、循環の結び目が過負荷で悲鳴を上げている。
「……第3節の詠唱。なぜ『主』に対する形容詞の格を間違えているのですか」
「な……っ!?」
暴風の轟音の中、私の平淡な声がなぜかセリアの耳朶へ鮮明に突き刺さった。
「発音の不一致により、術式の中心核にゼロ点二秒の魔力遅延が発生している。さらに、気圧差で拘束しようとするあまり、下層の旋回速度が上層の三倍に達している……これでは、足元の気流を少し突くだけで、自重で自壊しますよ」
「な、何をでたらめを……っ! 我が家の秘伝術式に、欠陥などあるはずが――!」
「風とは、無理やり縛り上げるものではなく――温度差で『導く』ものです」
私は右手の錬金調律器のダイヤルをカチリと二段回した。
先端から放たれたのは、熱エネルギーを急速に奪い去る極小の冷却アンプル。
調律器を宙へ向けて一閃し、静かに最短の起動句を紡ぐ。
「――熱を奪い、風を従えよ」
シュァァァッ……!
竜巻の中心核に冷気触媒が着弾した瞬間、暴風の温度バランスが瞬時に崩壊した。
セリアが必死に維持していた風の檻が、エルカの調律器の描く幾何学軌道に沿って、強引に『逆回転』を始める。
「なっ……!? わ、私の魔力が……術式の主導権が、奪われて……!?」
「循環を反転、臨界点を破棄。……霧散しなさい」
私が調律器を軽く振ると、猛り狂っていた暴風の檻は、まるで最初から存在しなかったかのようにパッと四散し、心地よいそよ風へと変わって消え失せた。
「う、嘘……私の……私の第四階梯が……っ!?」
術式を強制解体された反動で、セリアはよろめき、膝をつきかけた。
その瞬間――
トン。
風の四散と共に一瞬で間合いを詰めた私の足音が、セリアの目の前で鳴った。
「ひっ……!?」
セリアが顔を上げた瞬間、彼女の白く細い喉元には、銀色に冷たく光る錬金調律器の先端がピタリと突きつけられていた。
わずかでも動けば、急所を突かれる間合い。
「勝負あり、ですね」
見下ろす私のメガネの奥のジト目には、冷徹なまでの静寂が宿っていた。
ピンク色の縦ロールを乱し、セリアは恐怖と信じられない思いで、息を呑んだまま完全に硬直していた。
ここまでお読みいただきありがとうございます!
「エルカの無双をもっと見たい!」「展開がスカッとした!」と思っていただけましたら、
画面下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、執筆の大きなモチベーションになります!
ブックマーク登録もぜひよろしくお願いします!
――――――――――――――――――――
▼【別作品のご案内】
「無骨なメカアクション×TS美少女無双」が好きな方はこちらもぜひ!
『オーバーライド!〜通りすがりの美少女(中身おっさん)、たまたま拾った最新兵器で無双する〜』
https://ncode.syosetu.com/n5028mp/
元現場整備士のおっさんが、儚げな美少女に転生!?
誰も扱えない規格外の最新魔導兵器を、職人知識と覚醒能力でぶん回す爽快メカバトルです!
――――――――――――――――――――




